公務員バッシング、正社員バッシング、派遣村バッシングがもたらす底なしの貧困スパイラル | すくらむ

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国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 昨日の衆議院予算委員会に、反貧困ネットワーク代表の宇都宮健児弁護士が参考人として出ていることを新聞で目にして、そういえば、湯浅誠さん(NPO法人・もやい事務局長)も意見陳述していたなぁと思い出して、衆議院のホームページをチェックしたら議事録がアップされていました。この間の派遣村バッシングや正社員バッシング、ひいては公務員バッシングにも応答していて興味深いので、衆議院予算委員会中央公聴会(2月16日)の湯浅さんの意見陳述議事録の一部を紹介します。(byノックオン)


 派遣切りで路頭に迷う人たちに対して、何で働いている間にお金をためられなかったんだと言われるけれども、配布した資料に掲載している私たちのところに相談に来た方の例でみると、この方は毎月皆勤手当をもらっている。つまり、一度も休んだことなんかないんです。だけれども、最初の月が、10月から始まって、額面で14万円ですね。寮費等が5万6千円取られて、仮払いを受けないと生活がもたない。手取りは3万4千円です。仮払いを入れても8万円。前借りしていかないと生活がもたない。12月の給与は3万1千円です。仮払いされたお金を入れても7万円。この状態で、さよならといって出される。すぐお金がなくなっちゃうわけです。それを、おまえがためていなかったのが悪いで済むのかということです。


 物のように捨てられた人たちは、自殺、犯罪、ホームレス、そして、ノーと言えない労働者にならざるをえない。例えば、派遣村に来た方たちがすぐに仕事につこうと思ったら、どういう仕事があるかということです。まず、ハローワークに行っても意味がないんです。なぜかというと、月給仕事だったら、最初の給料が入るまでの生活費がもたない。それでハローワークに行けなくなるんです。


 では、どういう仕事だったらつけるかというと、スポーツ新聞とかで寮つき、日払いと書いてある、そういう仕事以外、行きようがないんですね。


 そうなることによって何が起こるかということです。雇用保険がついているか、社会保険がついているか、そんなことは見えないわけです。きょう収入を得ないと自分が食えないので、とりあえずきょう、つまり極端な話、日給についても言えなくなってしまいます。


 そういう中で、ノーと言えない労働者が増えていくと、労働市場の質が壊れていく。低賃金でどんな条件でも働くという人がどんどん増えていったら、誰がまともな賃金で人を雇おうと思いますか。そうやって労働条件がガタガタに崩れていってしまう。その人たちが頑張れば何とかなるんだというところでは、社会全体の地盤沈下はとまらない。


 そういう中で、私たちがやれたのはごくごくわずか、たった500人の人たちに、派遣村というのをやって階段をつくった。寝られる場所を確保して、食事をとれるようにして、緊急小口、生活保護を受け、アパートに入った。


 これは、たくさん批判をもらいました。何だ、あいつら働く気がないのかと言われました。だけれども、実際は、自立して仕事を見つけようと思ったら、そのためにはお金が要ります。就職活動をするためのお金、面接に行くための交通費、洗濯をするためのお金。着たものも、ずっと1月着っ放しのもので面接に行ったって受かるわけがないですから。そういうお金が雇用保険から漏れちゃうと出てこないんですね。


 そして、さらにアパートに入ることによってハローワークに通えるようになります。生活の下支えを受けて居所を定めていれば、ハローワークで仕事が探せるようになるんですね。そうすると何が起こるかというと、余りにもひどい条件の仕事だったら、自分は行けない、行かないと言うことができるようになる。それによって労働市場の質というのが保たれるんだと私は思っているんです。


 つまり、セーフティーネットというのは、どうしようもないだめな人間を、しようがないから食わしてやる、そういうものじゃないんですね。セーフティーネットというのは、そういうのがあって初めて社会がうまく回っていく、労働市場の質が一定に保たれる、そういうものだと私は思っています。


 社会全体を強くするために、やはり底上げが必要だと私は思っています。それは決して無駄なお金ではない。そうじゃなくて、人々が生活していく、それによって次のステップが見えてくる、頑張れる、それによって消費が進んでいく。


 例えば、私、ずっとこういう活動をやっていましたから、多分何万人という野宿の人、ホームレスの人に会ってきたと思いますが、よく言われるんです。野宿なんかでごろごろしていないで、仕事をしてお金をためてアパートに入ればいいじゃないかと言われるんですけれども、私が会った中で、自分でお金をためてアパートに入った人というのは2人しかいないんですね。では、あとの人はどうしようもない人たちかというと、私が見る限り、人間的な努力ではそんなことはできないですよ。冬場、1日2日路上で寝たら、私もしょっちゅうやっていましたけれども、日中、頭がぼおっとなっちゃって就職活動どころじゃないんですね、夜寝られないから。なので、そういう中でやるというのは、これは普通の人間的な努力ではそんなことはできません。


 でも、すごく例外的にやっちゃえる人がいるんですね。では、その人はどうなったかということなんですけれども、路上にいながら50万ためて、自分のお金でアパートに入った。私、彼に頼まれて保証人になったんですけれども、びっくりしました。こんな人がいるんだと思ってどぎもを抜かれました。だけれども、その人は、余りにもそのときの無理がたたって、肝臓を壊しちゃって、その後ずっと入退院。それで今、それ以降はずっと働けなくなって生活保護です。56歳で、この後何年生きるかわかりません。20年かもしれない、30年かもしれない、ひょっとしたら40年かもしれない。40年間ずっと生活保護です。そのためにかかるお金と、早目にちょっとサポートしてあげて、働けるうちに仕事をして、税金を払ってもらって、消費してもらうようになるのと、どっちが社会全体にとって得か、私は見えていると思うんですね。そういうふうなお金の使い方をぜひお願いしたいというのが、私からのお願いです。


 必要なのは、貧困状態に陥る前に防ぐことですね。そのためには、労働市場の中と外で、労働市場の中の規制も必要だし、外のセーフティーネットも必要です。労働市場の中の質と社会保障の質というのは連動しています。例えば、最低賃金が生活保護基準と連動するようになったのと同じで、社会保障の質が落ちていけば労働市場も底なしになります。社会保障の質が上がっていけば労働市場の質も上がっていきます。推移は一緒なんですね。


 正社員の年功型の賃金カーブと非正規のフラット型の賃金カーブ、この二つのグラフがよく出てきます。では、どうやってこの状態を解消するんだということになると、間をとろうという話になるんですけれども、私はそのためには条件があると言っていまして、日本の消費支出は山型なんですね。山型の消費支出ですから、賃金はある程度山型を描いてくれないと生活できないということになります。つまり、年功型賃金の背景には年功型支出があるんですね。


 そのときに、人の生活というのは収入と支出のバランスで成り立っていますから、収入で均等待遇を実現しようとして、正規と非正規の山が一緒になっていくというためには、支出も抑えていかないといけません。そうじゃないと、山型がこのままだと、正規も非正規も暮らせなくなる。それは、労働市場の中の、今いろいろもめている労働条件の整合性をどうやってとるかということと、支出の山型を下げていく、つまりセーフティーネットを強化していくということですね。日本の大学の費用は、残念ながら世界1高いです。その大学の費用を下げてくれれば、そこまで収入が上がっていかなくても生活はできる、子どもを大学に行かせられます。収入と支出のバランスをとっていく、そのためには労働市場の中と外をセットで見ていく必要があるんじゃないかと思います。


 よく言われているように、3月、大量の人が切られます。厚労省は12万4千人と言っていますが、製造業派遣や請負の会社は40万人だと言っています。万単位の人が路頭に迷うことになります。そうなったときに、ではその人たちをどうするのかということですね。


 ほっておくと自殺は増えるでしょう。今全体が大変な中ですけれども、だからこそ全体で支えるしかないんじゃないかと思います。そうやって社会復帰できるようにしていただきたい。


 そのためには、シェルターや総合相談窓口をつくっていただきたい。これは、大都市圏だけということになると、自治体が、うちに集まってきちゃうといって嫌がるので、やはり全国各地につくっていただきたい。全自治体が等分に負担するような形をとらないと、うちだけに集まってきちゃうというような、それでなかなか各自治体が動けないという事態がクリアできません。


 それから、やはり雇用保険制度から漏れちゃう人が大量にいますので、そこの法改正等は4月以降必要だと思いますけれども、その前に、漏れちゃっている人に何らかの手当てを考えていただきたい。そのために基金のようなものを創設していただきたい。


 また、現行法上の違法という問題です。余り知られていないのは、寮からの退去というのは、派遣会社が周辺家賃相場と同じぐらい家賃を取っているとき、寮費を取っているときは借地借家法の適用を受けるので違法です。これは最高裁の判例、判決があります。寮費を5万円も6万円も取っているような派遣会社が、仕事がなくなったからさようならだよといって追い出すのは、これは違法なんですね。そのことが知られていない、本人たちにも知らされていないので、しようがないといって追い出されている。それが生活の状態を非常に深刻化させてしまっている、ホームレス状態にさせてしまっている。これは現行法でも十分規制されていることですので、皆さんに伝えていただいて、3月、寮を追い出されている人が1人でも減るように、ぜひ御尽力いただきたい。


 先ほど貧困スパイラルの話をしましたが、アメリカはもう既にそうなってきてしまっています。中間層も没落してきている。貧困の拡大というのは、さっき言ったように、労働市場が壊れた結果であると同時に労働市場を壊す原因ですから、そこはスパイラルを描いていますので、問題は戻ってくるんですね。


 ですから、周辺が地盤沈下していけばいくほど、公務員なんか典型的だと思いますけれども、20年前のバブルのころ、私が学生だったころは、公務員というのは一番何かうだつの上がらない、ぱっとしない、手にこういう黒いのを巻いたおじさんのイメージで、そういう職業だというイメージだったと思うんですけれども、今や特権階級の代表格のように扱われて、あんなに守られている人たちはいないみたいに言われて、それは、公務員は変わっていないんだけれども、周辺が地盤沈下しちゃったからですね。アメリカのように中間層が没落していき、公務員も先生も民間の正社員も、どんどん低処遇化は進んでいってしまう。それは全体の地盤沈下に帰結してしまう。


 どこかで歯どめをかけないと、セーフティーネットがなければ労働市場も底なしですから、これは最終的に働くものは誰も得しない。そのことに歯どめをかけるということでいうと、例えば正社員はもらい過ぎで非正規は働かないんだ、こういう対立をやっていたら絶対に世の中はよくならないというふうに思います。