第九十一回 鳥獣虫魚 | マタタビ堂  

第九十一回 鳥獣虫魚

こちらも梅雨入りした次第ですそうです是清です。


おかげでガーデニングもはかどるちゅうもんですよ


カンラカンラ。


先日疾風のように巷を歩いておりました。


どこというわけでもないのですが


ミリオンダラーベイビーを見に久しぶりに


映画館に猪突していた次第です。


小雨がパラパラ降ってきたのはちょうどその時でした。


僕は用もないのに買ってしまった一張羅のストライプの


スーツを着ていました。


たまにはクローゼットの深遠からひきずりだして


日の光にさらしてやろうかと思って。


さっきまであんなに高く登っていた眩い


太陽がいつの間にか厚い雲の裏に隠れていました。


「まいったぜ」


意味もなく格好をつけて駐車場を横断します。


現在13時半。開演は50分なのです。


館内に滑り込んで、肩口ではじけている


雨の滴を指で弾き飛ばしました。


しだいに雨足が強くなってきて


一服しているうちにやるせない程降って来ます。


「こんなの着てくるんじゃなかったぜ」


反省します。


家でジンジャーエールでも飲みながらカウントベイシー


オーケストラの演奏でも聞いてりゃよかった。


ですね。


だが時すでに遅しです。


僕は上着を脱いで片手にからめ、チケットを買いに


行きました。


平日の昼間ゆえ、がらがらだったです。


見終わって出てきた時には雨は止んでいました。


去来する様々なシーンの断片で、ぼんやりしながら


車に戻りました。


「今度はもっと晴れた日にこいつを着よう。釣りなんか


してみるのもいいな」


埠頭で竿を投げている自分を想像したりします。


さて、これからどこへ行くかな。


あんなにうんざりしていたスーツも


こうなるとやけにしっくりくるからふしぎです。


今日の一言


      「人生で価値のあるものは笑いだけだ」


                          マイクライリー