●垂水市早崎・早咲大橋【地図】

220_12_28.jpg

 中学生の頃、ある学習雑誌の付録がきっかけで、石に熱中していたことがあった。付録についていたのは鉱物標本だった。小さな箱の中に、それがなんだったのか忘れてしまったが、小さなきれいな石が8つくらい並んでいた。学校の行き帰り、ひろった石を家に持って帰りきれいに水洗いし、理科の教師に借りた鉱物図鑑と夜通し見比べていた。ひろって帰った石は、どれもただの石ころだった。
 その理科の教師が、図鑑には載っていない鉱物の写真を見せてくれたことがあった。ただの流紋岩に見えたが、小さな空洞の中に六角形の黒っぽい結晶が光っていた。大隅石というんだと教師は教えてくれた。「鹿児島県垂水市咲花平」と発見された場所が書き込まれていた。私はもちろん、教師も「咲花平」をなんと読むのかわからなかった。
 大隅石は日本で六番目に発見された新鉱物、つまりそれまで存在が知られていなかった鉱物だったのだ。国内では2003年末までに93種類の新鉱物発があった。大隅石の発見は1956年に報告されている。流紋岩中に最大でも2ミリほどだが、黒色から濃青色でガラスのような光沢を放つ結晶として眠っている。
 実物を見たいなあと思っていたが遂に果たせず、そのうち熱もさめ大隅石のことなどすっかり忘れていた。鹿児島に来てからもそうだった。ところがその熱をふいに思い出した。
 早咲大橋を歩いていた。欄干に埋め込まれた銘版を見て、早崎に架かる橋なのに「早咲」か。桜島のコノハナサクヤヒメにひっかけたのかな、などと思っていた。だが、しばらく歩いたところに架けられていた「橋名の由来」を見てはっとした。〈早崎の頂部は「咲花平」として…肝付氏が島津氏と最後まで戦った古戦場…〉で、早崎と咲花平を組み合わせたものだと説明されていた。「さっかびらと読むんだ」35年来の疑問が解け、なつかしい理科の教師の顔と、キラキラ光る黒い結晶が浮かんだ。
大隅石はOsumiliteの名で海外でも知られている。鹿児島の人でも聞きなれない咲花平という地名が、鉱物研究の領域では世界的に知られているのだ。
 その新鉱物が発見された場所の真下に立っているというのは、ちょっとした興奮だった。すぐにでも斜面をよじ登ってやろうかと思ったが、とんでもなく急峻だった。35年かかってここまできたんだ。もう少し時間をかけてもいいか。そう思い直して足をすすめた。

【写真】 咲花平の麓を縫うように走る早咲大橋
【撮影場所】 早咲大橋対岸、桜島より
【国道220号】 起点宮崎市~終点国分市 185.6km 県内総延長 93.7km
====

 koshiki2.jpg
こしき海洋深層水株式会社