震災復興財源は企業の内部留保4.7%の活用を-「大企業は手元資金だけで100兆円超と潤沢」 | すくらむ

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 ※労働総研の緊急提言を紹介します。震災復興財源は企業の内部留保の4.7%で大丈夫ということですが、「内部留保」の問題を指摘すると決まって財界側から出てくるのが、「企業はどこも苦しいのだ」などという主張。しかし、『日本経済新聞』の2011年4月10日付朝刊5面「けいざい解読(編集委員・土屋直也氏)」によると、「ピラミッドの頂点にある大手企業の手元資金は潤沢だ。法人預金額は100兆円を超える。だが、下請け企業群となるとコストカット要求のなかで資金面での遊びは薄い。被災企業の手元に再建資金は乏しく、間接被災企業は操業停止中の給与支払いなど運転資金に窮している。」とのこと。「大手企業の手元資金は100兆円を超えている」のですから、「内部留保」を指摘するまでもなく、「大手企業の手元資金100兆円」の一部を震災復興財源へ活用可能なのです。(byノックオン。ツイッターアカウントはanti_poverty)


 労働総研緊急提言
 雇用と就業の確保を基軸にした、住民本位の復興
 ――東日本大震災の被災者に勇気と展望を

                  2011年4月22日 労働運動総合研究所


 【緊急提言の概要】


 東日本大震災からの復興にかかわって、労働総研は「雇用と就業就労を基軸にした住民本位の復興」政策の実施を求め、別添の提言を発表する。とりわけ強調したいのは以下の点である。


 1.復興財源には大企業の内部留保を活用


 復興に必要となる多額の費用の財源には、企業内に蓄積されている内部留保(ため込み利益)を活用すべきである。資本金1億円以上の企業3万3355社の内部留保額は、2009年度までの10年間で189.7兆円から317.6兆円へと127.9兆円も積み増している。仮に復興事業費を15兆円と想定するなら、内部留保総額の4.7%にすぎない。しかも内部留保のうち換金性資産は99兆円にも上る(現金・預金、有価証券、公社債、自己株式等)。つまり、財源調達要請に迅速に対応できるということである。


 2.内部留保を活用した復興で景気回復をはかる


 大企業が引き受ける国債は無利子で引き受けることとする。それでも企業は復興事業の経済波及効果を享受でき損はない。労働総研の試算によれば、社会インフラ設備の復旧に8兆円、被災者生活資金等に5兆円、地場産業等の復旧・復興資金に2兆円投入すると、その経済波及効果は、国内生産誘発額で26.5兆円、付加価値誘発額(≒国内総生産)で13.2兆円となる。日本の経済成長率を2.6%以上押し上げる効果が生まれる。ほかにも復興事業を呼び水とした民間設備投資が加わるため、さらなる生産拡大、付加価値額の増加が見込まれる。


 なお、消費税増税で財源をまかなうとの意見もあるが、ただでさえ苦しい国民・労働者家計に過重な負担を強いることは、消費の落ち込みを招き不況を長期化させ、復興を停滞させる愚策である。


 3.復興政策では「構造改革路線」の誤りを正し、雇用・就業確保を軸とした住民本位のものとする


 復興政策の柱として、以下の4本の視点を据えることを提案する。

 (1) すべての被災者・失業者の生活と住居の保障

 (2) 国や自治体など公的責任による雇用創出

 (3) 住民と自治体参加による復興計画の策定と住民本位の行政体制の再確立
 (4) 農漁業や地場産業・中小企業復興、「安心の街づくり」等への公的支援


 詳細は本論に譲るが、いくつか提案を列挙するならば、


 ◆被災者が主導する「住民復興会議」を設置し、“上から目線”でないボトムアップ型復興の牽引役とする。


 ◆広域行政化=市町村統廃合により、必要な施策が住民に届かない問題が浮き彫りとなった。住民本位の自治体機能を拡充させる。公務員も増員する。


 ◆雇用保険の適用を受けない農漁業者、自営業者等のため、全額国庫負担の「失業手当」を新設し、就労の実現まで給付する。


 ◆公的就労事業をはじめ、被災者に潤沢な雇用機会を提供し、賃金収入と消費の経済サイクルを復活させる。


 ◆復興事業は地元事業者への発注を基本とする。


 ◆国や自治体は公契約の発注にあたり、現場労働者への賃金水準の保障と健康を守る措置を徹底する。


 ……等を実施すべきである。


 最後に、復興にあたって、道州制などの広域行政化推進、消費税増税実施、TPP導入など、この危機的状況を利用して、大企業優先の政策導入を強行しようとする動きがある点に、国民の注意を喚起したい。これらは労働者・庶民の暮らしに痛みを与え、多国籍大企業のみが肥え太り、国民経済を危機に招くものであり、復興政策において採用してはならない路線である。
                                         以上


 【緊急提言の全文】


 去る3月11日に発生した東日本大震災は、巨大な地震と津波による甚大な被害のうえに、東京電力福島原発事故の被害が加わり、多くの国民の尊い命・財産が失われ、街が破壊され、地域経済と雇用を支える農林漁業や製造業も壊滅的な被害を被っている。その結果、震災から1カ月余を経過した今なお、10数万人を超える人々が避難所生活を強いられ、住居も収入も失った多くの被災者は先の見えない不安のもとにおかれている。


 その不安を取り除き、戦後未曽有の災害を乗り越え、復旧・復興をすすめ、新しい東北を築くには、①すべての被災者・失業者の生活と住居の保障、②国や自治体など公的責任による雇用創出、③住民と自治体参加による復興計画の策定と住民本位の行政体制の再確立、④農漁業や地場産業・中小企業復興、「安心の街づくり」等への公的支援が決定的に重要になっている。同時に、日本の企業が、その持つ経済力にふさわしい社会的な責任と役割を発揮することが強く求められている。


 働く場を失った労働者、壊滅的打撃を受けた農漁民、自営業者、原発事故によって遠隔地への避難を余儀なくされた住民――被災者の仕事と住居の確保は表裏一体の関係にあり、いずれも復旧・復興の大前提として喫緊を要する課題になっている。


 政府として「東日本大震災復旧復興対策基本法」制定への作業がおこなわれていることが報道されているが、労働総研は復興対策の基軸として「雇用と就業の確保」が据えられるよう、以下の提言を緊急におこなうものである。


 [1]すべての被災者・失業者への生活保障


 大震災と福島原発事故によって、いまなお、10数万人が復興の展望もないまま、不自由な避難所生活を強いられている。福島原発事故の影響もあり、避難が数年越しになることも想定しなければならない。被災者の生活を保障することは喫緊の課題になっている。


 1 すべての被災者を対象にした生活保障を


 東北・関東の被災地域に住む就業者は80万人以上にのぼり、その多くが住居と仕事を失い、着の身着のままで避難し、当面の生活資金に困窮する人も少なくない。しかも、被災者は、労働者はもちろん、農林漁業者、零細企業・商店の自営業者とその家族、パート労働者、就職浪人など多岐にわたり、その圧倒的多数が無収入の状態に放置されている。これらの被災者はすべて失業状態にあり、「失業者」である。


 政府の大震災による雇用対策は、一部に例外があるものの、多くが雇用保険に加入している労働者への失業給付と雇用継続を前提とした雇用調整助成金による休業資金の給付、職業紹介に限られている。これでは、すべての「失業者」の生活保障をはかることはできない。


 (1) 全額国庫負担による「失業手当」の新設


 雇用保険による失業給付については、雇用保険の適用の拡充をはかる。地震・津波で休業を余儀なくされている企業で働く労働者と原発20キロ圏内の「避難指示」、20~30キロ圏内の「屋内退避、自主避難地域」に限って適用されている特例の雇用保険給付について、岩手、宮城、福島など被災をうけた県全域に適用する。


 被害を受けた中小企業が休業手当を支払った場合に支給される雇用調整助成金については、休業手当が支給できない中小企業にも「支払ったものとみなして適用」することによって、中小企業に働く労働者に休業手当が保障されるようにする。


 これらの施策の対象外になっている「失業者」の生活保障を早急に図る必要がある。そのために、すべての「失業者」を対象にした、全額国庫負担による「失業手当」を新たな制度として創設する。しかし、雇用保険の受給者以外の自営業者や農林漁業者を含めたすべての「失業者」の実態はまだまだ十分に把握されていない。その実態を早急に調査し、把握することは急務になっている。当面は、被災で働く場を失った求職者にたいして、現行制度の雇用対策法第18条による「職業転換給付金」を積極的に活用し、この趣旨の具体化を図る。同法の政令による国庫負担額は全額にする。


 (2) 給付期間は安定した雇用と就業が可能になるまで


 雇用保険給付、雇用調整助成金の休業補償等はもちろん、新たにもうける「失業手当」などの給付期間は、地元に安定した雇用と就業が確立できるまでの期間とする。


 (3) 零細企業や自営業者には生活支援と営業支援を一体で


 零細企業や自営業者の営業再開に向けた準備には、国や自治体による仮設工場や仮店舗の建設などとあわせて、設備・機械などの整備に必要な資金融資をはじめとする支援――税金の免税措置をはじめ、既往債務の金利免除や追加の無利子融資などを強力に講じる必要がある。これら営業支援と生活保障を一体で進める必要がある。


 (4) 農林漁業者の生活保障と営業再開支援


 農林漁業については、農地や漁場を失った農漁業者を、農地や漁場を復旧するための作業に雇用することによって生活の基盤を保障するとともに、営業の再開のための条件整備をおこない、営業再建の資金についての支援をおこなう。原発による損害補償について国と東電が共同して責任をもっておこなう。


 2 移住した被災者への生活保障


 福島原発事故によって、故郷を離れて他地域に移住し、生活の基盤をつくりなおすことを余儀なくされる被災者が生まれ、数万人に達している。当面の仮設住宅の確保や生活必需品の提供、就業の支援など生活再建策にとどまらず、移住した被災者が安心して働ける条件を国の責任で整備していくことが求められる。


 (1) 移住した被災者の就職あっせん相談体制の確立


 いま、移住を余儀なくされている被災者の希望を生かして、就職あっせんができるように、国の責任で被災者の相談体制を確立する。そのために、移動ハローワークなど機動的な職業紹介ができるように、抜本的にハローワークの拡充をはかる。そのために、職安行政に携わる職安職員を大幅に増加する。


 (2) 移住せざるを得ない被災者には国と東電の責任で雇用と就業の確保を


 原発事故で移住せざるを得ない被災者にたいしては、国と東京電力の責任で生活保障をするとともに、雇用と就業の場を確保させる。


 3 大規模な職業訓練の実施を


 住民本位の震災復興の基本視点は、各種の建造物、工場や事務所・店舗、農漁業・港湾などの基盤整備にとどまらず。現在失業状態にある被災者が、引き続き地元で働き、さらには地域社会の発展へ大きく貢献できるようにすることである。また、原発事故でやむなく生活拠点を地元から他地域に移さざるをない被災者も、それぞれの地域で働き、社会的に貢献できるようにすることが大切になっている。そのために、急がなければならないことは、被災3県や被災住民が避難した地域を中心に、現在の生活危機への支援とあわせた大規模な技術・技能の職業訓練の実施である。


 高年齢者の雇用の安定等に関する法律 20条を拡張適用し、高年齢者だけでなくそれ以外の被災者も含めて「高年齢者求職手帳」を発行し、被災者の就業希望を生かして職業紹介、職業訓練をおこなう。


 (1) 無料の教育訓練制度の確立


 技術・技能の取得が無料でできる教育訓練制度の確立をはかる。そのためには、既存の公的施設の活用、専門学校の利用を拡大するとともに、新たな施設と教育訓練に必要な設備、講師などの指導者が配置されなければならない。なぜなら、数万人規模の失業者が求める各種のレベルにわたる多種多様な科目が必要となるからである。


 (2) 大学・専門家・大企業の技術者の協力も得て


 講師については、大学・専門家の協力を求めるとともに、大企業にたいしても、これらの職業訓練にあたる技術者などをボランティアとして派遣することを要請する。


 (3) 短大と同様の技術・習得期間で本格的な技術・技能の習得を


 教育訓練の期間については、必要な技術・技能の内容に応じて一律ではない対応が必要だが、求められる習得に必要な期間は短大と同じであってよい。その期間中は失業給付もしくはそれと同額の生活保障手当とともに、訓練手当が支給されることが必要である。


 [2]住民参加で住民本位の復興計画を


 1 被災住民に安定した雇用・就業の確保を


 当面の復旧作業と並行して、被災地全体の復興計画の策定も早い時期に必要となる。過酷な生活を強いられている人たちが将来への展望を描けるように、住民本位の復興計画をすすめる必要がある。われわれがめざすべき復興は、憲法と地方自治法を文字通り実現する“住民本位の街づくり”である。それは、政府が進めている「復興構想会議」主導の上からの「復興の青写真」づくりではなく、被災者・住民参加の住民の生活と地域を再建する復興であり、それを国政と地方自治体として実行することである。


 (1) 被災者の英知を結集する住民復興会議の設置を


 そのためにも、労働者、中小業者、農林漁業者など被災した住民諸階層の代表が加わっての「住民復興会議」(仮称)などをもうけて、被災者の英知を結集する必要がある。そのなかで、労働組合は、住民各層の声が生かされるように積極的な役割を果たすことが期待される。そうしてこそ、被災住民が切望し、緊急に解決が求められている雇用と就業の確保の展望について、被災者自身が確信をもつことができる。被災住民・労働者が復興に参加することによって、街は活気を取り戻すし、被災者の明日に立ち向かう勇気と元気、希望がうまれてくる。


 (2) 復旧・復興事業は地元企業最優先で


 東日本大震災は、被災地に甚大な被害をもたらした。5万戸を超える住宅が全半壊し、冠水や土壌流出などの被害を受けた農地は2万4000ヘクタール、岩手、宮城、福島にある 263の漁港が壊滅的被害を受けた。電気・ガス・水道や通信・道路・鉄道などのライフラインをはじめ、港湾、河川、さらには役所庁舎、学校・保育所、病院・保健所、文化・スポーツ施設など社会インフラも重大な打撃をこうむった。


 内閣府の試算では、被害額は16~25兆円にものぼるという。これらの復旧・復興をすすめるとともに、がれきの撤去、仮設住宅の建設などがすすめられることになる。これらの事業はなんらかの公的資金が使われることになるのだから、こうした復旧・復興事業は震災で大打撃を受けた地元の企業と労働者などの営業と雇用・就業の機会としなければならない。これら事業に「失業者」が一定の割合で雇用されるように、吸収率制度を用いた被災者の就労確保のための法律を制定する。


 がれきの処理、被災した学校・保育所、病院・保健所、農業・港湾施設などの再建、住宅建設、防災・防火体制を含む地震と津波に強い街づくりなど課題は山積している。これらの事業を遂行する主体は、地元企業を最優先することを基本に据えなければならない。高度な技術が必要な場合には、地元以外のゼネコンが受注する場合もあるだろうが、その際、地元企業とのジョイントを義務付けるべきである。工事の施行主や公的資金の融資主体が、国・自治体・特殊法人で場合も例外であってはならない。


 (3) 復興への参加と公的就労事業の促進


 被災した住民・労働者の特徴は、①多様な産業と業種にわたり、②性別・年齢を問わない様々な職種に及んでおり、③いっせいに大量の失業と雇用不安が発生し、④なおかつそうした不安定な状況が長期化することが予想されるという状況になっている。そうした被災者の圧倒的多数が働く場を喪失するという状況に直面している。


 復興計画を推進するには、山積した課題に対応する多種・多様な職種のマンパワーが必要となる。また、被災者が避難所から仮設住宅に移ったとしても、被災直後にボランティアが支えた生活支援が必要であり、復興に向けた公私にわたる各種事業やサービスが求められる。


 地方自治体は、この事業を被災住民・労働者参加で民主的に取り組むという見地に立って、被災住民のこれまでの多種・多様な就業経験の蓄積をいかす多様な就労機会を被災住民・労働者に提供する必要がある。そのために、被災住民の就業希望のリストを整えることが大切になる。そして、被災住民の就業希望を生かして、復興に取り組む必要がある。


 震災復興は、がれき処理から始まり、さまざまな事業が必要となる。がれき撤去等の作業は被災者の震災対策失業対策事業、農地や漁場整備については農漁業者の就労事業として、住民の要求に合わせた多様な公的就労事業を創設する。また、地方自治体は簡易な事業・工事は失業者が自主的に結成する事業体への発注をおこなうなど、公的就労事業のなかでより効果的に地元の雇用と就労を確保すべきである。


 ILOは、振興対策の基本としてキャッシュ・フォー・ワーク( Cash-For-work)を推奨している。このなかでは、被災地に安定した雇用が生まれる前の段階では、現金即日払いの仕事によって、被災者の生活を支え、元気を回復してもらいつつ、地域経済に即座にお金をいきわたらせることが大事であるということが強調されている。こうした見地から、公的就労事業を推進することが必要である。


 地方自治体は、多くの被災住民の参加を得て復旧・復興事業をすすめるために、「住民復興会議」をはじめ町内会や農協、漁協、商工会議所、商工会などと協力し、被災者の就業希望のリストを整えるなど、被災住民の就業希望を生かし、復興に取り組む必要がある。


 (4) 復興のために住民本位の行政の再確立と公務分野の雇用拡充を


 大規模で長期にわたる住民本位の復旧事業をすすめるためには、「住民福祉の機関」としての地方自治体の本来の役割を発揮することが重要である。自治体合併が進む中で、公務員が減らされ、医療や福祉、防災などの住民サービスが切り捨てられてきたところに、今回の震災が加わって、被災住民との緊密な連携のもとに被災者支援などに対処できない状況もうまれている。財界のための道州制の実現を狙い、「平成の大合併」や「地方行革」の名で推進されてきた広域行政の誤りが明白になった。住民本位の行政体制の再確立をはかることは急務である。


 公務員自身が被災したり、公務員の家族の安否も確認できないままに、公務員は被災者支援対策に不眠不休の活動を続けている。本格的な復旧・復興計画を住民参加のもとにすすめるためには、要員の重点的な配置や支援体制では消化しきれないことは明らかである。復旧に重点を置いた要員の充実をはかるために、地元住民の中から、公務員の採用・配置をはかるなど、「失業者」の雇用機会をとしていくべきである。


 (5) 復興事業の就労条件の確立


 さまざまな復旧・復興事業がおこなわれるなかで、これらの事業に被災者を最優先して採用するのは当然だが、その就労条件は、生活できる賃金などが保障されるものでなければならない。


 ① 「生活できる賃金」の保障を


 賃金水準は最低賃金にとどまらない水準にする必要がある。戦災や災害復興をすすめる公的事業の基本として ILO94号条約では、賃金水準は「相場以上」とされている。その水準は、2省協定並みの賃金を下回らないものとし、「生活できる賃金」を保障する。また、公契約条例の経験に学び、国の法律として公契約法を制定することも重要である。


 復旧・復興事業に被災者を雇用するとき、賃金額を明示し、現金を直接労働者に支払うことで生活費や再起の機会を提供することを当然のことである。


 ② いのちと健康の確保を復旧・復興事業で働く労働者などの命と健康を万全に確保するため、石綿など粉じん防止対策の徹底と破棄物等の適正な処理を図るべきである。


 福島原発事故の関わり現場及び周辺で作業する労働者の命と健康と労働環境に万全を図ることは当然である。あわせて定期的な健康診断を実施することも必要である。


 [3]大企業の社会的責任と地場産業振興による就業と雇用の確保


 東北6県の電子部品や情報通信機器の出荷高額のシェアはそれぞれ12.3%、14.4%を占めるなど、今回被災した地域は工業集積地でもある。また、青森、岩手、福島、茨城の各県の農林水産業の生産高は日本全体の15.8%を占めている。


 東日本大震災によって、どの産業も大きな打撃をうけることになった。これらの地域で企業活動をしてきた大企業は、自治体の企業誘致によるさまざまな恩恵を受け、膨大な利益をあげてきたのだから、雇用の場を確保するなど社会的責任をはたすことが重要である。また、これら地域における地場産業を振興することによって、就業と雇用の場を確保することが必要になる。


 (1) 大企業の社会的責任で、下請け企業を含めた工場再建による雇用の場の確保を


 岩手、宮城、福島の被害は甚大で、自動車や電機関連企業の生産がストップし、これらの県の工場からの部品供給によって生産している国内・海外の工場の生産も停止せざるを得ない状況になっている。そうしたなかで、震災地域からの工場撤退をはかったり、海外工場に移転するという動きも報じられている。


 日本の大企業と関連企業はいま、今回の大震災の復興にあたって、日本経済の復興のために、その持つ経済的位置にふさわしい社会的責任をはたすのか、それとも、利潤至上主義のもとに、企業の社会的責任を投げ捨てて、海外に移転するのかが問われている。


 当面、工場再開まで他地域に生産を臨時的に移管せることはやむをえないとしても、工場再開を急ぐべきである。大企業や関連下請け企業は、企業進出に際して、自治体から用地・道路・水・港湾など生産に不可欠な社会的基盤を整備してもらい、補助金や交付金、税の減免措置など手厚い支援策を受けてきた。それぞれの企業が、今回の震災で多大な損害を被ったとしても、これまでそうした有利な条件を生かした高利益を上げ続けてきたことは明白である。大企業の生産活動も、関連企業に支えられてきたものであることは、今回の大震災で部品供給が滞り、大企業の生産に大きな影響を与えたことからも明らかである。


 ① 大企業は震災地域での取引関係を公表し、取引があるすべての関連企業の立ち上がりと経営再建の支援に責任を果たすべきである。


 ② 被災地復興の設備投資をおこなう企業には税制優遇などの措置をおこなう。


 ③ 現地企業を撤退しようとする企業は、事前に自治体への届け出と事前協議をおこなう。また、労働組合(労働者代表)との協議はもとより、労働者の希望にもとづいて関連企業への配置転換、地元に就業を希望する労働者への雇用の場の確保をはかるなど、万全の保障をおこなう。


 ④ 海外移転などをすすめる企業にたいしては、これまで地方自治体などから受けた補助金や交付金、税の減免措置に対応するペナルティ・課徴金を課す。


 (2) 地場産業・農林漁業の再建を


 被災地域の基幹産業である農林水産業が、今回の震災で壊滅的な打撃をうけることになった。岩手、宮城両県では約250漁港が壊滅的被害を受けた。漁船の損壊は確認されただけでも2800隻、集計されていない両県の2万隻も、大半が破損したとみられる。地震や津波による田畑の損害も甚大だ。農林水産省の推計では、岩手、宮城、福島の3県だけでも海水につかった田畑が約2万ヘクタールにのぼる。林業でも、製材工場が倒壊したり、林道が寸断され、仮設住宅の部品生産にも支障をきたす状況が生まれている。これら農林水産業とともに、地場の酪農・農水産品や食料品を加工する食品加工業も、工場崩壊など甚大な被害をうけた。


 これらの産業の復興をはかるためには、農地や漁港の整備・再建とともに、地方自治体が、住民の自主性と合意を基本に、地場の農水産品を加工した特産品づくりなど、地場の農水産品や食料品をベースにした産業おこしなど、地場産業と農林漁業の再建をめざす「復興計画」を作成し、本格的な取り組みをすすめる必要がある。農業、林業、漁業をはじめとした地場産業の振興をはかるために、これまでの法律の枠をこえた抜本的な支援策が必要となる。


 当面の放射能汚染水のたれ流しによって福島県のみならず茨城県の水産物の出荷停止を余儀なくされている。出荷制限対象となった農漁民に対する賠償や出荷制限の対象外の品目に対する風評被害への賠償を国と東電の責任でおこなう。また、風評被害の防止のために、検査体制を整備して、放射線基準値以内の農産物にたいしては安全食品マークを添付して発売する。


 [4]内部留保を活用して復興資金を


 政府は東日本大震災の被害総額について16~25兆円と推計している。しかし、被害額の幅が非常に大きいので、労働総研の復興財源の試算にあたっては、関西社会経済研究所が発表した「東日本大震災による被害のマクロ経済に対する影響」(4月12日)のデータを活用した。同研究所の推計では、東日本大震災の被害を、住宅や民間企業設備、社会インフラ(公園・上下水道、農林漁業施設、港湾・空港、鉄道軌道)などのストック、自動車・船舶などの動産を含めて17.78兆円と推計している。その内訳は、住宅(5.20兆円)、社会インフラ(7.24兆円)、民間企業設備(3.62兆円)、自動車・船舶(1.28兆円)となっている。


 労働総研は、これらの被害推計から、今回の震災復興にあたっては15兆円の復興財源が必要になると考えた。その基本的考え方は、社会インフラ整備8兆円、被災者への生活保障、住宅復旧資金(被災者生活支援法の抜本的拡充)、職業訓練費用、公的就労事業など、被災者の生活安定のための資金5兆円、その他の農林水産業・地場産業の復興基金等に2兆円程度を振り分けるというものである。


 復興資金について、消費税増税による税収でその財源をまかなうべきという意見が財界などから出され、与党内からは復興国債の日銀引き受け、特別法人税・特別消費税や震災復興税の創設が検討されている。しかし、東日本大震災の復興資金は、庶民増税に頼るべきではない。苦しい国民・労働者家計に負担をしいることは、これまで以上に消費の落ち込みを招くことになり、不況の長期化につながりかねない。


 いま、必要なことは、企業内に膨大に蓄積されている内部留保(ため込み利益)を活用することである。労働総研は、資本金1億円以上の企業(3万3355社)が、15兆円の無利子の復興国債を引き受けることによって、震災復興財源を確保するよう提言する。


 (1) 内部留保を活用し、復興国債15兆円を


 15兆円の復興国債を1億円以上の中堅・大企業の内部留保でまかなうことは十分可能である。これら中堅・大企業は3万3355社にのぼるが、その内部留保の推移をみると、1999年度から2009年度までの10年間で内部留保を189.7兆円から317.6兆円へ127.9兆円も積み増している(▼グラフ)。15兆円は、10年間で積み増しした内部留保の11.7%、内部留保総額の4.7%にすぎない。


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 内部留保はそもそも賃金の切り下げや非正規労働者の大量雇用・解雇など労働者の犠牲と、下請単価切り下げなどの中小企業いじめによってため込んだものである。国難ともいえる深刻な震災被害から被災者の生活と被災地域の復興をはたすために、企業が復興国債を引き受けるなど社会的責任をはたすのは当然のことである。


 しかも、これらの企業内に過剰に蓄積された内部留保の換金性資産は、99兆円にも上り、カネ余りという事態になっている。換金性資産とは、現金・預金、有価証券(流動性)、公社債(固定資産)、その他の有価証券(固定性資産)、自己株式の合計である。これら企業は、近年、換金性資産を増大させており、ここ2年をみても2007年度の83兆円から2009年度の99兆円に16兆円も増やしている。国債15兆円を引き受けても、それは、これら企業が2年間で積み増した換金性資産を取り崩すだけですむし、換金性資産のわずか15%に過ぎない。


 企業が内部留保の4.7%を復興国債引き受けに回すと仮定して、主要企業の復興国債引き受け額をみると、▼別表1のようになる。これら企業はこの間、さまざまな税制優遇策を受けてきた。たとえば、トヨタ自動車は、2009年度の有価証券報告書から推計すると、法定実効税率による税額は2兆4343億円だが、外国税額控除、試験研究費税額控除、IT投資税額控除などの優遇措置によって、実際の納税額は1兆8254億円で、6089億円もの税額控除等を受けている。(▼別表2)


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 これら企業は、さまざまな優遇措置を長年にわたって受けてきたのだから、未曽有の被害を受けた東日本大震災の復旧・復興に向けた無利子の復興国債を引き受けるのは当然といえよう。


 (2) 内部留保を活用した復興は日本経済にもプラスに


 内部留保を活用し、国債によって被災地の復興をすすめることは、日本経済に大きく貢献することにもなる。総務省2005年産業連関表(確報)を用いておこなった労働総研の試算によれば、15兆円の復興財源を、破壊された社会インフラ設備の復旧に8兆円を振り向け、5兆円を被災者の生活資金等にあて、2兆円を地場産業などへの復旧・復興資金に回す、その経済波及効果は、国内生産誘発額が26.5兆円、付加価値誘発額(≒国内総生産)13.2兆円になる。日本の経済成長率を2.6%以上押し上げる効果が生まれることになる。(▼別表3)



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 産業別にみても、建設7兆8400億円は当然としても、商業2兆3300億円をはじめ鉄鋼8300億円、自動車5000億円、電機・通信機器・電子部品などの電機産業で6000億円の生産誘発効果が生まれる。


 この復興財源以外にも、復興計画を呼び水とした民間の設備投資などが加われば、さらなる生産拡大、付加価値額の増加が見込まれることになる。


 今回の試算にあたっては、復旧・復興事業との関連で、雇用維持や被災地への復興投資にかかわっての企業減税などが見込まれることから、経済波及効果に伴う税収試算はおこなわなかった。しかし、被災住民の生活と地域経済の振興をはかるという立場から、震災の復旧・復興事業に取り組めば、それは日本経済の内需を拡大し、日本経済を景気回復の軌道に乗せることにつながる。そうなれれば、税金の増収効果をもたらすのは確実である。


 内需中心の日本経済を実現し、着実な経済成長をはかる中でこそ、15兆円の復興国債を償還する展望も生まれてくるのである。