AC長野パルセイロ vs tonan前橋:観戦レポート | ここからJリーグ

AC長野パルセイロ vs tonan前橋:観戦レポート

悪夢から一晩

 人生をかけた大きな目標を達成できなかった瞬間というのを、だいたいどんな方でも経験したことがあると思う。本命にしていた大学を受験して落ちた、希望の会社に就職できなかった、失恋をした・・など。あまり思い出したくないことを思い出させてしまったかもしれないが、今のAC長野パルセイロは正にそんな状況だった。地域決勝出場がかかった準決勝では後一歩のところで、しかも同じ信州でライバルの松本山雅FCに敗れての敗退。私がこの場でいくら言葉を並べても表現しきれないくらいに辛く、昨日は夜も眠れない状況だったはずだ。ピッチに姿を現した選手たちは建前では平然を装っていたようだが、プレーからは覇気が無くなっており、かなり重く辛い表情を見せながらプレーをしていた。AC長野パルセイロは心身ともに疲れきっていた様子だった。

 それでもAC長野パルセイロはいつもどおりに丁寧にパスをまわして格下のtonan前橋のゴールを襲う。しかしシュートが枠を逸れたり、後一歩のところで相手の守備にかかったりと詰めが甘かった。

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最後に一矢報いたい・・

 tonan前橋は堅守から縦に速い攻撃を武器にするチームだ。準決勝ではツエーゲン金沢の攻撃を前半44分までしぶとく跳ね返してみせた。この日、AC長野パルセイロを相手にしてもtonan前橋はしっかりと引いて対応した。序盤はサブのメンバーが出場したからか、なかなか効果的なカウンターを仕掛けられず苦戦する。しかし守っていればチャンスは訪れるもので、前半の終盤には惜しいシーンをいくつも見せて奮闘する。28分には小仁所洋平のフィードから渋谷友史が最終ラインを抜け出して相手GKと交錯しながらシュートを放つが枠をとらえられなかった。失うものがなく、自然体で試合に臨んだtonan前橋はツエーゲン金沢戦より自分たちのサッカーが出来ていた。

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パルセイロが実力で押しきる

 ハーフタイムを終えてピッチに選手が姿を現す。AC長野パルセイロの選手たちはいつも通り、ベンチ前で全員円陣を組んで気合を入れた。「勝って長野に帰るぞ!」とはAC長野パルセイロのサポーターから発せられたエール。AC長野パルセイロは5日間熱い声援を送ってくれたサポーターのためにも、ここまで勝ち進んできた自分たちのためにも意地を見せなくてはいけなかった。

 改めて奮起したAC長野パルセイロがようやくチャンスをものにしたのは後半18分だった。AC長野パルセイロは右サイドをドリブルで侵入した高田一憲がクロスを上げると、ニアサイドに詰めていた藤田信が頭で流し込んだ。待望の先制点を奪ったことで歓喜と安堵が入り乱れる。AC長野パルセイロは後半の残り半分を今までどおり守りきって勝利・・するはずだった。

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ラストチャンスで叩きこんだ同点弾!

 tonan前橋も組み合わせに恵まれたラッキーだけで勝ちあがってきたチームではない。一貫した戦術をきちんと持っており、粘り強く勝利を目指してきたからこそここに立っている。後半に入るとハーフタイムに関根秀輝、後半18分に間島公和、後半27分に東田学と休ませていた主力を次々に投入して反撃の姿勢を見せた。しぶとく、しぶとく攻め続けると奇跡は後半ロスタイムに起きた。

 tonan前橋は左サイドのCKを得ると、居ても立ってもいられないGK山本隼が攻めあがるだの上がらないだのとベンチと揉めだす。それほど残り時間がない状況でのCKだった。キッカーの広沢佑兵があげたクロスボールは東田学が頭で逸らしてゴール前に居た関根秀樹の元へ向かう。すると関根秀輝はこのチャンスでしっかりとボールをゴールの中に流し込んだ。次の瞬間に会場が歓喜とどよめきに包まれたのは言うまでもない。そしてどよめきの中で主審から次に告げられたのはタイムアップの合図だった。

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勢い余った逆転勝利!関東2部のtonan前橋が3位決定!

 こうなったらtonan前橋は止まらない。前回王者に、強豪のAC長野パルセイロから奪った劇的な同点弾を栄養剤にしたtonan前橋は、延長へのインターバルを挟んで勢いをそのままに、サイドが変わったAC長野パルセイロのゴールを襲い続けた。延長開始0分に自陣で柳澤宏太がボールを持つと一旦前線の関根秀輝に預ける。DF2人を背負う形でボールを受けた関根秀輝は分かってましたと言わんばかりに迷わずヒールでDFの背後にボールを蹴りだす。すると、駆け上がっていた柳澤宏太が再びこれを拾って前進した。tonan前橋が得意とする縦への速攻を見せた瞬間だ。得意の形で抜け出した柳澤宏太はそのまま中央にクロスを入れると、これを受けた間島公和はクロスボールを頭で直接ゴールに叩き込んだ。勢いをそのままに歓喜で狂乱するtonan前橋。tonan前橋は疲れを忘れたかの様に献身的に残り20分間を守り続けて、この日3度目の歓喜の瞬間を迎えた。tonan前橋は関東2部ながら強豪ひしめく全国社会人サッカー選手権大会で3位に入賞した。

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AC長野パルセイロ 1-1
(0-0)1
0ex1
tonan前橋
後半18分13藤田信

後半39分9関根秀樹
延長前半0分28間島公和

戦い抜いたパルセイロ

 もはや試合巧者としてのAC長野パルセイロの面影はなかった。ロスタイムに受けた傷口は延長開始早々に広げられる。歓喜で入り乱れるtonan前橋の選手の傍らで呆然と立ち尽くすAC長野パルセイロの選手達を見ると、そのオレンジの背中から漂う悲壮感にはこちらまで泣きそうになってしまった。これがウ○イレであったらコントローラを投げ出してリセットボタンを押せば済むだけの話だが、現実世界ではそうはいかない。刻々と過ぎる長い20分の中で再びtonan前橋のゴールを襲いにかかるが覆すことは出来なかった。

 AC長野パルセイロは気持ちの整理がついていないだろう中で3位決定戦を戦った。AC長野パルセイロは何とか先制点をもぎ取った。AC長野パルセイロは逆転されても延長戦の最後まで戦う姿勢を見せた。最後までプロフェッショナルを見せてくれたAC長野パルセイロの選手達に心から敬意を表さなくてはならない。

 AC長野パルセイロの今シーズンはこれにて幕を閉じる。オフシーズンにどうなるかは分からないし、ライバル3チームが決勝大会のしかも別々のグループリーグに入ったことで来年のリーグがどうなるかも分からない。無責任なことを言うつもりはないが、ヴィエイラ監督率いるAC長野パルセイロに来年もこのままチャレンジしてほしい。来年、さらに強くなったAC長野パルセイロが全国の舞台で活躍するのを楽しみに待っている。

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