ハウジングプア、路上に放り出される若者 -貧困な日本の住宅政策、住まいも自己責任 | すくらむ

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 NPO法人自立生活サポートセンターもやい の代表理事・稲葉剛さんによる「ハウジングプア」についての講演を11月5日に聞きました。その要旨を紹介します。(byノックオン)


 もやい に寄せられる住まいに困窮した人の相談は、派遣切りされ寮を追い出された若者だけでなく、最近は解雇された正社員や、困窮した自営業者など、幅広い立場の人たちにまで広がっています。


 貧困ゆえに居住権を侵害されやすい状態を、私は「ハウジングプア」と呼んでいます。この「ハウジングプア」には次の3つの段階があります。


 1つめは、派遣の寮や、「追い出し屋」被害が後を絶たない「ゼロゼロ物件」など、当面は家があるが、派遣切りなどでいつ家を失うか分からない状態です。


 2つめは、ネットカフェやファーストフード店などとりあえず屋根はあるところにいるが家がない状態です。


 3つめは、路上、公園での野宿など屋根がない状態です。


 こうした「ハウジングプア」の状態が、幅広い立場の人にまで広がっている背景には国の住宅政策の貧困という問題があると思っています。


 日本の公的賃貸住宅は、2006年3月時点の数字で344万戸です。これは住宅全体の7%にすぎません。イギリスの公的賃貸住宅は20%、フランスは17%あり、それと比べて日本の公的住宅は3分の1程度しかないのです。


 1970年代以降、公的賃貸住宅の建設は減っていますが、とくに東京都は石原都政になった1999年から今まで都営住宅の新規建設はゼロ。このため、2005年度の公営住宅の応募倍率の全国平均が9.9倍に対して、東京都は32.1倍と狭き門になっています。


 日本の公営住宅は絶対数が少ない上に、若年単身者には入居資格すらありません。20歳を過ぎても親の家に同居する若者は「パラサイト・シングル」などと非難されたりすることがありますが、先進国で若年単身者に対する公的住宅支援や国による家賃補助政策などが無いのは日本だけなのです。ヨーロッパ諸国でほとんどの若者が早い時期に親元から自立をはたすのは公的住宅政策が充実しているからなのです。たとえば、フランスでは若年単身者への低家賃公営住宅への入居支援、若年失業者への公的住宅制度、借家契約の連帯保証人代行、保証金の無利子貸与、18カ月までの未払い家賃保障などの若者の移行期支援がきちんとあるのです。


 私は、日本にはワンパターンの「人生双六(すごろく)」しかなく、その「人生双六」から自分のコマが転げ落ちてしまうと簡単に「ハウジングプア」になってしまうような状況にあると思います。「標準的なライフコース」からちょっとはずれるだけで「ハウジングプア」になる可能性がとても大きくなってしまうのが日本社会です。


 これまでの「人生双六」は、終身雇用や右肩上がりの成長により、社宅や賃貸住宅にはじまり、給料アップとともにローンを組んで持ち家を購入するというパターン。でも今や非正規労働者が3人に1人、若年層では2人に1人が非正規労働者にされ、マイホームをゴールとする従来の「持ち家政策」や「住宅は自己責任」という政策を転換しなければ、とくに若年層の多くは「ハウジングプア」に陥ってしまいます。


 給料の半分が消えてしまうほどの高額な家賃や、一生かかって背負うことになる住宅ローンなど「家のために働いている」ようなこれまでの日本の「人生双六」を転換する必要があります。公的な住宅政策が貧困なために、これまで多くの人が人生のかなりの部分を“家”に縛られてきたわけですが、今や若年層は“家”に縛られるどころか派遣切りと同時に路上に放り出されるハウジングプア状態にさらされています。


 日本では、「安心して暮らせる住まい」を確保するのは自己責任とされ、住宅の保障を政府に求める声は依然として弱いままです。


 私は多くの生活困窮者と出会う中で、貧困ゆえに世帯形成ができなかった人や、ハウジングプア状態に追いやられ、「生存」までもが脅かされる状況を見聞きしてきました。


 一方で、DVや家族による虐待を受けた人が、「標準的なライフコース」「人生双六」に縛られているがゆえに、自分の人生そのものを奪われてしまうという状況も見聞きしてきました。


 ハウジングプアをなくして、「誰もが安心して暮らせる住まい」を実現することは、誰もが「生存」を保障されるだけでなく、自分らしい「自由なライフコース」を選択できることにもなると思うのです。