Bさんとの交際を1回目のデートで断ることに決めた僕は、「いつまでも引っ張っては、Bさんにも悪い」と思い、デートした2日後の火曜日に相談員Aさんに断りの電話を入れてしまった。相談員Aさんは、残念そうにしながらも、「じゃあ、またこちらにプロフィールと写真を見に来てください」とだけしか言ってくれなかった。この時、「あと2~3回会ってみて、それでもダメだと思うならその時はまた考えましょう」と、交際を続けるようアドバイスしてくれれば良かったのにと思う。なぜなら、後で振り返ってみると、このBさんはその後お見合いした約30人の中でも、学歴、年齢、居住地などの条件が僕の希望にとても良くマッチしていた上、何よりもBさん自身が僕のことを気に入ってくれていたからである。1、2度しか会っていない段階で、僕のことを気に入ってくれた人はBさんと現在の結婚相手も含めて、お見合い約30人中3人しかいなかった。だから、お見合いでは、こちらが気に入ること以上に相手に気に入ってもらうことが大切であり、もし気に入ってもらえたのなら、絶対にその相手を断ってはダメである。


 これは、約2年後に母を通じて相談員Aさんから聞いたのだが、Bさんは僕以前にも何度かお見合いをしていたがうまくいかず、母親から「何とかならないか」という話が相談員Aさんにあったのだという。そんなところに、僕の母親が相談所を訪れて、僕のことを相談したのだが、相談員Aさんによると、Bさんの母親と僕の母親は似ており、また家庭環境や早く結婚したいという考え方も一緒だったので、「これはうまくいくだろう」と、僕の母親や僕にBさんを薦めたのだと言う。


 一方、Bさんの方は、なかなかうまくいかない状況のところに、僕がお見合いを申し込んだということもあってか、僕のことをとても気に入ってくれており、お見合いの後も「いい人に出会えた」と喜んでいたという(相談員Aさんも、その辺りの状況をもっと詳しく教えてくれていればと思う)。Bさんが僕のことを気に入っていたのは、メールの文面などで分かってはいたが、当時はお見合い一人目だったので、「こんなものか」としか思っていなかったのが悔やまれる。Bさんを僕は絶対に断るべきではなかった。今振り返ると、一人目のBさんを断ったことが3年間でお見合い30回失敗という苦しみを招いた最大の原因である。


 なぜ、Bさんを断ってしまったのか。「写真と見た目が違っており、ルックスがイマイチだった」「一回目のデートで非常に疲れてしまい、合わないのではないかと思った」のが直接の理由だが、結局は「お見合い一人目でこのレベルなら、あと何人かとお見合いすれば、もう少しいい人と出会えるのではないか」と、欲張ってしまったのだ。しかし、この「欲張り」こそ、婚活がなかなかうまくいかない大きな原因の一つである。そして、「お見合い一人目」が一番自分の希望に近い人であることが多いことを後で知った。


 お見合いを始めて約2年後の婚活に行き詰まっていた頃、お見合い業界では、「仲人さんから最初に紹介してもらう人が一番いい人である」と言われていると聞いた。なぜ最初に紹介してもらう人がベストなのか? お見合いの紹介を頼まれると、仲人さんは自分のネットワークの中で、一番うまく話がまとまりそうだ思われる相手を紹介するからである。つまり、縁談がまとまりそうな可能性のある人の中で、一番釣り書・写真の良い相手を最初に紹介してくれるわけだ。それで、うまくいかなければ、二番目、三番目に良い人というように、お見合いを重ねれば重ねるほど、基本的には釣り書・写真の質が落ちてくるのである。唯一の例外は、最初に紹介してもらった人を超える人が新規入会してきた場合だが、それはいつになるか分からないし、もし入ってきたとしても当然他の同性もその新規入会者を狙っているため競争が激しく、お見合いできるかどうかも分からない。だから、お見合いは最初に紹介してくれた人とゴールインするのがベストなのだ。しかし、僕自身よく考えれば分かるはずの「最初の人がベスト」ということが全く分かっておらず、「もっといい人」と欲望ばかり先走っていたのである。


 では、なぜそんな風になってしまうのか。自分の釣り合う相手のレベルが分からず、希望的観測だけで「もっといい人がいるのでは」と考えてしまうのが原因である。お見合いは、自分が努力すれば合格できる試験のようなものではない。お見合いには、相手がいる。プロ野球・楽天イーグルスの野村監督が「その人の価値は、他人の評価によって決まる」と言っているように、自分の価値は相手がどう思うかによって決まるのである。ところが、人間は謙虚な人でも、自分のことは過大評価しており、「自分はそこそこいけてる」と思いこんでいる。また、たとえ客観的に自分のことを見られたとしても、お見合いには同性の競争相手がいる。いくら自分は「一流大学卒、一流企業勤務、年収○○○万円」「有名女子大卒、一部上場企業のOL、ルックスも性格も悪くない」と思っても、そんな人は他にもゴロゴロいるのである。


 だから、お見合いをする人は、よくよくお見合い市場の中で、自分の価値がどれほどなのかを考えなければならない。そのためには、自分の価値、つまり同世代の異性からの評価を知る必要があるが、それには同世代の異性がお見合い相手に何をどの程度求めているか(ルックス、年齢、学歴・職歴(年収)、性格、価値観など)を知る必要があるが、この女性の本音がなかなか分かりにくいのだ。仲人さんなどに聞いてみても「人それぞれですからね」などと言って、ちゃんと教えてくれない。


 それで、僕自身、色々本を読んだりもしたのだが、「今の女性は年収600~700万円以上の男性を求めている人が多い(しかし、年収600万円以上の26~34歳の「未婚」男性は、年収の高い首都圏でも3~4%しか存在しないという。元々数が少ない上に、目ざとい女性に早々と刈り取られた結果である)」ということは分かった。その他、性格とか価値観とか色々なものを男性に求めているようだ。とにかく、女性は男性に求める希望項目の数が多く、そのレベルも非常に高いようである。それは、僕たち男性からすると、「一体何様のつもりだろう」と怒りを覚えるほどの上から目線なのだが、はっきり言って周りの男性や親、テレビや雑誌などのマスコミが若い女性に気に入られようと、耳に心地良いことばかり言って甘やかしてしまったのが原因の一つではないかと僕なんかは思う。


 一方で、じゃあ男性の方はどうかといえば、「もっと若くて美人でナイスバディで癒し系の子がいいなあ」と思うばかりで、自分を省みて女性への希望条件を下げるということがなかなかできない(もてない君ほど女性の見た目にこだわる傾向がある。異性には自分にないものを求めてしまうので、仕方がないとは思うが)。だから、男性も女性も、お見合い市場での自分の価値(同世代の異性からの評価)は、自分が思っている以上にかなり低いと考えた方がいい。「この程度なら、どう見てもこちらの方が断然上だし、先方は絶対に受けるだろう」と思われる相手に、僕は釣り書やお見合いの段階で、次々と断られた。一体なぜなのか、僕のどこが不足なのか全く分からず、挙げ句の果てには親や仲人さんから「お見合い時に女性への接し方が間違っているのではないか」と男として散々なことを言われ、自分に自信をなくし、自己嫌悪に陥った。それほどまでにお見合いとなると、異性からの評価は厳しい。


 結局、男性も女性も、自分を過大評価しているのに加え、結婚相手への希望が高過ぎるのである。お互い大幅に希望条件を下げない限り、この「お見合い市場における男女間の需給ギャップ」は絶対に解消されない。そして、結婚したくてもできない30代、40代の男女がますます増え、わが国の少子高齢化がさらに進行し、さまざまな歪みが社会に現れるだろう。そう、今のニッポンを良くする鍵は、30代で婚活をしている人たちが握っていると言っても過言ではない。彼らが自分の意識を変え、結婚の条件を大幅に下げ、相手の弱点を許し、自分の弱点も許してもらえれば、まだ道は開けると信じている。