TPPは「第3の構造改革」-国民の命も雇用もないがしろにするTPP参加 | すくらむ

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国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 ※TPP参加問題がいよいよ緊迫してきました。これまでTPP問題をテーマにした講演もいろいろ聴いてきましたが、いま紹介しないことにはあまり意味がなくなってくるので、少し古い講演要旨で恐縮ですが、2月19日に東京地評が主催した横浜国立大学教授・萩原伸次郎さんの講演「TPP(環太平洋戦略的連携協定)への参加はなぜ問題なのか~どうなる私たちの暮らしと経済」の要旨を紹介します。(by文責ノックオン。ツイッターアカウントはanti_poverty)


 TPP参加を、「第3の開国」「平成の開国」などと表現するむきがあります。しかし、私は、このTPP参加は「第3の構造改革」とするのが正しいネーミングだと考えています。


 「第1の構造改革」は橋本政権における橋本改革。「第2の構造改革」は小泉構造改革。そして、今回のTPP参加によって「第3の構造改革」が進むことになると私は考えています。


 「日本の農業は保護されすぎだ」はウソ
 日本農業はすでに十分すぎるほど自由化されている


 TPPは、日本の農業を破壊します。「日本の農業は保護されすぎだ」などと事実と違うことを指摘する方がいます。事実は、現在でも日本の多くの農産物は諸外国以上に自由化が進んでいて、日本の農産物の平均関税率は現在11.7%で、農業大国であるEUでも農産物の平均関税率は19.5%と日本より8%近くも高いのです。「日本の農業は保護されすぎだ」などというウソから議論を始めるTPP推進論者はウソにウソを重ねるものです。


 農業破壊の問題に加えて、TPP参加はサービス貿易の問題が大きいと考えています。いまの貿易は、サービス貿易が大きな比率を占めています。サービス貿易を自由にするには、人の移動、それから資本の移動というのが不可欠ですから必然的に、その国の規制その他の改革に手を突っ込むことになります。


 TPP参加は国民の命と健康もないがしろにしていく


 たとえば、アメリカは、日本に対して医療の自由化というのを長年要求してきました。年次改革要望書、外国貿易障壁報告書の中で、医療サービス市場へ外国からのアクセスを制限しているのは問題だ、日本に利益追求型の病院をつくるようにという要求を出していますし、薬価の決め方の自由化や日本の保険制度の変更なども要求しています。この点が、今度のTPP参加の中で、日本の農業破壊に加えて大変重要な問題であると私は考えています。


 医療分野はサービス産業の花形分野です。アメリカの医療関連資本がTPPにより日本の医療分野に入ってきたら、混合診療の全面解除はもちろん、公的保険医療制度は崩壊させられ、競争力の強いアメリカの医薬・医療機器資本に支配されたあげく、自由市場価格だと称して高額の医薬品・医療機器価格が強制されることになります。まさにマイケル・ムーア監督が、資本の論理で国民の命をないがしろにするアメリカの貧困な医療実態を告発した映画『シッコ』の世界が、日本においても広がることになるのです。


 現在の医師不足が、小泉構造改革でおこなわれた研修医の勤務先の自由化政策に、ひとつの要因があるように、地域を単なる市場とみなす人と資本の移動の自由化は、市場として魅力のない地域の医療を崩壊させ、医師不足と医師の偏在が一層進むことになります。


 TPP参加は低賃金と貧困拡大で地域経済を破壊


 農業や医療だけでなくTPPは、すべての品目の関税を撤廃します。業務サービス、通信、建設・エンジニアリング、流通、教育、環境、金融、保険、観光・旅行、娯楽・文化・スポーツ、運輸の11分野などのサービス貿易も含まれています。こうしたサービスは、人が移動し、企業が国境を越えなければ提供できないから、必然的に人の移動と資本の移動の自由を含むことになります。規制改革と称して、さまざまなサービス部門における規制緩和・競争政策が展開されることになるのです。


 海外から安い労働力が移動することによって、日本の労働者の賃金や労働条件が切り下げられるようになります。そして、日本農業への壊滅的打撃と貧困の拡大で地域経済は崩壊します。食料品の価格低下は名目賃金の切り下げにつながり、日本経済のデフレを助長して、財政危機をいっそう深刻化させてしまいます。いまのデフレ下の日本経済において、もっとも大切な政策は、TPP参加などではなく、すべての労働者の賃金の引き上げ、最低賃金と下請け単価の大幅な引き上げなどにより、日本の異常なデフレをストップしていくことにあるのです。