「ブラックバイト」に喰い潰される――労働運動の死角【リレー連載④ 神部紅/首都圏青年ユニオン】 | くろすろーど

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神部紅/首都圏青年ユニオン
第4回:「ブラックバイト」に喰い潰される


 アルバイト先を「ブラックバイト」と揶揄する学生が増えている。「ブラックバイト」は、低賃金・低処遇にもかかわらず、過度な責任やノルマ、義務などを課せられる。企業側は学生の学業や生活がひっ迫する事態を顧みない。総じて休みづらい、辞めづらい、賃金を請求しづらいといった特徴がある。

 例えば、レジの金額が合わない責任の押し付け。ノルマを課せられ、売れ残りを買い取らされる「自腹営業」。備品を壊したという理由で過大な賠償請求。契約すら無視して長時間拘束のシフトを組み、試験前でも休めないなど学業に支障をきたし大学中退を余儀なくされた学生。「辞めるなら求人広告料を請求する」「まず研修費用を払ってからやめろ」などと脅されるため、バイトを「辞めたいのに辞めさせてくれない」といった相談も数多く寄せられる。

 塾講師や家庭教師のバイトは、授業時間と時給を比べれば、他のバイトより賃金が高く見える。しかし授業の準備、待機、研修、報告日報、保護者への連絡などに費やす拘束時間で換算すれば最低賃金を下回るケースも散見できる。教材費や、自分の携帯電話からの保護者に対する営業やクレーム対応などの通信費も自己負担にされる構造だ。


 大手学習塾では、1コマに教科や学年の違う生徒を詰め込み、同時に教えさせるという“荒行”を押しつける。講師は準備などに2倍の労力がかかるので、労働者は割にあわないが塾にとってのうま味は増す。


 抗議しても「みんな生徒のためを思って働いているのに、お前は金のことしか頭にないのか」と、生徒への“愛”や“奉仕”を説く。これは、やりがい搾取だ。


 学生たちは気楽に自由にバイト先を渡り歩くイメージを持たれがちだが、実際は簡単には辞めさせてもらえず、辞められたとしても新たな就職先はそう簡単には見つからない。正規雇用の枠が政策的に減らされているもとで、バイトなどの非正規雇用に求職者が群がり、仕事を奪い合う状況も生まれているからだ。たとえいまの就労先が「ブラックバイト」であっても、一度辞めてしまえば、次の仕事に渡れる保証はない。



負のスパイラルから抜けだせない


 2012年の学生生活実態調査(全国大学生協連)によれば、下宿先の仕送り額の平均は月6万9,610円と、6年連続で減少。学生生活調査(日本学生支援機構)では、それにリンクするように、「家族からの給付のみでは修学不自由・困難」と答える学生は40.3%(2010年度)と、06年度から4.9%増加した。


 家族の学費や、生活費を補填するため奨学金を借りているケースも増えた。仕送りなどが足りない部分を「ブラックバイト」で補い、貧困ビジネス化している奨学金などにすがって、自分の学生生活どころか、家族の生活を維持するというなんとも倒錯した状況もひろがっている。


 「現場責任者」「バイト(パート)リーダー」「コアスタッフ」「コアキャスト」「主任バイト」「バイト(パート)マネージャー」などの役職名で粉飾し、中核的な業務をバイトに過重負担させているケースが増えている。損をするのは、こうした名ばかり責任者に任命された、まじめな者たちだ。


 バイトなどの非正規に基幹的業務が雪崩打つように移行している。低賃金で低処遇にもかかわらず、責任だけが膨張しているため、トラブル増加は必然なのだ。非正規雇用の比率の高い外食産業などでは、そもそも労働組合の存在しない企業が圧倒的だが、労働組合はこうした職場で満足に組織できていない。



「鮮度が落ちる」と雇い止め


 ㈱シャノアールが全国チェーン展開する喫茶店「CAFFE VELOCE」(カフェ・ベローチェ)は、5,000人をこえるバイト・パート従業員に対して、改正労働契約法の悪用と、「鮮度が落ちる」という驚くべき理由で不当な雇止めを強行。私たちは千葉店で働く首都圏青年ユニオンの組合員を原告として、シャノアールを昨年7月に提訴した


 それぞれの店舗に社員が1~2人が配属。1~2年で社員(店長)は配転されていく(千葉店の店長はこの6年間で6人も入れ代わっている)。一方、ユニオンの組合員をはじめ、長年勤務するバイト・パートは業務を熟知しているため、シャノアールは「時間帯責任者」なる“称号”と過大な責任や膨大な業務を担わせ酷使していた。


 新人育成、シフトの管理や調節、不足商品の発注。営業時間中に4回に渡って売上金の計算を行い、銀行入金や本社への報告も行う。営業に必要な備品、店舗で提供する食材の在庫がなくなれば自腹で買いに行かされることもある。雨が降るなどして入客数が少ない日は、売り上げが落ちる。そんな時は現場をまわしている「時間帯責任者」が、ほぼ同じ待遇のバイトやパートに帰宅の指示をすることが強要される。忙しいときはその逆で、シフトの有無を問わず出勤の指示をさせる。スタッフ同士の人間関係が悪くなるのは必至だ。6時間にわたるシフトに入ったら、まだ15分しか働いていないのに30分の休憩時間を指示するといった、非効率でずさんな時間管理が横行し、バイト・パートを物のように削ったり増やしたりと、調整弁として使っている。


 さらには、店舗を解・施錠する際に店長(社員)が不在だと、「鍵持ち」任務を負わされた学生たちがシフトに入っていない日でも出勤する。もちろん賃金や交通費は一切支給されない。有給も認めず、早出出勤や残業代も支払わない。パートの雇用保険の加入は恣意的に行っておらず、週20時間を超えないようにシフトコントロールされていたケースもあった。


 シャノアールは、「バイト・パートに休まれると店舗が回らなくなる」と労働強化をつづけていたのにかかわらず、“雇用の安定を図る”という法改正を脱法的に逃れるため「4年で使い捨て」を強行した。人事部長は、意図的に女子大生を雇っていたと発言してはばからなかったが、「学生アルバイトを中心とした、低コスト・低価格の気軽でライトな雰囲気のカフェ」「定期的に店舗従業員が刷新する体制を構築」する。これが“彼ら”の論理だ。


 最初は労働組合のない、非正規労働者が多くを占める職場からこのような労働条件の大きな変更が始まる可能性が高い。雇用も生活も破壊つくされ、奪いつくされ、骨の髄までしゃぶられ棄てられていく若者を、指をくわえてながめているだけでいいのだろうか。




首都圏青年ユニオン パート・アルバイト・派遣・正社員、どんな職業、働き方でも、誰でも一人でも入れる若者のための労働組合。労働相談の受付は、電話03-5395-5359まで。


じんぶ あかい 1982年生まれ。工業高校を卒業後、内装業やタイル工、デザイナーとして働く。正社員と非正規社員のどちらも経験。千葉青年ユニオン委員長を経て、2012年3月から首都圏青年ユニオンへ。現職は事務局次長。高校・大学での労働法講義や24時間営業店舗の夜回り調査、若者ホームレス支援、Let's DANCE署名推進委員会など、旧来の労働運動の枠を超えて活躍中。


イラスト 大江萌


※リレー連載「運動のヌーヴェルヴァーグ」では、労働組合やNPOなど、様々な形で労働運動にかかわる若い運動家・活動家の方々に、日々の実践や思いを1冊のノートのように綴ってもらいます。国公労連の発行している「国公労調査時報」で2013年9月号から連載が始まりました。