世界の富の4分の1を盗むタックスヘイブン - 格差・貧困・財政危機を拡大する心臓部 | すくらむ

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国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 ニコニコ動画で、4月20日に配信された「ニコ生×デモクラシー・ナウ『タックスヘイブンの闇』――グローバル経済の中枢にあるのは巨大なブラックボックス」を観ました。『タックスヘイブンの闇――世界の富は盗まれている!』(朝日新聞出版)の著者であるジャーナリストのニコラス・シャクソン氏の主張を中心に番組が伝えていたタックスヘイブン問題を要旨で紹介します。(※ニコラス・シャクソン氏は「タックスヘイブン」と「オフショア」をほぼ同義としていますので、ここでは「タックスヘイブン」で用語統一しています)


 タックスヘイブン(租税回避地)とは何か?


 タックスヘイブンとは、人や組織が規則・法律・規制を回避するために利用する他の地域(典型的には他国)のことです。タックスヘイブン側から見れば、低い税率(あるいは無課税)を提供してビジネスを誘致する場所です。


 つまり、タックスヘイブンは、社会の中で暮らし、社会の恩恵を受けることにともなう義務――納税の義務、まともな金融規制・刑法・相続法などに従う義務――からの逃げ場を提供するのです。


 究極の規制緩和であるタックスヘイブンは
 市場の透明性を闇へ葬り去る


 タックスヘイブンは「租税回避地」の名の通り、税金逃れに利用される点が一番大きな特徴ですが、もう一つの大きな特徴として、税金逃れと諸法制逃れの情報を隠すという点があります。すべてのタックスヘイブンは、税金逃れと諸法制逃れの情報を隠すために、他の地域(法域)との情報交換を拒否しています。そこに資金を置く「非居住者」に対しては、たとえばゼロ税率を提供していても、一般の「居住者」に対しては普通に課税し、地元経済とタックスヘイブンを完全に切り離しています。タックスヘイブンと地元経済を切り離し、一般の「居住者」に対して普通に課税するためには、「非居住者」に提供している税金逃れの情報を隠す必要があるのです。こうした税金逃れの情報を隠し、一般の居住者と非居住者を完全に分離しているということは、自分たちが行っているタックスヘイブンという税金逃れの提供自体がじつは害悪であるということを自分自身が暗黙のうちに認めているようなものです。「自由市場は透明でなければいけない」などと新自由主義者は言っていますが、究極の規制緩和とも言える規制逃れであるタックスヘイブンでは市場の透明性は確保されていないのです。タックスヘイブンは深い闇の中にあるのです。


 タックスヘイブンのイメージは、税金がゼロのケイマン諸島などマフィアとか富裕層の大物が金を保管する場所。グローバル経済の風変わりなおまけに過ぎないと一般市民は思っているかも知れません。(ケイマン諸島は世界第5位の金融センターで、8万社の企業がここに登記しており、世界のヘッジファンドの4分の3以上、および1兆9千億ドル(152兆円)の預金――ニューヨーク市の銀行の預金残高の4倍――がここに置かれています)


 しかし、タックスヘイブンは単なる「小さな島」での税金逃れなどではなく、じつはタックスヘイブンの歴史をよく調べてみると、グローバル化にともない1970年代から急速に拡大し、今や世界経済を動かす心臓部になっていることが分かります。


 世界の富の4分の1を呑み込む
 タックスヘイブン


 現在、世界の貿易取引の半分以上が、タックスヘイブンを経由し、世界のすべての銀行資産の半分以上、および多国籍企業の海外直接投資の3分の1がタックスヘイブン経由で送金されています。


 また、富裕層がタックスヘイブンに保有している資産は2005年時点で11兆5,000億ドル(920兆円)に上り、これは世界の富の総額の4分の1に相当し、アメリカのGDP総額に匹敵します。この富裕層によるタックスヘイブンでの税金逃れは1年間で推定2,500億ドル(20兆円)に達し、この額は途上国の貧困に対処するための世界全体の援助予算の2倍から3倍に相当しているのです。


 ウォール街などの政治力と資金力を陰で支えるタックスヘイブンは「巨大企業の守られた聖域」です。一般に考えられているよりずっと大規模で重要な問題なのです。


 タックスヘイブンのシステムは、すべてにかかわる巨大な問題に広がっています。タックスヘイブンにより、アメリカでの納税逃れは年間で1千億ドル(8兆円)と言われていますが、それは問題の一面にすぎません。全貌はもっと大きく複雑です。


 税金と諸法制を国内外で「回避」する
 システムとなり増殖するタックスヘイブン


 タックスヘイブンは、「小さな島」で税金逃れをするというだけの問題ではなく、金融規制や刑法を逃れるルートになり大きなシステムになっているということです。「回避」がキーワードです。国内の民主的な規則や規制が嫌なら外に出るまでだ。国内では許されないことができる場所に金を移す。他の場所へ「回避」していくというわけです。


 ウォール街の歴史をみると1946年のブレトンウッズ協定で国際協調によって資本の流れが厳しく管理されるようになり、富裕層は高い税金を払っていました。その後、25年ほどは資本の移動が厳重に制限されていたのです。世界的な高度経済成長の時代でしたが、金融業界はこうした制限に不満を持っていました。そこでロンドンに「回避」しました。英国銀行とシティが大歓迎してくれたからです。「金を持って来てくれるなら規制しません。何でもご自由に」ということで、1960年代以降ウォール街は大挙してロンドンに押し寄せました。ブレトンウッズ体制のほころびがここから始まります。海外に「回避」したウォール街はめざましい急成長を遂げます。ロンドンを皮切りに世界のタックスヘイブンを利用し、とてつもない急成長が可能になったのです。「大きすぎてつぶせない銀行」ができたのも、アメリカの銀行が海外に移り国内の規制を逃れて高リスクの事業で急成長したからです。今やウォール街は力を持ちすぎて国内の政治家ばかりか外国にも影響力をふるっています。


 イギリスも世界中にタックスヘイブンを持っています。ケイマン諸島やバミューダ諸島、ジブラルタルなどは「海外領土」。ジャージー島やガーンジー島などはイギリスの近隣にある「王室属領」です。すべてイギリスの支配下にありながら自治権も持つというタックスヘイブンをイギリスは世界中に持っています。このネットワークを通じてイギリスのシティに仕事が誘導されます。世界中のタックスヘイブンが仕事を集めてくるのです。カリブ諸島はアメリカや中南米の窓口です。合法・非合法混在のビジネスです。ガーンジー島などの王室属領は欧州やアフリカや中東の窓口で、ロンドンの金融街に仕事を回すのが役目です。タックスヘイブンの本格化は脱植民地化の時期と重なります。アメリカと同じくイギリスでも銀行が政治家の急所を押さえているのです。


 タックスヘイブンの多くは「合法」とされています。「租税回避」と「脱税」は違うというわけです。しかし、「租税回避」というのは「脱税」「違法行為」にはあたりませんが、本来の法律の趣旨にそむき、法律制定者の意図を裏切る行為です。


 現在の腐敗や経済危機などの問題は、タックスヘイブンが大きく絡みます。途上国の債務危機でもタックスヘイブンを通じて特権支配層が金を着服し巨額債務だけが国に残されました。最近の研究によれば、アフリカでは個人の私有財産が国の債務を大きく上回っています。その差額は個人資産としてタックスヘイブンの銀行口座にある。その金があれば十分に債務を返済できるのです。でも債務の負担は一般国民に回され、増税や公共サービスの縮小としてのしかかってくる。特権階級はおとがめなしで金はタックスヘイブンの安全な金庫に眠る。これが国の腐敗や民主主義の破壊につながっているのです。途上国の大きな不幸です。


 格差と貧困を増大させるタックスヘイブン


 タックスヘイブンのシステムはそれぞれの地域が他の地域に遅れを取らないように絶えず競争しています。それは税率を下げ、規制を緩和し、新しい秘密保護手段を編み出す競争です。その一方で、企業や富裕層、金融業者たちは、国内の政治家にタックスヘイブンを利用して脅しをかけます。「課税や規制を厳しくすれば、われわれはタックスヘイブンに行くぞ」と。国内の政治家たちは怖じ気づいて自国の税率を下げ、規制を緩和する。こうした流れで、次第に国内においてもタックスヘイブンのような特徴を帯びるようになってきており、国内の租税負担を「回避」できる企業や富裕層から、「回避」することなどできない一般市民の肩にだけ重い税金が移ってくるようになっているのです。実際に、アメリカの企業は1950年代には税総額の約5分の2を負担していましたが、その割合は今では5分の1に低下しています。富裕層においても、億万長者のウォーレン・バフェット氏が自ら証言しているように、富裕層の税金は受付係の社員より税金が下がっています。豊かな人々の払う税金額が減っているということは、その他の一般市民がその減少分を負担しなければならないということです。


 アメリカのシンクタンクが1月に発表したところでは、途上国から租税回避地や富裕国に2008年に1.2兆ドルが流れました。中南米の金は多くがアメリカに来ています。アメリカ自体も中南米のタックスヘイブンとして機能させているのです。タックスヘイブンの問題は2重の意味もあるのです。海外のタックスヘイブンに自国の税収を奪われる一方、アメリカは自国のタックスヘイブンの闇を外国人に提供し税逃れや犯罪を助けているのです。こうしたタックスヘイブンの闇のシステムが、有害な不動産バブルを生み、ウォール街の懐を肥やし、「大きすぎてつぶせない銀行」の問題や金融業界による「政治の乗っ取り」を招きました。アメリカには秘密資金の流出と流入の両方の問題があり、自国も途上国も傷つけ、腐敗させているのです。


 こうした問題を改善していくためには、タックスヘイブンの問題を、まず巨大で悪質なシステムだと多くの一般の人々に気づかせることが必要です。カリブの島のささいな脱税と思っているうちはダメです。


 ヨーロッパでもアメリカでも国の財政危機を理由に、社会保障の切り捨てや公共部門の人員削減、大量失業の嵐が吹き荒れています。財政危機の原因をつくった金融機関は公的資金で救済されて焼け太り、大企業も公共サービスを享受しながらタックスヘイブンを利用し法人税も減税させる。そのしわ寄せとして、社会保障削減と増税、公共サービスの切り捨てを受けるのは一般市民であるというタックスヘイブン問題の本質を広く伝えなければなりません。


(by文責ノックオン。ツイッターアカウントはanti_poverty)