しずくは、初めてボラさんから託された乳のみ猫でした。
母猫に置いて行かれてしまったのか、鉄塔の下、雨上がりのぬかるんだ地面で、必死に鳴いていたそうです。
背中に水玉模様のある、白黒ちゃん。
しずくと名付けた小さな命に、家族全員が夢中になりました。
けれど、しずくは間もなく感染症を発症し、一緒に過ごせたのは、たったの9日間でした。
こんな風に健やかな寝姿を見せてくれたのは、初日だけ。
高熱が出て、口内炎もひどくなり、ミルクも受け付けず、日に日にやせ細っていきました。
朝から夕方まで病院に預け、注射や補液、テント室で吸入もしていただき、夜だけ連れて帰る毎日。
小さな体に、日に何度も針を刺さなければならず、獣医さんも看護師さんも、もちろん私も、しずくと関わる全ての人が、申し訳なさと助けたい気持ちの入り混じった、厳しい時間を共有していました。
毎回の授乳も、胃に直接カテーテルで入れていたので、ミルクのおいしさも分からないまま逝ってしまったと思います。
本来なら、とっくに淘汰されている命です。
手を差し伸べるべきではなかったのかもしれません。
生きてほしいという人間のエゴが、却って苦しい生を課してしまう場合もあるし、あの時の自分が本当はどうするべきだったのか、未だにわからないまま…
それでも、お腹をいっぱいにしてあげることすらままならなかった私に、しずくは沢山の出会いを遺してくれました。
その後、私は猫ボラになり、多くの優しい里親様と巡り合うことができました。
しずくの他にも、低体温やFIPで助からなかった子、衰弱が激しく、センターから連れて帰る途中で亡くなってしまった子など、見送るしかないケースもありましたが、幸せになってくれた子たちも多くいます。
しずくよりも年下の子たちが、1歳になり、2歳になり、3歳を迎え、元気いっぱいの写真が今でも届き、気持ちを温めてくれます。
それでも、ふと、思うことがあるんです。
他の人が保護していれば、あの子は助かったのではないか、と。。。
命を預かるには、勇気が要ります。
覚悟も要ります。
梅雨の晴れ間にやってきて、梅雨明けを待たずに、虹の橋を渡ったしずく。
季節が巡る度によみがえる、つらい記憶です。