※「連合通信・隔日版」(2011年5月3日付No.8455)からの転載です。【★「連合通信」の購読申し込みはこちらへ】
〈専門家たちのメッセージ〉「原発震災」を繰り返すな
福島原発事故で震災被災地や周辺は放射能に襲われ、収束も確実に見通せない状況が続いている。日本人は今、事故から何を学ぶべきか。気鋭の専門家2人の声を届ける。(※明日は2人目の広瀬隆さんを紹介します)
「自然の警告」を聞き入れよう
神戸大名誉教授 石橋克彦氏(地震学)
マスコミや東京電力は、原発事故の原因を「津波で核燃料を冷やす電源機能が喪失したため」と伝えているが、重大な誤りだ。
●地震で放射能漏れ
福島第一原発は、3月11日の超巨大地震で壊された可能性が高い。(※外部電源喪失は、津波が原因でなく地震が原因であったことが明らかになっています。原子力安全・保安院の寺坂院長は4月27日の衆院経済産業委員会で、倒壊した受電鉄塔が「津波の及ばない地域にあった」ことを認め、全電源喪失の原因が津波にないことを明らかにしました。この記事の最後に付けた記事を参照ください)
東電が公開した原子炉建屋内の地震データでは、耐震基準を最大26%上回る揺れを記録している。約20キロ離れた地点でも、05年の宮城沖地震(M7.2)と比較にならない強い揺れが3分間続いた。原発は激しい震動で建屋や原子炉、配管が損傷して冷却機能を失ったと考えられる。
今回の地震は、震源域が南北450キロという予想を超える規模で起きて、日本を取り巻くプレートも大きな影響を受けている。そのため、以前から起きると指摘されてきた東海、東南海、南海地震が連動して同時発生する恐れが高まっている。
現実化すれば、駿河湾から四国までの太平洋側で震度7、北陸・山陰など日本海側でも震度6となり得る。直後には10メートル超の津波が押し寄せる沿岸もあるだろう。これとは別に、首都圏直下や注目されていない地域でも大地震が来るかもしれない。
●建設ラッシュ時の不幸
――地震学の未熟と地震活動の静穏
それでも日本は各地で原発を動かしている。東海地震の想定震源域内の浜岡原発(静岡県)や、活断層の真上にある敦賀原発(福井県)は特に危険だ。
このような場所につくられた背景には、多くの原発が60~70年代に設計・建設されたことがある。そのときの地震学は未熟で、活断層をつかむことが難しかった。不幸なことに、原発の建設ラッシュ時期は地震活動が静穏を保っていた。
福島の事故を受けて、各原発では津波による電源喪失を意識した訓練が行われている。だが、そんな立地条件で原発を操業すること自体、正気の沙汰ではない。
●軍国主義とダブる現実
――政官民学による「原子力複合体」
こうした奇妙な事実を支えるのは、政官民学による「原子力複合体」で、戦前の軍国主義と重なる。当時は「起きては困ることは起こらないことにする姿勢」、「根拠のない自信」、「失敗を認めない無責任さ」から対米戦争を招き、国民に多大な犠牲を強いた。今回の放射能漏れに至る経緯やその結果は、同じことの繰り返しに見える。
自然現象である地震は「日本と原発が相いれない」と警告している。国を破滅に追い込む原発を動かし続けるのか、警告を聞き入れて持続可能な社会をめざすのか。国民一人一人が正念場を迎えている。(4月25日、原子力資料情報室主催の国会内集会で講演)
※いしばし・かつひこ 1944年生まれ。97年に「科学」(岩波書店)で「原発震災」を発表。日本で原発を動かす危険性を一貫して訴え続けている。
▼関連エントリー
14年前から「想定内」だった福島原発事故-「安全」を保証した科学者・技術者の社会的責任
▼参考記事
外部電源喪失 地震が原因
吉井議員追及に保安院認める
――倒壊した受電鉄塔は
「津波の及ばない地域にあった」
(「しんぶん赤旗」2011年4月30日付)
日本共産党の吉井英勝議員は4月27日の衆院経済産業委員会で、地震による受電鉄塔の倒壊で福島第1原発の外部電源が失われ、炉心溶融が引き起こされたと追及しました。経済産業省原子力安全・保安院の寺坂信昭院長は、倒壊した受電鉄塔が「津波の及ばない地域にあった」ことを認めました。
東京電力の清水正孝社長は「事故原因は未曽有の大津波だ」(13日の記者会見)とのべています。吉井氏は、東電が示した資料から、夜の森線の受電鉄塔1基が倒壊して全電源喪失・炉心溶融に至ったことを暴露。「この鉄塔は津波の及んでいない場所にある。この鉄塔が倒壊しなければ、電源を融通しあい全電源喪失に至らなかったはずだ」と指摘しました。
これに対し原子力安全・保安院の寺坂院長は、倒壊した受電鉄塔が「津波の及ばない地域にあった」ことを認め、全電源喪失の原因が津波にないことを明らかにしました。海江田万里経産相は「外部電力の重要性は改めて指摘するまでもない」と表明しました。