メンバーの多様性を活かすには――4つのポイント【リレー連載⑪ 中嶌聡/はたらぼ】 | くろすろーど

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中嶌聡/NPO法人はたらぼ
第6回:多様性を活かすには


活動開始から1年が経つころには、メンバーは2倍以上になった。
メンバーが増えるとどこでも課題になるのが「多様性」の問題である。
多様性とは、組織において多様なメンバーが混在することを指すが、一歩踏み込んで、ここでは「多様なメンバーがどうすれば活きるか」という問題意識で考えてみたい。


なぜ参加者が固定化するのか

1年経ったとき、「メンバーの数は増えているのに、参加者は固定化が進んでいる」という問題が起きていた。
ある程度できてきた組織の文化に「合う」「合わない」をそれぞれが感じるようになってきたのだ。

当時の活動は、団体交渉研究会と団体交渉にほぼ絞られており、参加メンバーを一言で表現すると、「団体交渉など、直接的な解決への活動に意義を感じ参加したいと思う人」だった。

そして「緊迫した場面は苦手だが、みんなとゆるやかにつながりを持ちたい人」はなかなかメンバーとして参加しづらい状況になっていた。
実際そのようなメンバーが当事者であった場合、団体交渉と次回の団体交渉の間は、組織の他の活動にも参加しづらく、引き籠もりがちになっていることがわかったのだ。

こうした組織文化が作られた大きな要因は、役員であった当時の私の志向性にあった。
私自身が解決志向型で、何か具体的な課題を解決すること、要するに個別の労働問題をどんどん交渉して解決していくことに重きを置いていたのだ。
一方で、無目的(と感じてしまうよう)な交流が苦手だったのである。


「多様性」についての発見

当初、私は、この課題を解決するには私自身が変わる必要があると感じていた。
交流会にも意義を見いだせるにように自分が変わるべきだと考えていたのだ。
役員が多様性に対する幅を持たなければ、組織に多様性は生まれない。
だから今の組織の課題は自分の課題だと考えていた。

しかし、どうにも、ただ交流するだけの会を運営している自分が想像できない。
この問題はメンバーと一緒に考える中で解決した。
交流会を運営することがそんなに苦じゃないというメンバーが運営に手を挙げてくれたのだ。
「得意な人に任せよう」とは常に考えてきたが、実感したのはこの時だったように思う。

つまるところ、組織の多様性を担保していくためにも、メンバーの多様性が必要だったのだ。
個人で無限の多様性を受け入れるしかないと、自分を責める必要はなかったのである。
多様なメンバーで多様なメンバーを受け入れていけば良い、と自覚し始めた。
そして多様なメンバーの取り組みの中に参加することで、自分自身の多様性も自然と広がるのではないかと考え始めたのである。


レクリエーションの意義

最初に取りかかったのは、「ユニオンカフェ」という月1回の交流企画だ。
16時~22時くらいまでの時間で集まりたいメンバーが集まり、買いだし、料理、配膳、片付けをする企画だ。
重視したのは、ざっくばらんにフリーに交流してもらうこと、共同作業(買い出し、料理、配膳)の時間を組み込んだことだ。
共同作業中の偶然のコミュニケーションから関係性ができる、という必然性を作り出したかったのだ。

ユニオンカフェの進行については、「自由に交流してください」と伝えるだけでも難しく、仕切りすぎても交流しにくい。
このバランスをどうとるかは難しかったが、時々のメンバーがアイデアを出し合った。
そうしてユニオンカフェは、団交やミーティングに参加しないメンバーも集まる最も人気の定例イベントになっていった。

共同作業の中で、メンバー同士は、互いの新たな得意分野を見つけた。
例えば、スーパーのフルーツ売り場でアルバイトしたことのあるメンバーがマンゴーのうまい切り方をみんなに伝授したり、日本料理屋で働いていた料理人が誰でも作れる秘伝のおいしいカレーレシピを実演したり、音楽活動をしているメンバーが一曲披露したり、動画作成をし始めたメンバーがこれまでの取り組みをビデオでまとめて上映したりといったことができた。
これらは普段の団体交渉や会議では出番のなかった特技だった。
多様なメンバーが混在してはいたが、団交や会議だけだと埋もれていた強みが、ユニオンカフェを通して開花したのである。


自分たちをチェックする「多様性委員会」


その他、働き方を抜本的に改善していくための政策を考えたいメンバーで集まる「政策提言会議」や、役員が提起する議題ではなく、参加者からみんなと話し合いたいテーマを募り、議題毎に小グループに分かれてディスカッションする「ユニオンバズ」などが毎月の取り組みに加わった。

さらに女性役員メンバーが中心となって不定期で女子会が開催されたり、企業にセクハラ・パワハラ対策を求めるのであればと、自分たちの組織内においてもセクハラ・パワハラがないかをチェックして対応する「多様性委員会」が設立された。
この委員会では、メンバーにアンケートを採り、組織活動内におけるヒヤリハットの事例を集めて全体に共有し、相談窓口を設置した。
このような取り組みで、健全な組織活動ができるように仕組みを整えていったのである。



多様性を活かすには


多様なメンバーが混在しているだけの状態から、メンバーの多様性が活かされる組織へ変わっていくまでには、いくつかのハードルがあった。

まず1つ目に、当たり前だが、自分と他人は違うことを自覚し、既成概念にとらわれず情報を共有すること。
自分が気の進まない行動も他人は「それならやりたい」となることがある。ユニオンカフェは良い事例である。

2つ目に、安全性である。活動に参加しても安全かどうか。
つまりは、個人情報をやたらと聞かれたり、参加したくないことにも強制で参加させられたりしないかどうか、である。

3つ目に、義務よりやりたいことや強みに基づいて役割分担をすることである。
多様性が最も活きるのは、その人の志向性と行動が一致したときである。
義務的な行動に費やされる時間が増えれば増えるほど、メンバーの多様性は無意味化されていく。
私たちは、組織の維持や発展のための必要な行動を、役職に基づいてではなく、やりたいと感じるかどうかに基づいてすることにした。
そして誰もがやりたいと感じないときは、現状の多様性と規模では難しいと考え、やらないという判断をすることもあった。


最後に、4つ目として重要なのは、ミーティングやイベントを「ファシリテーション」という技術を使って参加型にしたことである。
どんなにメンバーの関心が高いテーマでも、意見が言いづらく主体性を発揮しづらい運営方法では誰も行きたがらない。
これについては、次回で詳しく紹介したい。





なかじま あきら 1983年大阪府茨木市生まれ。大阪教育大学を卒業後、外資系人材派遣会社での正社員経験を経て、大阪の個人加盟ユニオンで活動。役員として4年間で200回以上の団体交渉を経験する。ネット中継やトークイベント等の新しい運動でも注目を集める。2013年に「NPO法人はたらぼ」を立ち上げ、代表理事に。ブラック企業淘汰を目指し、企業・労働者・行政の3者をつなぐ中間団体として活躍中。新聞・テレビ等からの取材多数。



イラスト 大江萌


※リレー連載「運動のヌーヴェルヴァーグ」では、労働組合やNPOなど、様々な形で労働運動にかかわる若い運動家・活動家の方々に、日々の実践や思いを1冊のノートのように綴ってもらいます。国公労連の発行している「国公労調査時報」で2013年9月号から連載が始まりました。