相次ぐ食品の放射能汚染問題を受け、外食チェーンが放射能の自主検査を強化している。


だが、その検査内容はバラバラで、一概に効果があるとは言い切れない。


低価格イタリア料理店「サイゼリヤ」を全国に878店舗展開するサイゼリヤの堀埜一成社長は、


「外食チェーンの放射能検査は中途半端で、単なる売り上げ対策にすぎない」

と断言する。


業界にはびこる食材の産地偽装など、慣習を変える必要性をも指摘する。


--外食チェーンの対応が中途半端だと指摘する理由は何ですか。


国の定める暫定基準値1kg当たり500ベクレルを正確に測るには、ゲルマニウム半導体検出器が必要だ。


だが、この測定器は日本に100台程度しかない。


購入費用が高く、一つのサンプルを処理するのに1時間かかり、前処理にも半日以上かかる。


仮に1日24検体×365日×100台で計算すると、1年で88万弱の検体を日本中で測定できるが、肉用牛だけでも日本全国で約120万頭出荷されている。


外食向けの食材は全体から絞られるものの、各社は口をそろえて「全頭・全量検査」という。


しかし、それをどう実施するのか、根拠が示されていない。


当社も含めて、各社が使用している測定器は簡易型のシンチレーションカウンターだ。


この簡易測定器をいかにうまく使うかが重要になったくるが、他社を見ているとやり方がお粗末。


そういった意味で、中途半端なやり方だと見ている。


--簡易測定器しかないなら、効果が出る方法は何ですか。


結果ではなく、プロセスを重視することだ。


全体の工程の中で、最も危険率の高い食材を厳選し、外部でサンプル処理する。


自分たちでは食材そのものを測定しない。


当社では、福島県白河市で200戸強の農家と契約し、レタスやトマト、コメなどを調達している。


社員が足を運び、外部環境をモニタリングしながらどの食材の危険率が高いか、分析する作業を継続的に行っている。


具体的には社員にシンチレーションカウンターを持たせて白河から西郷まで毎日、ホットスポットを調査している。


並行して、各市町村のホームページから放射性物質が飛んでこないかもチェックしている。


意外と知られていないが、最近、最も放射線量の変化があったのは8月の台風だ。


大雨では動かなかった。


こうした産地の特徴を押さえたうえで、食材周辺の環境検査をする。


コメの場合、土、水、成長した稲の茎などすべての放射線量の環境値を測定している。


そこで最も高い値の結果が出たものを抜き出す。


路地栽培はこの方法で検査し、選んだ食材をゲルマニウム半導体検出器がある外部に委託し測定する。


未検出となれば使用可能となる。


一連の流れがあるから食材に自信を持てるわけで、とりあえず「全量検査」ということはしない。


ゲルマニウム半導体検出器の数が限られている以上、外部環境のモニタリングから始めて、サンプルを厳選するしか、安全性は担保できないのだ。


商社を通すから偽装が発生する


--食材のみに目が行くと、どうなりますか。なぜ、多くの外食チェーンは、そうなってしまうのですか。


たとえばテレビで肉の脂身にシンチレーションカウンターを当て、暫定基準値以下です、とアピールしている会社がある。


セシウムは赤身にしか入らないので、脂身に当てても意味がない。


企業PRを優先するから、外食チェーンの自主検査は危なっかしいと見られてしまう。


なぜ食材のみに目が行くかというと、商社を通して食材を買っているからだ。


サイゼリヤは農場を買っているようなもので、商社を通していない。


変な商社は入れ替えや産地偽装を平気でやるので信用できない。


当社では2008年に中国に生産委託していた冷凍ピザ生地の一部から微量のメラミンを検出して返金を行った痛手もあり、特に直接買い付けの重要性を感じている。


--産地偽装はそう簡単に起きるものですか。事実なら、外食チェーンの自主検査は形骸化するのでは。


われわれが初めて福島県の農家に行ったとき、新潟県魚沼産の袋が大量に置いてあった。


何に使うのか、と聞いたところ、詰め替えて1万円高く価格を吊り上げて売るという。


統計データを見たらすぐにわかる。


魚沼産の生産量と市場に流通している量では、圧倒的に生産量が少ない。


直接買い付けが難しくても、産地を絞ればいい。


いろんなところから買うから、商社に頼らざるをえなくなる。


スポット発注も増え、ますます安全性を確認しづらくなる。


各社の自主検査は全量を標榜する時点で形骸化しているが、仕入れ段階でもすでに危ないものが入っているというのは、消費者も知っておくべき。


また、牛やコメは産地のロンダリングが有名だが、今年はコメで”年度偽装”が起こってくるだろう。


--外食は売上高100億円未満のところがほとんどです。商社に頼らざるをえない、体力がない企業は、どうすればいいですか。


経営者が現地を見に行け、と言いたい。


現地に行き、生産者と話し、箱や袋のラベルを確認すれば、ほぼ偽装の過程がわかる。


われわれはサイゼリヤ野菜生産者協会に生産委託し、協会が各農家に割り振り、必要数量を納めるといったスタイルを取っている。


他にも、単一農協から仕入れるケースがある。


たとえば、ドリア用のコメは北海道空知地区にある岩見沢の農協から仕入れている。


社員には、生産地に足を運んだとき「トラックのナンバーを見てきたのか」と聞いている。


「産地偽装していないか」とカマをかけて電話するだけで、コメの品質が変わる団体も中にはいる。


放射能問題で消費者の懸念が高まっている以上、生産の現場で何が起きているか確認するのは、外食企業として当たり前のことではないか。


--汚染リスクの高い福島から調達先を変えることはないですか。

それはない。


コメの場合、福島からの調達は5500トンのうち1500トンと、割合が大きい。


福島の農家とは、当社が18店舗しかないときから付き合っている。


放射能よりも、信頼のない取引先と付き合うほうがリスクが高い。


双方の信頼があるから、確実に安全なものを出せる。