1次ラウンド2日目。昨日に始まり明日に終わる3連戦の2日目は既に勝負を分ける一戦でもある。1日目で勝利した松本山雅FCは勝てば突破へ大きく前進し、PK負けを喫した沖縄かりゆしFCは負けたら即終了の背水の陣となっていた。戦前に予想されていた両者の戦力関係は互角。1点を争う均衡した好ゲームが期待されていた。
互いに様子を見ながら入った前半戦。まず最初に攻めの姿勢を見せたのは沖縄かりゆしFCだった。沖縄かりゆしFCは正確なロングフィードと正確なクロスを松本山雅FCの最終ラインに放り込んでチャンスをうかがう。前半3分に右サイドのCKから櫻田真平が頭で合わせて惜しいシュートを放つなど、立ち上がりは沖縄かりゆしFCが多くのチャンスを演出した。
相手の守備を崩すために、得意とする攻撃パターンを繰り返すのはひとつの方法だが、時には個人の力で打開することも有効な手段となる。たとえばドリブル、たとえば直接FK、たとえば強烈なミドルシュート。個人技は拮抗しているときこそその威力を発揮してチームに活力をもたらす。この試合の均衡を破ったのは木村勝太、松本山雅FCの背番号9だった。
それは前半15分に起こる。前線で構えていた木村勝太は後方から放り込まれたボールを足元に収めるとそのままPA内へ進入する。しかし木村勝太の前には沖縄かりゆしFCの守備陣がしっかりと構えており、既に閉塞状態になっていた。次にどう展開してゴールに迫るのか、木村勝太が下した判断はドリブルだった。木村勝太はマークされていた沖縄かりゆしFC杉本勇樹をかわしてボールを中央へ運ぶと左足を振りきってボールをゴール左に蹴り込んだ。木村勝太の個人技で先制した松本山雅FCが状況を打開する待望の先制点を奪った。
先制された沖縄かりゆしFCはまったく焦らなかった。プレーを再開してもその失点が無かったかのように松本山雅FCの守備を突き続けた。さすが九州王者といったところか。自分たちのサッカーを貫けば得点は時間の問題、再開後のプレーの一つ一つから勝者になる自信が満ち溢れていた。
変化を見せなかった沖縄かりゆしFCに対して松本山雅FCは大きく変わる。得点したことで守備への意識が高くなり、沖縄かりゆしFCの攻撃を封じる。攻撃も得意のカウンターが主体となって発動し、リスクを犯さなかった。
そして試合は急展開へと導かれる。松本山雅FCは前半26分に右サイドのCKを得ると、そのクロスを山崎透が頭でぴったりと合わせてゴールへ叩き込んだ。松本山雅FCがセットプレーを有効に使って貴重な追加点を上げることに成功した。爆発的に盛り上がるアウェー側メインスタンド、沈黙に包まれるホーム側メインスタンド。会場は2つの表情でくっきりと分かれた。
誰がこの展開を予想しただろうか。私もここまではっきりと差がつくとは全く思っていなかった。沖縄かりゆしFCとてさすがに2点のビハインドは想定していない事態だったらしく、焦らざるをえなくなる。しかし焦って前がかりになることはすなわち松本山雅FCの十八番であるカウンターを許すことになる。
追加点の勢いが残っている前半28分、松本山雅FCのカウンターが発動する。今井昌太が右サイドでボールを保持すると、最終ラインの裏へ走りこもうとしている柿本倫明へ絶妙なロブを上げる。柿本倫明はこのボールを受けて最終ラインの裏へ抜けると、GK高橋信幸の動きをよく見ながら丁寧にゴールへ流し込んだ。目の前で起きている状況を淡々と飲み込んだ観客は何人いたのか、是非ともアンケートをとっておくべきだった。2分間で2点を追加した松本山雅FCが前半で3点のセーフティリードを得た。そしてこの3点は沖縄かりゆしFCの戦意を削ぐのには十分な点差だった。
後半のピッチに現れたのはまるで別人のようになった22人だった。ハーフタイムにどんな指示を受けてきたかは知らないが、リードしている松本山雅FCからは楽勝ムードが、リードされている沖縄かりゆしFCからは絶望のオーラがそれぞれ放たれてまるで集中を欠いていた。それでも形は追う立場の沖縄かりゆしFCが攻勢となる。沖縄かりゆしFCは前線に5人を配置してターゲットとしたが、ボールを前へと運べない。松本山雅FCのゆるいプレスに追いやられてはバックパスを繰り返した。
苦しい状況ながら何とかエンジンをかけなおした沖縄かりゆしFCは後半14分にようやく1点を返す。中央後方から飯島慎が浅野大地をめがけてロングフィードを送ると、浅野大地は曖昧になっていた松本山雅FCのマーカーを振り切って裏へ抜け出した。浅野大地はそのまま冷静にボールをゴールに流し込むと、すぐさまボールを拾い上げてセンターサークルへセットした。
セーフティリードを崩された松本山雅FCはようやく目が覚める。ただし、松本山雅FCは目が覚めたからと言って何かリスクを負ったアクションを起こすわけでもなく、徹底的に時間稼ぎをした。カウンターの形からどんなに決定的な場面が作れそうな状況になっても攻め込まず、ボールを回して時が過ぎ去るのを待った。耐え続けること30分、柿本倫明がコーナーフラッグ付近でボールを失ったところで試合終了が告げられる。松本山雅FCが昇格のライバル沖縄かりゆしFCに完勝した。
| 沖縄かりゆしFC | 1-3 (0-3) |
松本山雅FC |
| 後半14分20浅野大地 | 前半15分9木村勝太 前半26分3山崎透 前半28分10柿本倫明 |
この結果により松本山雅FCと沖縄かりゆしFCの勝ち点差が5に広まったため、沖縄かりゆしFCは一次ラウンド突破の可能性が消滅した。松本山雅FCは首位をキープしたまま最終日のレノファ山口FC戦を迎える。松本山雅FCは引き分け以上で一次ラウンドの突破が決まる。
第一試合の結果を受けて、レノファ山口FCが自力突破を達成するにはPK負け以上の結果が必要だった。ところがPK負けでは勝ち点差が3になるため、最終日で松本山雅FCに勝っても+8点もある松本山雅FCの得失点差を上回るのは至難の業だ。そのため、より現実的に突破を目指すなら2日目の浜松大学FC戦に勝つのが最善だ。そして欲を言うなら勝ち点で並んだときのために少しでも多くの得点を取っておく必要があった。要するにレノファ山口FCに求められたのは浜松大学FCに大量得点勝ちをすることだ。
大量得点勝利といわれれば一見すれば無理難題のようだが、過去のデータを見る限りはそうでもない。浜松大学FCは全社で沖縄かりゆしFCに6-0で敗れており、つい昨日の松本山雅FC戦も6-0で敗れているからだ。沖縄かりゆしFCに引き分けたレノファ山口FCが浜松大学FCから6点以上を奪うのは非常に現実味を帯びた目標だった。
前半は浜松大学FCが積極的に攻める。慎重に試合に入ると落ち着いてボールを回し、中盤を支配した。それでもレノファ山口FCの守備を崩すには至れず、遠目からのシュートに終始した。守備では徹底的にボールを外に蹴り出して安全性を重視する。昨日の大敗がよほど衝撃的だったのか、浜松大学FCは過剰なまでに守備で安全な選択肢を選び続けた。
9得点が必要だったレノファ山口FCは、どうも様子がおかしい。レノファ山口FCは浜松大学FCの攻撃に対して丁寧に跳ね返すことしかせず、積極的に攻撃を仕掛けなかった。終盤にこそ両サイドの高い位置を起点に得意のサイド攻撃を仕掛けたが、決定的なシュートはわずか1本、25分に左サイドのクロスから柏原渉が頭で合わせた1回のみだった。前半の45分間はほとんど見せ場が無いまま終えた。
レノファ山口FCが攻勢に出たのは後半になってからだった。前半から続けていたサイド攻撃から浜松大学FCのゴールを襲う。最初の決定的な場面は後半4分。右サイドを突破した柏原渉はフリーで中に走りこんでいた中川心平にグラウンダーのクロスを上げる。浜松大学FCのDFとGKを振り切った完璧なチャンスを迎えた中川心平は勢いをそのままに左足でボールを捉えてゴールへと送り込んだ。しかしこれはポストに当ててしまい、得点には至らない。このまま無得点で終えてしまうのか。焦りを感じさせず淡々とプレーをするレノファ山口FCの選手対して、山口県から駆けつけたサポーターからは怒号が投げ込まれる。何でもっと攻めない。点を取らなきゃ首位の松本山雅FCを追い越せない。
ところで、この日の主審はあまり上手な方ではなかった。ジャッジの基準が曖昧でスタンドのフラストレーションは事あるごとに上昇していった。ピッチにいる選手のストレスはもっと高かったことだろう。相手が主審である以上耐えるしかなかったが、耐え抜いたことで事態が好転することもあるようだ。
それは後半10分の出来事となる。浜松大学FCの土田太陸が混戦でラフプレーととられて主審に2枚目の警告と退場を言い渡された。確かに警告に値するプレーではあったが、釈然としない。土田太陸は味方選手になだめられながらも気持ちを抑えられず、着ていたユニフォームをピッチ脇で脱ぎ捨てるとスパイクを脱いで控え室へと去っていった。土田太陸の非紳士的な態度は許されるものではないが、ピッチ内のフラストレーションはかなり高騰していたといえる。何はともあれレノファ山口FCの追い風は自然と吹いた。
浜松大学FCが一人少なくなったところで試合の主導権は完全にレノファ山口FCに譲渡される。そしてレノファ山口FCが待望の先制点を奪ったのは後半20分になってからだった。右サイドをドリブルで深く進入した福原康太がDFを振り切ってクロスをあげると、クロスは中川心平を経由して中央にフリーで走りこんでいた安田忠臣の元へと渡る。安田忠臣はこの難しくも決定的な場面で丁寧にゴール左隅へ流し込んだ。待ちに待った先制点を挙げた安田忠臣は自身のユニフォームを掴んでサポーターの元へと走った。
先制点を挙げたレノファ山口FCだったが、これで終わるわけにはいかない。少しでも一次リーグ突破の可能性を高めるためには大量得点が必要だからだ。サポーターの元へ走っていった安田忠臣はベンチから早く戻れと怒鳴られる。遅くなったがようやくレノファ山口FCの第2戦は始まった。レノファ山口FCベンチはスーパーサブの兒玉光史を投入して追加点を奪いにいった。
そして試合は動く。レノファ山口FCの2点目は後半26分。兒玉光史のスルーパスから抜け出した藤井仁詩がゴールに流し込んだ。完全に波に乗ったレノファ山口FCは後半28分にも勢いをそのままに3点目を奪う。兒玉光史がPA内でDF2人を交わしてゴールに叩き込んだ。レノファ山口FCは狙い通りを通り越してお約束となった兒玉光史の活躍でリードを3点に広げた。
浜松大学FCも一人少なくなったからといって諦めたわけではない。低くなっていた重心を選手交代で高くしてバランスをとると、起死回生の一発を狙い最後まで諦めない姿勢を見せた。しかしレノファ山口FCの壁、全国の壁はあまりにも高かった。あと一歩の決定的な場面を演出するところで仕事をさせてもらえず、最後までゴールを奪うことはできずに無得点で終える。
レノファ山口FCは後半35分に右サイドのFKから中川心平が頭で合わせて4点目を奪って浜松大学FCに止めを刺した。
| レノファ山口FC | 4-0 (0-0) |
浜松大学FC |
| 後半20分9安田忠臣 後半26分13藤井仁詩 後半28分兒玉光史 後半35分中川心平 |
サッカーで4-0といえば十分なスコアだが、一次リーグを突破するにはぜんぜん足らないスコアだった。レノファ山口FCは最終日となる明日、首位の松本山雅FCと対戦する。勝ち点差が1のため、90分以内で勝てれば勝ち点で上回って一次ラウンド突破が決まる。しかしPK勝ちでは勝ち点で並んでも得失点差で上回れない。つまりレノファ山口FCは90分以内で勝つしかないのだ。ところがもし9得点以上を達成できていれば、レノファ山口FCは一次ラウンド突破の条件に「松本山雅FCにPK勝ち」という選択肢を追加できた。
レノファ山口FCが攻撃的になったのは後半に入ってからだった。レノファ山口FCはなぜ今日の試合で大量得点を取りにいかなかったのだろうか。松本山雅FCや沖縄かりゆしFCが浜松大学FCからそれぞれ6点ずつ奪えるのだからレノファ山口FCもそれ以上のスコアは十分な目標になったはず。本気になれば9点は獲れたかもしれない。最初から無理と割り切っていたのか、リーグのことは考えずに試合に入ったのか、まさか計算ができなかったのか。いずれにせよ理解に苦しむ。浜松大学FCを押し込むだけの実力が無い?そうは見えないが。
ぶつくさ言ってみたものの松本山雅FCに勝てばよいという条件は変わらない。レノファ山口FCは2年連続の一次ラウンド突破を賭けて最終日に松本山雅FCと対戦する。