【アーティストプロフィール】
◇柚木 恵介YUNOKI Keisuke
東京藝術大学大学院美術研究家空間造形専攻修了
法政大学デザイン工学部システムデザイン科教育技術員(2015~)


【インタビュアープロフィール】
◇松永 小百合MATSUNAGA Sayuri
テキスタイルアクセサリー作家、コモゴモ展立ち上げメンバー
◇松田 環MATSUDA Tamaki
漆芸家、コモゴモ展立ち上げメンバー


なんとも興味をそそられる「 物々交換 プロジェクト」
そんな活動をされているアーティスト、
柚木 恵介さんのインタビューを3部構成でお届けいたします。


 

 


松永 小百合(以下 M)
柚木さんには、去年の12月と今年の1月に「物々交換」で
コモゴモ展にも出展して頂きました。
まずは、自己紹介からお願いします!

 

 

柚木 恵介さん(以下 Y)
僕は、仕事としてはデザイナーと教員をやりながら、
週末や休みの期間にアーティスト活動をしています。


 

 

 




M
コモゴモ展でも出展された「物々交換プロジェクト」とは
具体的にどのような活動ですか?


Y

いろんなことをやっているんですけど、いま一番継続して
やっている活動ですね。

主に地方などのいろいろな場所に行くんですが、

時には行政と一緒になって、地域の方々と「物々交換」をして、
その土地をアーカイブしていく、そういう活動をしています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



自分で物々交換所となる屋台を持って行くんですが、
いろんなやり方があります。
コモゴモ展のように
一ヶ所にとどまりながらやる場合と、
実際に
屋台で地域を移動しながら、時にはピンポンを押して
玄関先で、「こんにちは!」なんてことも。

 



M
ピンポンを押して…!
「突撃!隣の晩御飯」みたいですね。



けっこう、メンタルに来ることもあるんだけどね。
訪問販売をやっているような気分になってきて、
時には怒られることもあるし。
基本的には、行政を通じて回覧板や広報誌などで
一ヶ月前には告知をしてもらいます。


 

 

M
前もって知らせてもらうわけですね。
不審者じゃありませんよ、って(笑)。


 

 

 

 

それでも、怒られることも多くて…。
「誰だ!?」みたいな。

 

 

 


 

 

松田 環(以下 T)

みんながみんなその情報(広報誌等)を見られるわけじゃないし、
確かに、私だったら玄関あけないかもしれない…(笑)。
時にはそんな辛い思いもしながら続けているんですね。


 


そうですね。
特に過疎化した地域の行政や役場などが期待してくれていることは、

「物々交換」がひとつの話題やきっかけになって、
おじいちゃんやおばあちゃんの楽しみをつくったり、

 

 

 

 



「うちにも来たで~!」 
「うちはこんなものを交換したわ~!!」

みたいな話題が少しでもできたらいいなと思って
プロジェクトを進めていますね。


本当に、すごくいい感じで言うと、
「コミニュケーションを創造する」というか。


 

 

 

 


 

 

「物々交換」という手法を用いて、相手となんらかの
コミュニケーションを作る。
また、その交換した物が違う人のもとに行って、
次のコミュニケーションを生む。
最初に持っていた人と、その次の人が交換したことによって、
なんとなく架空のコミュニケーションがまた作られて…
というのが続いていく。
そういった結果を楽しむ、という目的でやっています。


 

M

それを記録として写真に残していくんですね。






T
骨董屋さんでちょっと買い物をして、買った物の
由来なんかを妄想するお客さん、みたいな感じかな。


 

Y
正直、地域でやるとお隣さんちに物が移動するだけのような
ことにもなるんだけど…。
それでも、お金じゃない価値を見出すというか、
「まあ、これだったらこれと交換してもいいよ」っていう、

何かしらのコミュニケーションのきっかけになるような、
そういうものを目指しています。


 

 

 

 

 



M
この活動を始めるにあたって、何かきっかけはあったんですか


 

Y
たしか、2009年が最初だったんだけれども、
台東区と藝大が連携した「上野タウンアートミュージアム」という
プロジェクトがきっかけでした。

デザイン科のプログラムで、教員がそれぞれ学生と一緒になって
チームを組んで、商店街の中に新しいお店のような個人の小屋を
立てようということから始まって。

ただ、何かしらの機能がないと面白くないと思って、
行き交う人々とコミュニケーションをとるための場所を作りたい。
その手法として「物々交換」を始めました。

はじめは実験的にやっていたので、
果たして「物々交換」で
コミュニケーションが成り立つのか…という思いもありました。
本当にこんなに長く続くとは思っていなかったので。

それからは上野公園でもやったりとか。
みなさん意外に抵抗なく交換をしてくれるので、
「ああ、こういう感じなんだ」と思って。

 

 

 

その後、2010年に香川県の小豆島でもやったんですが、
その時は2週間ぐらいかけて交換をしました。
上野と小豆島を合わせて120人近く交換したのかな。

それで、一度このプロジェクトは終わりにしたんだけども、
最近作品制作やプロジェクトをやっていく中で、

自分の中で、もうちょっと続けようかなと思って。

今度は自分からアクションを起こして、展開する場所を
いろいろ考えながら、1年間で5回ぐらいやろうかなと思い
再スタートをしました。




そこから、最初にお話しいただいた行政や地方を回って、
という活動になっていったんですか?



Y
 そうです。 最初は本当に何かイベントがあったり、
行政からの依頼があった時だけにやっていました。

 

 

 

 

 

 
 

作品を作っていく中でいろんなパターンの物があると思うんだけど、
長い軸でずーっと続けていける物もなにか欲しいなと思って。



M
ライフワークのような?
 

Y
そう。それで続けてみようかなと思って。
例えばね、ワークショップも
いろんなところでやるんだけれども、
1回きりで終わるので。
自分が死ぬまで続けてみるっていう活動の一つとして、
「物々交換」を選んでみたんです。


 

 

 

自分の子供がまだ2歳なんだけど、父ちゃんが何やっているか
全然意味が分かっていないけど、ちょくちょく来るんだよね。

小学生くらいになって、「お前の父ちゃん何やってんの?」
とか言われた時に、「なんか、物々交換やってんだけど…」
「何それ、意味わかんね!」みたいな感じになってもいいのかなと。


きっとずっと続けるから、死んだ時に何か残っているわけでしょう?
それまでにどのぐらいやってるのかわからないし、
全然価値のないものかもしれないけど、パカっとトランクを開けたら、
膨大な写真が残ってて、
「うわっ!」って思われるぐらいやってみたいなって。


               
M
何十年と積もり積もった写真が…。
やるなら、そのぐらいやりたいと?



Y
それくらいやらないと、交換してきたっていうのも言えないかなと。
そういうのを目指しています。


 


 

M
今のところ、何人ぐらいの方たちと交換したんですか?

 

 

 

Y
たぶん、530人ぐらいの方と交換しています。


 

 

 


 

M
去年から再開して、
すごい数字ですね!
前に、ちらっと嵐の日の辛かったエピソードを聞いたんですけど、
そのあたりのお話を聞かせてください。


 

Y
はい(笑)。とあるお店の前でやった時なんだけれども、
初日に凄い雨が降って、台風が過ぎる最後の日だったのかな。
ものすごい暴風雨の中で一日中やったんだけども、
まあ、交換したのがたったの3つっていう…。



M
暴風雨の中で!それでも3つあったのが驚きです。




そうそう。それまでの最低記録だったんだけれども、
ある意味どこでやっても3つクリアできればなんとかなるな、
というバロメータにはなったので。
どこでやってもまずは3つを常に目指して、「よし!3つ超えた!」
とか、「これで、今日はもういいや」とか。

余談なんだけど、友人が映像のイベントをやった時の話で、

最初におばあちゃんがひとり来てから、ずっと待ってたんだけど
なかなか人が増えなくて。そしたらその友人が、
「一人でも来てくれれば、その人のために上映できる」って。
それ聞いて、すごい前向きだなと思って。

 


T
ひとりでも来てくれれば…。

 
 
Y
そう
。まあ、そんな気持ちがありますね。 
をお手本にして、僕もそういう気持ちでやっています。


 

 

 



M
土地柄とかで、交換される物の雰囲気が変わったりとかは
あるんですか?


 

Y
ありますね。例えば香川県の小豆島でやった時は、
うどんだとかそうめんがやたらと多かったり(笑)。
お歳暮でもらったサラダ油セットとか。

小豆島ってオリーブオイルの栽培がすごく有名なんだけど、
みんなオリーブオイルを使うので、サラダ油をもらっても
使わないみたいで。「いいんですか?!」って。



M

活動を再開してからの「物々交換」はどうですか?


Y
去年は、上野公園でお花見をしながらの交換もしました。 


T
あの、ごった返しているお花見の場所で ?


Y
そうです。お酒を飲みながら、自分たちがお花見をしながら、
上野公園にお花見に来る人たちと交換するというのをやっていて。 

 

T 
交換していく中で、自然とお酒が増えたり(笑)。
 

Y
本当はこういうコタツを出してやる予定で、交換した人も
一緒になって飲んじゃう!みたいなことをやりたかったんだけど、
上野公園では机を出したりするのが禁止で。

それで、そのためにコタツを自作をしたんだけど使えなくて。 
 

M
もったいない!
コモゴモ展なら使えますけどね(笑)。

 

 

Y
DMを作って、僕の友人とか仲間に招待状を送って、
それで
、上野公園では2回やったのかな。


 

 

 

 

 

 

M
コタツいいですね、DMのこの感じ!イラストもすごくいいです。
こんなお花見なら飛んでいきたいです!


第2部では、昨年12月のコモゴモ展での様子と、
柚木さんの単身タイに渡っての活動をご紹介します!



 

 
 

【アーティストプロフィール】
柚木 恵介(YUNOKI Keisuke
鹿児島県生まれ
東京藝術大学大学院美術研究家空間造形専攻修了
法政大学デザイン工学部システムデザイン科教育技術員(2015~)
柚木 恵介HP:http://yunokikeisuke.com/