総選挙の最大の争点は原発?消費税?TPP?外交・安保?_04 後半
総選挙の最大の争点は原発?消費税?TPP?外交・安保?_04 後半
前半→ http://ameblo.jp/konrad-nachtigall/entry-11427364863.html
結論としては、「有権者は、各党の政策セット・政策パッケージ全体、その合理性を判断して、自分がどの党に投票するか決めるしかない」ということです。
けれども、これは、そう容易な作業ではありません。 情報を収集して知識を豊富にし、また、論理的な思考力を鍛え、なおかつ、時間をかけて各党の政策を検討する労を惜しまない、ということが求められます。
「情報を収集する」という点では、まず、「2次情報で満足しているようではダメだ」ということが言えます。 さらには、「日本語情報しか得ていないようでは、不充分だ」とも言えます。 すなわち、「各国の官公庁や民間の調査・研究機関、また、政党・企業・業界団体・労組・市民組織等、そして国際機関の出している生の資料に当たらなければいけない」ということです。 しかも、英語情報だけでは、足りません。 日本やアングロサクソン系の社会とは異なるタイプの社会についても、そこの社会システムがどうなっていて、何が上手くいっていて、何が上手くいっていないのか、原語資料から読みとる必要があります。
私自身はドイツ語ができますが(独検1級)、それでも情報収集力がまだまだ貧弱だと感じています。 特に、英語やドイツ語を介してしか北欧の事情を知れないというのは、隔靴掻痒です。 大学生の読者、あるいは、「まだ選挙権は持っていないけれど、日本の行方が気になってこの記事を読んでいる」という意識の高い中高生のみなさんは、ぜひ、語学学習に力を入れて、できれば第2異言語(第2外国語)まで それなりには読みこなせるレヴェルに到達するよう、がんばってください。
「一応英語は読めるけど、仕事が忙しくて1次情報の収集なんかやってらんないよ」という社会人は、信頼性の高い本を読むしかないでしょう。 「信頼性の高い本」というのは、岩波・有斐閣・ミネルヴァ書房・日本評論社というような「真っ当な出版社」が出している単行本です。 「いやいや、ハードカバーを読む時間すら、確保が難しい」という場合には、岩波新書・中公新書でしょうか。 講談社現代新書は玉石混交、良書も多いのですが、ヘンな本は本当にヘンですから、注意が必要です。 数をこなしているうちに、おかしな本は見分けがつけられるようになるとは思いますが。
ともかく、保守的な志向を持った人でも、革新的な立場の人でも、ネット上の日本語情報の中から自分に都合のよい話だけをつまみ食いして、「これが真実だ」などと思い込んでいるようでは、正しい判断を下せません (偶然に結果オーライという場合もあるでしょうが)。 人間 政治のことだけを考えて生きていけるわけではありませんが、例えば、「隔週で週末に2~3時間程度を、きちんとした社会科学系の本を読むのに充てる」いう風にすると良いでしょう (社会人の場合。 もちろん、ネット上で原語の1次情報に当たる能力と余裕がある人は、そうするのがベター)。
「論理的な思考力を鍛える」という点に関して言うと、「俺は論理的に考える力が強い」と、何の根拠もなく自惚れているだけでは、何の意味もありません。 レイモンド・スマリヤンの本、あるいは、論理クイズの新書などを購入して、「明らかな答えがある問題について、きちんと正解を出せる」ように訓練する必要があります (元々論理力のある人なら、ブルーバックスあたりの論理クイズ本の水準では物足りない(易しすぎる)かもしれません。 スマリヤンをお勧めします)。
私自身は、今年(2012年)の「法科大学院全国統一適性試験」の第1回目試験で、「論理的判断力をはかる問題」の結果が24問中22問正解でした (受験者4753名中51位)。 まだまだ修行が足りないと感じています。 これからも論理力を鍛える努力を続けていくつもりですが、肝心なのは「楽しんで学ぶこと」だと思います。 これは、語学学習にも通じます。 例えば、「○○語の歌を聞く」「○○語のジョーク集やアンサイクロペディアを読む」「論理クイズを解く」というのが趣味・娯楽になれば、金はなくとも精神的には豊かな生活を送るのに役立ちます。
選挙は今回1回きりではありませんから、12月16日の投票日以降も、上で触れたような努力を続けて、「社会の現状に照らし合わせて、各党の政策セットの全体としての妥当性を判断できる」という知的な力を養成・維持することは、主権者に課せられた義務でありましょう。 とは言うものの、「投票日の前日に『本を読め』『論理力を鍛えろ』だの言ったって、今さら遅せーよ」 「今度の選挙はとても大事な選挙だと思うから真剣に悩んでいるのに、悠長なことばかり言われても困る。」 「私は今、正にあんたが『01』~『03』で書いてきたように、『この点では○○党を応援したいのに、別の点では○○党を支持できない』というジレンマに陥っている。 政党選択のための役に立つ基準をきちんと提示してほしい」 「お前はどういう政策パッケージが一番いいと思っているのか。 それをはっきりさせろよ」という方がいらっしゃるかもしれません。
けれども、私が今ここで「Hidyの理想とする政策セット」を開示することに、意義はありません。 私が「これが、あるべき公約集だ」と提示したところで、あなたは、私の主張を受け入れて、それに近い立場の政党を選びますか? はなから「○○党しかない。 それ以外はカス」と決めつけて 他者から学ぼうという気を元々持ち合わせていない方は、私がどんな政策パッケージを示したところで、ご自身の主張を変えないでしょう。 逆に、「Hidyの意見を鵜呑みにするつもりはないが、説得力のある部分については取り入れたい」という 知的に誠実な方は、根拠なしに結論だけを開帳されたところで、その結論は受け入れられないでしょう。 けれども、きちんと根拠を説明しようとしたら、それこそ本1冊くらいの長さになってしまいそうです。
かといって、このシリーズをここで終わらせるわけにもいかないでしょう。 これをお読みの方が何名いらっしゃり、そのうちの何名の方が、この記事から何かを得よう・学ぼうという知的に積極的な姿勢でいらっしゃるのか分かりませんが、もしもそのような読者が1人でもいらっしゃれば、その願い・要求に応えなければいけないでしょう。
では、「政策パッケージの総合評価を下すには、知識が足りない」という有権者は、とりあえず明日の選挙で、どのような基準に照らして政党を選べばいでしょうか?
それは、「1つ1つの個別政策を通じて最終的に達成したい、究極の目標」というか、「これだけは ないがしろにすることができない」という根本的な価値、「ここをはずしてしまったら、他の全てもダメになる」という「要」になるもの、それをはっきりとさせることです。
そうなると、「個人の価値観」という話になってきます。 では、「1人1人が自分の価値観に照らして、『私にとって最も大切な価値を実現してくれる、あるいは守ってくれる党は、ここだ』という政党に票を託せば良い」という結論なのでしょうか? 客観的な意味で「正しい政策」などは存在せず、「1番良い政策」「最も優れた政党」というのは、常に「誰誰にとっての」という限定詞付きでしかありえないのでしょうか? 答えは、とりあえずは「Yes」です。
とはいうものの、ここで思考停止してしまっては、いけません。 この「04」の初めのほうでも触れましたが、「ある1つの目標を達成しようとして、そこにばかり集中して、むしろ、その目標を踏み外すことになった」という現象は、しばしば見られます。 価値観は人それぞれであり、他から強制されるものではない、ということは守らなければなりませんが、しかし、「整合性のある価値観・矛盾のない価値観」とそうでない価値観とがあることは、確かなようです (「上位の価値 – 下位の価値の連鎖、ピラミッド構造」というイメージで、「価値体系」と呼ぶほうがより適切か。 ドイツ語では Wertsystem と言います)。 例えば、「おいらにとっては、美味い物をたらふく食うのが、人生で一番大切なことだ」という人がいて、その人が自分の価値観に忠実に生きたら、カロリーの摂りすぎとか栄養のアンバランスとかのせいで体を壊してしまい、最終的には「美味い物をたらふく食う」ことが出来なくなってしまう、つまり、自分の価値観が自分の価値観をぶち壊してしまう。 このような「自己破綻をきたしてしまうような価値体系」では、ダメなわけです (まあ、そのような価値観を持つことも、個人の自由といえば自由ですが)。
では、「自己破綻をきたさない価値体系」 「持続可能な価値体系」とは、どのようなものなのでしょうか? その最上位に据えられるべきは、いかなる価値なのでしょうか? 次回「05」(最終回になる予定)では、それを考えましょう。
(遅くとも日曜の早朝にはUPしなくては! がんばらなくては…。)