ノーベル賞受賞の山中伸弥さん「iPS細胞研究所の9割は有期雇用で不安定。正社員化へ頑張りたい」 | すくらむ

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 10月10日に放送されたNHKクローズアップ現代「ノーベル賞受賞 山中伸弥さんに聞く」。この番組のインタビューの中で、山中伸弥さんは次のように語りました。


 ――国際競争が激化する中で、特許を巡る戦いもあります。山中先生は研究と同時に、特許戦略というのを積極的に取り組んできたわけですけれども、いま海外に負けないように特許を取っていくことが、なぜそれほど大事なことなのでしょうか?


 ◆山中 特許というのは一般的には、技術を独占する民間企業であったりが技術を独占して、自分たちだけで研究を進め、開発を進めるためのものなんですが、私たち京都大学は、逆に、独占させないために、京都大学が特許を取ることが重要であると考えています。


 公的機関である京大が特許を取ることによって、いろんな企業であったり、研究者が自由にリーズナブルな条件でこの技術を使える、そのために頑張って特許の取得に力を入れています。


 ――しかし、海外と競争していくうえで、いつも山中先生は、資金面、人的な面、とりわけアメリカと比べると、日本が劣ることをいつも気にされていらっしゃったのですが、文部科学省は来年度から10年にわたり、合わせてiPS研究、京都大学のiPS細胞研究所にあわせて200から300億円程度、10年にわたって助成します。そして、実用化研究する別の6つの研究所にも5年にわたって合わせて150億円助成というような方針を打ち出していますけれども、これで多角的な競争に打ち勝つ財力、あるいは資金面というのは整うのでしょうか?


 ◆山中 非常にありがたいと思っています。いま言われた研究費というのは、ノーベル賞のアナウンスメントがある前から、ずいぶん前から文部科学省が計画を進めていただいていたことですので、今後、ノーベル賞の受賞によって、その要求が財務省にもできるだけ認めていただきたいなと思っています。


 ただ10年ということで、特許の専門家等を10年雇用するお金のメドはだいぶついてきたんですが、しかし、じゃあ10年後はどうなるんだ、今、30歳の特許の専門家の人は、10年たつと40歳になってしまいます。そこで終わりだったとしたら、彼らはもう、本当に次、行く場所がなくなってしまいますので、なんとかそういう、日本の国のために、特許を一生懸命やっている人々、またそれ以外の研究支援者の方を、どうしたらいわゆる正社員のような形で雇用できるようにできるか、それが私が今後、国にお願いしていきたいことの最大の一つです。


 ――iPS細胞研究所の9割の方が、任期付きの職員だということで、非常に雇用の先行きが安定した状態にはないということを心にかけていらっしゃるということですね。


 ◆山中 そうですね。やはりできるだけ、いわゆる企業からいうと、正社員を増やしたいと。今、iPS細胞研究所は正社員、1割しかいません。9割は有期雇用の方ですので、非常に不安定。そういう方たちのおかげで今回、ノーベル賞につながったわけですから、なんとか彼らに適正な雇用、正社員としての雇用を、全員というわけではないと思うんですけれども、しかしできるだけ多くの方に、そういう条件を提供したいというふうに頑張っていきたいと思います。


 ――以上が山中伸弥さんのインタビューの一部です。「iPS細胞研究所は正社員1割、9割は有期雇用で非常に不安定」というのは衝撃的ですが、私が事務局を担当して2010年5月16日に開催したシンポジウム「高学歴ワーキングプアの解消をめざして~学術の危機と若手研究者・ポスドク問題」での記念講演はノーベル物理学賞を受賞された益川敏英さんだったのですが、益川さんも、「社会的に科学と技術の発展が欠かせない時代に、人材の面からも研究資金の面からも脆弱さが進行しています。ポスドクを含め若手研究者の不安定な雇用の問題を社会全体で解決していく必要があります」と指摘していました。


 シンポジウムに向けて取り組んだ「ポスドク・若手研究者アンケート」などには、ポスドク・若手研究者が抱える様々な不安の声が寄せられました。一番切実な声は、いま現在の職をいつ失うのか分からないという不安です。これはポスドクの雇用に対する財源自体が不安定でいつ途絶えるかわからないという問題と、総人件費削減の中でプロジェクト終了後に次のポストがあるのかという不安を多くのポスドクが感じています。また、もしいま進めている研究に行き詰まり、この1年で論文が出せなかったら来年の契約があるのだろうか? という不安の声も寄せられています。


 こうした不安定で将来展望が開けないもとで、ポスドクの多くに精神的なストレスがかかり、メンタルヘルスに不調をきたすことも危惧され、アンケートには「うつ病の一歩手前のような精神状態でいい研究はできない」との声も寄せられています。


 また、買い手市場になっているポスドクの立場の弱さが問題です。買い手市場にあるポスドクの立場の弱さが背景にあるために、パワハラが横行したり、研究者というのはとにかく研究に没頭するのが本分であって、時間外労働は当然だというような雰囲気があって、たとえば超過勤務手当を欲しいと言いづらいなど様々な要求を躊躇してしまうような雰囲気があるという声が寄せられています。一方、ポスドク急増の制度的な支えとなっているプロジェクト型研究の隆盛によって、自らも研究者であるポスドクの雇用責任者自体が、多くのプロジェクト研究に関する評価や立案などで忙殺され、本来なされるべきポスドクへのサポート(研究指導など)が行き届きにくくなっている現状も出されています。これはポスドク、若手研究者の孤立であるとか、問題を1人で抱え込んでしまうようなことにもつながりかねない大きな問題です。


 最後に、アンケートに寄せられた、ポスドク、若手研究者の具体的な声を紹介します。


 「月収20万、ボーナス無し、国保・年金は自分持ち。家族を養っており、経済的には限界に近い」(38歳)


 「夫婦でポスドク。低賃金で、生活が苦しく、子どもを育てる経済的余裕さえない。早急な現実的な未来を求めている」(34歳)


 「時給1200円程度、研究員というよりは雑用係。同じ部署には無給の研究員や、私と同様の身分の博士課程修了者が何人もいる」(34歳)


(byノックオン。ツイッターアカウントはkokkoippan)