日本版ワークシェアリングは非正規化すすめ「賃下げ」「失業シェア」「派遣切り」もたらす | すくらむ

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国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 雑誌『POSSE』vol.3(2009年4月発行)に、先日の反貧困フェスタ2009で「貧困ジャーナリスト大賞」を受賞した朝日新聞編集委員の竹信三恵子さんが、「日本版『ワークシェア』の虚妄を超えて - 『賃下げ』か『失業シェア』か」と題したインタビューに答えています。(以下、また私の勝手な要約ですのでご容赦ください。byノックオン)


 まず、前回の日本版ワークシェアリングが果たした役割の検証です。


 バブル崩壊で景気が悪化し、2002年に、当時の日経連と連合と厚生労働省が合意したのが、前回のワークシェアリングです。このときの日本型ワークシェアリングは、「緊急避難型」と「多様就業型」の2つとされました。


 「緊急避難型」のワークシェアリングは、当時の日経連には「バブル期に賃金を上げすぎた」という認識があり、景気悪化をこれさいわいと「高くなりすぎた賃金を何とか下げたい」との目論見で、ワークシェアリングという言葉を最大限に利用。ワークシェアリングという言葉を使わなければ、ただの賃下げによる雇用調整にすぎなかったものが、「仕事の分かち合い」という“語感”によって働く側の“同意を調達”した賃下げが可能となったわけです。「緊急避難型」のワークシェアリングは、賃金を下げなければ雇用は維持できないと働き手を“脅す装置”になって、まさに労働者・労働組合に「強制された自発性」を発動させ、賃下げが進行することになったのです。加えて、「希望退職」などのリストラ推進で雇用も維持せず、実際は少しも「緊急避難」になっていませんでした。


 もうひとつの「多様就業型」のワークシェアリングは、もっとたちが悪く、人件費の削減のために非正社員を増やして質の悪い雇用を増やす結果になりました。


 日本の非正社員というのはご存知の通り、独立して生計を営めない水準の低賃金です。オランダと違い、同程度の仕事についている正社員との均等待遇もないので、社会保険や有給休暇などの安全ネットも保障されていない。EU指令では期限のある仕事以外の有期雇用は認めていませんから、オランダでは、無期雇用の短時間労働を増やしたわけです。ところが日本では、契約を打ち切ればすぐ人減らしができる有期雇用の不安定労働を増やしてしまった。


 日本の非正規労働者は、夫や親がいるからなんとかやっていけるだろう、というようなことを前提とした設計ができていたからです。つまり主婦と若者のアルバイトを想定しています。夫や父親の傘の下に入ればいいだろうということで、お小遣い程度の賃金で、セーフティーネットがまったくなくても文句を言わない働き手を前提にしています。そこを増やそうというのが「多様就業型」のワークシェアリングだったわけです。おかげで、夫や親のお世話になれない働き手までもが、こうした働き方に落ち込んでいきました。セーフティーネットがなく、ワーキングプア賃金で、いつ失業するか分からない。「多様就業型」のワークシェアリングは、非正規化をすすめ、「失業のばらまき」、「失業のシェア」を推進したのです。


 本来なら、景気が戻れば働く条件も戻すべきです。そもそも景気悪化で大変だから緊急避難で一時的に「ワークシェアリング」するという主旨ですから。ところが、財界側はそれをぜず、むしろ人件費切り下げを目一杯享受し続けた。そのため労働分配率は下がり続けました。「仕事の分け合い」という言葉によって賃下げへの抵抗を封じたという意味で、ワークシェアリングは「調達された同意」の道具になりました。


 そして、今回のワークシェアリングの最大の問題は、「派遣切り」にさらされ、もっとも深刻な状態におかれている派遣労働者を、少しも守ることにならない点です。派遣先企業の直接雇用ではない派遣社員は切った上でのワークシェアリングになっているのです。派遣労働者の雇用は、「派遣会社の問題」として、派遣先の大手企業は「我関せず」です。企業の努力があるとしても、直接雇用の非正規までに限られるなど、派遣社員を含め、もはや非正社員が全体の4割近くまで達した中では、実質的なワークシェアリングの基盤が失われているのです。さらに個別企業内部の「仕事の分け合い」の問題に矮小化してしまうと、2002年のときと同じで、正社員の賃下げの名目にされるだけで、さらなるワーキングプアを増やすことにしかなりません。


 もはや、「ワークシェアリング」の言葉遊びよりも、労働の質の劣化に歯止めをかけるための社会保障の充実、非正規雇用のセーフティーネット拡充に加え、均等待遇を急ぐ必要があるのです。