非正規から正規へ賃金を2倍に上げると海外に逃げる企業を日本国内に押しとどめ不況脱出なる | すくらむ

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国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 3月13日の参議院予算委員会で、参考人として第一生命経済研究所主席エコノミストの熊野英生さんが意見陳述しました。驚いたのですが、熊野さんは、「この間増加した非正規労働者を正規労働者に切り替えて、労働者の賃金を2倍に上げることで内需が拡大し、海外に逃げようとする企業を日本国内に押しとどめ、日本経済は不況を脱出することができる」という主旨の意見陳述をしているのです。以下、企業のシンクタンクの新進気鋭エコノミストが、私たちの主張を裏付けてくれている国会議事録の一部を紹介します。(byノックオン)


 ▼第一生命経済研究所主席エコノミスト・熊野英生さんの参考人

   意見陳述〈3月13日、参議院予算委員会の国会議事録より〉


 構造改革についての振り返りということでお話を差し上げたいと思います。


 まず、目下の経済情勢と絡めまして、何が構造改革によって変化し、何が変わっていなかったのかと、こういう対立点、総括について御説明したいと思うんですが、昨日、内閣府からGDP、昨年の10~12月期の改定値が出ました。マイナス3.2%、これは前の4半期に比べて10~12月が3.2%低下したという話なんですが、実はこれはユーロ圏あるいはアメリカ、この欧米の成長率の落ち込みよりも日本の方がマイナス幅は大きゅうございます。日本は実は当初は金融機関のダメージが小さいので景気悪化の度合いも軽いのではないかといわれ、金融のやられ方は小さかったんですが、逆に貿易の悪影響は日本は意外に大きい。NIES諸国、貿易のウエートが大きい国々と同じように日本はダメージが大きいということです。(中略)


 実は、この姿に構造改革における変化がかなり効いているんではないかというのが私の理解です。それは、景気回復が、今景気後退期ですけれども、一つ前の景気回復が2002年の1月から始まったんですが、これはまさに構造改革がキックオフされた直後だと思います。そこから現在に至るまでの成長の質が構造改革に伴いまして変容してしまった。


 私どもエコノミストですからGDPの評価で物事の変化を評価するんですが、GDPを構成する輸出とか設備投資とか、いろいろな要素、コンポーネントと言いますけれども、このコンポーネントが、実は2001年の末から現在に至るまで、昨年の10~12月に至るまでの経済成長率の内訳の伸びたところを見ますと、実は大きな偏りがございます。これは輸出あるいは民間設備投資、つまり企業部門、とりわけ輸出セクターが伸びた部分がGDPを牽引していました。GDPが2001年の末から現在まで伸びたプラス幅のうち輸出と設備投資が何%ぐらいプラス幅を占めていたかという寄与度で見ますと、実に99%。つまり、個人消費とか政府消費、政府投資あるいは住宅投資など内需部門についてはほとんどゼロ成長だったというのが実態です。つまり、構造改革、前回の景気拡大期というのはもう専ら輸出セクターが牽引役になっていて景気悪化を脱したんですけれども、実はそれは内需がほとんど足踏みをしたままで外需が伸びただけだったと、つまり成長の牽引役に大きな偏りがあったということが言えると思います。


 つまり、変化したところと変化していないことを対比させてみますと、外需を追い風にしたことが得られたこと、変化したことだと。しかしながら、変化しなかったこととしては、内需の弱さが今もって改善されてないということが構造改革を経て現在見て取れることだと思います。


 なぜ内需が拡大しなかったのでしょうか。(中略)


 労働市場において大きな変化がございました。これは非正規雇用、パート、アルバイト、派遣社員、契約社員、こうした正社員以外の人々が実にこの7年間、2002年から直近まで、26%から32%まで6%、シェアが上がっております。


 非正規雇用を増やしてきたということは、実は、労働コストの面ではそれが低下したんですが、所得の面でも同時に低下した。つまり、賃金というのは企業にとってはコストであるんですが、家計にとっては総需要の基になる所得になるんですけれども、この労働コストについては、例えば卑近な例で時間給で表してみますと、非正規雇用の人たちの時間給は、去年の6月のベースの調査では、大体ざっくり言うと1時間当たり1,200円、これに対して正社員については2,400円、倍ぐらい違うんですね。


 つまり、ウエートが26%から32%に増えたということは、それだけ時給の低い労働者の数が増えたということなので、その効果によって全体の労働コストが下がってきた。


 こういう非正規雇用の人たちが増えたことに対しては経済論壇を始めとしていろいろな議論があります。例えば、時給が低い人たちが増えないと、日本は海外に比べると労働コストが高過ぎて日本から海外へ産業空洞化が起こる、企業が移転してしまうんじゃないか、だから非正規雇用化は正当化されるべきだという意見があるんですが、私は意見を異にします。


 なぜならば、私がいろいろ輸出企業の経営者から聞いている話はそれと違います。日本の労働コストが高いから海外に移転するというよりは、日本の内需にいつまでもしがみついていても輸出企業は、製造業は成長しない。したがって、インドや中国、ベトナムの方が内需の成長ペースが高い、つまり労働コストではなくて市場の成長力に注目しながら海外へ進出する企業は増えている、つまり、非正規雇用が増えるということは裏表の関係として日本の内需の成長力を落としていると。折しも、2005年以降は日本の人口の減少がだんだん広がってきた時期です。つまり、労働の単価が低いとその分だけ人口減少に引きずられる形で内需の成長力は弱くなる、したがって企業は成長力の乏しい日本から海外へ行ってしまうと。


 つまり、これは恐らく中長期的な構造改革として、正社員を増やす、つまり時給の倍ぐらい違うその倍の部分というのは、これは人的資本というんですけれども、スキルの部分、あるいはいろいろな労働のクオリティーに対する高い対価を得る、そういうふうな正社員、つまりスキルを高めるような形で賃金を上げていくことが恐らくは内需の成長力を復活させ、海外に出ようとしている企業を国内に押しとどめ、それが日本の経済活性化につながっていくと。そういうふうなビジョンからいうと、2002年から現在に至るまでの労働市場における構造改革というのは課題が残っているんではないかということが言えると思います。