ニート、ひきこもりは自己責任じゃなく貧困問題 | すくらむ

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国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 4月24日の衆議院「青少年問題に関する特別委員会」で行われた「ニート、ひきこもり等、困難を抱える青少年を支援するための対策」の参考人質疑の議事録が興味深かったので紹介します。このブログに、たまに「ニートは自己責任」という趣旨のコメントを寄せてくる方がいらっしゃいますが、ニート、ひきこもりは貧困問題であり、社会全体で解決していかなければ、社会全体にとって大きな損失をもたらす問題だということを、専門家の方が証言しています。(byノックオン)


 まず、東京大学社会科学研究所の玄田有史教授による参考人意見陳述の一部分です。


 今の青少年問題--ニート、ひきこもり等の背景にあるのは、実は貧困問題です。


 当初、ニートが大きく話題になったときに一般によく言われたのは、ニートは、経済的に余裕のある、どちらかというと裕福な家庭から生まれているんだろうというふうな主張、意見というのが多々見られました。


 2007年10月に、労働政策研究・研修機構発行の『日本労働研究雑誌』に、「若年無業に関する経済学的再検討」という論文を発表しました。そこで、私自身、こういう研究を紹介しています。


 総務省統計局が5年に1回行っている就業構造基本調査という、100万人以上の単位、そこには大変多くのニート状態の若者を含めている大規模な調査があります。


 こちらを用いて研究してみたところ、かつては、ニート状態の若者は、比較的所得の多い、年収1,000万円以上の世帯から輩出するケースは、確かに1990年代冒頭ぐらいまでは高かった。それが、いわゆる失われた10年から2000年代を経験する中で、明らかに経済的に豊かではない、むしろ、貧困世帯そして単身世帯、理由があって若者一人で暮らしている世帯、貧困世帯や単身世帯からニート状態になってしまう若者が明らかに多くなっているという事実があります。今、ニート、ひきこもり、青少年に困難を抱える問題の大部分は、今大変な社会問題である貧困問題と表裏一体の関係にあるということを改めて認識しなければならないというふうに思っています。


 非正規雇用の問題、派遣切りの問題も含めて、今、就業支援だけではなくて、やはり生活を支援する、その両方をいかにセットにしてやっていくのかということは大変大きな社会の流れであろうと思いますし、先進国の例を考えても、包括的な支援が必要で、単に就業支援だけでは解決をしない、就業支援と同時に住宅支援などの生活支援、この二つがセットになって初めてさまざまな効果があらわれてくる。


 たとえば、技能者育成資金制度というのが始まって、技能訓練を受けると同時に、生活資金に関する援助もする。そして、それに対しては、就職の状況に応じて、奨学金の返済の免除ですとか、やっとそういう制度が始まってまいりました。これをいかにして、より望ましいものにし、多くの必要とされている方々に提供するのかということが今重要です。


 最近、今回のような経済状況の中で、新自由主義に対する批判でありますとか、市場経済に対する批判、市場経済がいかに悪しきものであるか、さまざまな御意見があろうかと思います。市場経済が悪かどうかということはまたいろいろな論点があるかと思いますが、残念ながら、市場経済の中には悪しき存在があるということも認めなければならない現実だと思います。


 フリーターというのは労災がもらえないんだとか、そういうふうなことを言う使用者側が全く世の中にはいないという保証はどこにもないわけであります。もちろんそれは法律上は間違ったことであって、しかし、そういう法的な知識ということを持っている若者ばかりではありません。


 以前、非正規の若者、独身の若者2,000名に調査をしたところ、ほぼ8割から9割はハローワークの存在は知っています。ハローワークというのに行ったことがあるか行ったことがないかは別として、その存在というのは知っている。しかし、一方で、総合労働相談コーナーという存在は3割も知りません。


 総合労働相談コーナーというのは、御存じのとおり、2003年度から開始をされた、労働問題に関するあらゆる問題に対するワンストップサービスです。賃金の不払い、不当解雇、セクハラ、いじめ、あらゆることに対して、そこに相談に行く。もちろん監督行政の一環でありますから、最悪、悪い場合には送検等もできるわけです。


 ただ、何かトラブルに遭った場合に、そこに相談に行けばいいんだ、そういう知識も経験もない場合には、言い方は余り適切ではないかもしれませんが、泣き寝入りということも起こってしまうわけです。どうやって問題が起こったときに自分一人で泣き寝入りせずに解決するのか。


 我々は、病気をした場合には病院に行けばということを多くの人は知っています。働きながら、生きながら、トラブルに遭った場合に、どこに相談に行けばいいか。もちろん親とか近隣にそういう相談に乗れる人がいる場合はいいでしょう。しかし、今の貧困問題を抱えているのは、親すら、近隣すらに相談できる場所がない、知人がいないというふうな現実です。


 総合労働相談コーナー一つとってみても、私は、例えば中学校や高校でお話をさせていただく場合には、総合労働相談コーナーという大変長い名前だけれども、必ず地域には複数あって、何かあったらそこに相談に行けば必ず個別に話を聞いてくれる人たちがいるんだということを伝えるようにしています。


 「貧困の再生産」という言葉が学問的にもあります。本当に、親の世代のさまざま抱えた問題がストレートに子どもの世代につながってしまう、特に負の面がということは、今の日本の大変深刻な状況かというふうに思っています。


 同時に、一方で、大変難しいのは、個々の家庭にどれだけ外部が介入することができるのかという大変深刻な問題も抱えていて、多くの場合、その答えというのを教育に、学校教育に求めるわけですが、かといって、では学校教育ですべて解決かというと、そうでもない。そういう面では、非常に答えの持ちにくいところであるというふうに私自身は思っています。


 では、なぜ貧困家庭の若者たちが、貧しくお金がないにもかかわらずニート状態を結果的に選んでしまうのかといいますと、多分、どうすればいいんだという具体的な道筋が見えないからではないでしょうか。昔は、貧しいながらも、向こう三軒両隣というような、比較的いろいろな、進学はしない、エリート的ではないけれども参考になるような大人が身の回りにいて、それを一つの足がかりにして人生のさまざまな道のりを歩んでいくというようなことが多分あり得たのではないか。他者がうまくかかわることによって若者を支えていく、家族にも責任があるけれども、やはり地域で守り育てていくという原点に戻っていくということになるのではないかというふうなことをいつも思っています。


 ニートの若者は、意欲がないわけでも能力がないわけでもありません。私は、強いて言えば、希望がないんだというふうに思っています。希望には、願いと実現可能性と具体性と行動が必要です。具体的に何を考え、何を実現し、何を行動すればいいかというふうな具体的なイメージ、自分の中の見込みというのが持てるようなコミュニティーづくりというのが、結局は、この貧困問題、若者問題の一つの解決策を導くのではないか、そんなことを考えています。


 次に、特定非営利活動法人「育て上げ」ネットの工藤啓理事長の意見陳述の一部分です。


 今、小学校、中学校に行けない人が年間12万人ぐらいいて、高校をやめる人が8万人いて、大学などをやめる人が14万人いて、ニート状態にある人が60万人いて、ひきこもり状態にある人が、ひきこもりは年齢制限がありませんので、100万人とかいて、働く人の3分の1が非正規で、5人に1人が年収200万以下で、そして4人に1人は貯金がない。


 こういう状況を若者の支援という観点から考えていく場合においては、民間の団体だけでは限界があります。政策として、政治としてやっていただかなきゃいけないこと、その方々しかできないこともたくさんあります。


 何よりも、今、若者のひきこもりの支援とか若者の支援というのは、全体の風潮として、国の「経費」というイメージを受けます。「支出」であるというイメージを受けます。自分の友人からも言われます。何でそんなところに自分の大切な税金を使わなきゃいけないんだと、だったらおれも苦しいと言われます。


 何となく、そういう若者支援というのは「経費」という感覚が非常に強くなっておりますけれども、これは社会的な投資事業であって、1人の青年が自立することによって、本人も幸せですけれども、当然、納税の観点から見ても、放置したままと比べれば非常に大きなインパクトが、1人でもあります、40年ですから。それが100万人とか何10万人とか、何もされないまま放置されているというのはやはり国家的な損失でもあると思いますし、そこに対して、彼らの支援というのは「自己責任」であり「経費」であるというこの風潮を、何とか発言力のある方に変えていただきたい。


 それは、投資であって、彼らが生き生きと働くということは、国を活性化させることであり、消費を喚起させることであり、やはり、できるだけ若い段階で必要な支援が受けられて、みんなが、日本のために、自分のために、家族のために働けるような時代を、政治の方とも、もちろん行政の方とも、自分たちとも、一体となってやっていくことがいい。そのための対策であるとか政策、そこを意識した対策、政策というのができていけば社会はもっとよくなるんじゃないかなと思います。


 また、いわゆる支援する側の人材が、親から、「おまえ、フリーターやニートを支援したって、おまえ自体がフリーターじゃないか、ワーキングプアじゃないか、自分のことを考えろよ」と言われる社会は、やはりどこかおかしいのだろう。私は、こういう青少年の社会的支援に関するNPOや団体等の寄附税制の拡充等については、より本格的に検討する必要があるのではないかというふうな意見を個人的には持っています。