ネットワークでつくる放射能汚染地図-科学者・研究者には人の命を守り助ける責任がある(木村真三氏) | すくらむ

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 6月10日に、NHKでETV特集「ネットワークでつくる放射能汚染地図(6)川で何がおきているのか」が放映されました。


 番組では、福島原発事故直後には放射能汚染がみられなかった場所で次々に新たな汚染のホットスポットが見つかり、汚染地図の更新が必要になっているなか、その変化の大きな原因として、雨と雪解け、そして川が放射性物質を拡散していることに着目します。


 福島県を水源とする阿武隈川、阿賀野川という2つの一級河川の上流から下流まで400カ所以上を科学者のネットワークで調査を実施。水そのものからはほとんど汚染は検出されませんでしたが、川底の土からは場所によっては最高6万ベクレルを超える高濃度の汚染が検出され、福島県から新潟県へ流れ日本海に注ぐ阿賀野川の河口付近でも川底の土から汚染が見つかります。


 川底の粘土鉱物が放射性セシウムと強く結合し、汚染の原因となり、阿賀野川の上流にあたる会津地方は、事故直後は汚染が低い場所でしたが阿賀野川の支流の放射性物質の量が、雪解けを挟んで大きく跳ね上がり、これが粘土鉱物と結合し、はるか遠くの日本海側まで移動していたことを番組はつきとめます。



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 こうした「ネットワークでつくる放射能汚染地図」で中心になって奮闘されている放射線衛生学が専門の獨協医科大学准教授・木村真三さんの講演 を聴いたので以下その要旨を紹介します。(※私も木村さんに質問したのですがその回答を含む私が気に入った一部分の要旨ですので御了承ください。by文責ノックオン。ツイッターアカウントはanti_poverty)


 私は現在、福島にホームステイしています。それは福島に実際に住んでみなければ福島住民の気持ちは分からないし、福島原発事故による放射能汚染の実相も見えてこないと思ったからです。実際に住んでみて福島の方々の声が聞こえてくるし、問題が見えてきていると思っています。


 福島でホールボディーカウンターを実施して2千人以上の方の被曝の実態を調べたり、各地域の住民測定などのアドバイザーなどもおこなっています。そうしたなかでは幸い非常に高い内部被曝を受けた方は現時点では見受けられていません。


 私はこれまでに19回にわたってチェルノブイリの放射能汚染の調査を実施しています。現在は毎月、1週間から10日間ぐらいはチェルノブイリで調査をおこない、残りは福島の住民の方たちと生活を共にしながら調査をするような形で、福島とチェルノブイリの両方で放射能汚染調査をしています。


 いまのところ、チェルノブイリと比較する限りにおいては――いまはセシウムしか見ることができませんが――福島住民の被曝は低いという調査結果になっています。しかし、それでも被曝による健康被害は今後出てくることになるでしょう。


 初期被曝についても、福島事故の直後に着られていた服などを意識的にラッピングされていた住民の方などもいて、それらを用いて初期被曝の数字などを推定していく作業も並行しておこなっています。


 原発事故、放射能汚染には、放射線による直接的な影響と間接的な影響があります。間接的な影響の中にメンタルヘルスへの悪影響の問題があります。福島住民のそれぞれが抱える事情によって避難したくても避難できないという苦悩や、放射能に対する不安などが大きなメンタルストレスになるのです。逆に避難をされた方もいつ帰れるのか分からないというような様々なストレスにさらされます。実際、福島県外に避難された方には情報がほとんど入ってこず、震災直後と何ら変わらないような状態に置かれています。


 私の専門は放射線衛生学で、予防医学の立場ですので、福島住民の方々の心の病なども含めたケアをしていかなければならないと考えていて、新潟や山形に避難されている方のケアも実施しています。


 こうした問題はチェルノブイリでも同じです。チェルノブイリでもメンタルストレスの問題は非常に大きな問題で、放射線の直接の影響ではないけれども、事故前の生活が破壊され、うつ状態やアルコール中毒が広がるなど大きな問題になっているのです。日本においても予防医学としてこの問題にもきちんと手当をしなければいけないのですが、行政含め実際は手当されていません。この問題をケアできず放置してしまうと後々深刻な病気の広がりという形であらわれていってしまいます。


 この直接影響と間接影響の問題は、福島住民の避難の問題でも熟慮が必要だということにつながります。汚染地域の中で被曝限度ギリギリの境界線にある地域などで移住させるかどうかという場合、現地住民の気持ちなどをくみとらずに移住させれば逆にメンタルストレスなどの間接影響の方が大きな問題となってあらわれるということになりかねないのです。ですから、放射線の直接影響と間接影響の問題は、バランスが大事となり、非常に難しい判断がともなうことにもなります。


 福島原発事故による放射能汚染は日本全土を広く汚染しています。たとえば、長崎県でも昨年の4月6日から4月13日が最大ピークになって、セシウム134と137が検出されています。長崎で検出されたセシウムは、私が採取してきた計画的避難区域に設定されている福島県飯舘村のゼロから5センチの表層の土壌の汚染レベルと同じでした。放射能は空気で拡散する一方で気団となってかたまりで汚染するということも起こります。じつは汚染は日本全国広く薄く汚染しているのです。福島原発事故による放射能汚染の問題は、福島という限定した地域で考えることではないのです。


 私は事故直後から放射能汚染地図をつくるため、福島に入って測定をおこなってきました。その中で昨年3月16日に私がしていたマスクを分析してみました。ヨウ素は1ミリグラムあたりのベクレル数で1千ベクレルぐらいあり、さまざまな放射性各種すべてをあわせると約7千ベクレルという高い汚染を私のマスクは受けていました。


 放射能汚染地図をつくる理由ですが、エオボーンサーベイという飛行機で130回以上往復しながら地表の汚染を調べる方法があります。これは最初に汚染の大まかな様相を調べるためには大切なことなのですが、どんなに詳しく調べても10キロ四方が限界なのです。10キロ四方の汚染について、10キロ四方の枠内の1点だけを測定したものと次の10キロ離れた点とを計算式によって補完した値なんです。ですからエオボーンサーベイという方法は必ずしも正確なものではないのです。大まかな様相は分かるけれども、きちんとしたものは分からない。それをきちんと調査するには道を中心としたカーボンサーベイがいちばんいいのです。道のあるところに人は住み、街があるということです。道は地域住民の生活と密接なつながりがあり、そこの放射能汚染地図をつくらなければならないということです。そうやって私はチェルノブイリの汚染地図もつくりました。


 私はチェルノブイリの調査もしていて、予防医学が専門である科学者・研究者です。予防医学は人の命を助けることが役割です。福島原発事故、放射能汚染の問題は、国や行政だけが悪いのではなく、科学者・研究者が御用学者として政府の言いなりになることを条件に論文として発表することで、自己の地位や名誉を研究業績という形で評価される原子力ムラのシステムに甘んじていることが問題です。科学者・研究者である前に人間として人の命を守り助けるという本来あるべき姿を忘れて、自己の地位や名誉、利益だけを追求してきた御用学者らが招いた人災です。


 こうした御用学者らがつくる原子力ムラのシステムを続けさせてしまえば、こうした人災が繰り返されてしまいます。真理の探求をベースにして人の命を守り助けていくという本来の科学者・研究者の道を多くの人に継いでいく必要があります。そのためには学生はもちろん、市民科学者も養成したいと私は思いを強くしています。福島住民の中には自らの暮らしを守るために市民科学者となって立ち上がっている方がすでにたくさんいらっしゃいます。科学者・研究者は、福島と日本の放射能汚染地図をきちんとつくって実相を分析・研究し対策を考えていくことが必要です。そして、市民科学者として奮闘されている地域住民をサポートしていくことも科学者・研究者の社会的責任だと思うです。