雇用壊滅 -派遣切り・ハウジングプア・外国人労働者のメルトダウン、EUに学び均等待遇の実現を | すくらむ

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国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 「雇用破壊」「雇用漂流」と来て、今回「雇用壊滅!」と打った『週刊東洋経済』(2/7)の特集では、目を覆いたくなるような雇用のメルトダウン、人間使い捨ての実態が告発されています。45ページにおよぶ特集ですが、一部をサマリーで紹介します。


 日雇い派遣の仕事もなくなり、所持金が尽き、飛び降り自殺をしようとしたところ警察に保護され、年越し派遣村に連れられてきた30代の男性。


 自動車部品大手のカルソニックカンセイの工場で派遣切りされ、寮も追い出され、家族もなく保証人も立てられないため家も借りられず、ネットカフェ等を転々としながら、日雇いで食いつないだが仕事も途絶え、年越し派遣村に入村。「住まいを失ったとき、ものすごい絶望に襲われた。派遣という働き方に絶対的な不信感が芽生えた」と語る41歳の男性。


 「上司から正社員登用試験を受けたらどうかと推薦されていた。それから1カ月後に解雇予告が行われた。あまりに理不尽な話だ」と語るいすゞ自動車藤沢工場で期間工として働く27歳の男性。


 昨年11月、派遣会社の社員から呼び出され、ボールペンを渡されて、「みんな解雇だから、これにサインして」と告げられた。契約解除の通知書の紙切れ1枚とボールペンで、大勢の派遣社員が仕事も寮も失う。(いすゞ自動車藤沢工場の派遣社員)


 08年7月に入社した派遣社員の男性(39歳)のもとに、健康保険証が交付されたのは、08年12月20日付解雇の予告を通知された08年11月18日の翌日だった。派遣会社は「出入りが激しいからすぐには手続きをしなかった」と遅れた理由を告げた。


 千葉県のネット小売り大手の倉庫では、ピッキング作業を日雇い派遣労働者が担っているが、「5~6アイテムのピッキングを5~6分で行うように命じられ、広い倉庫内をつねに走っている。トイレ時間は3分と決まっていて、5分過ぎると怒鳴られる」


 千葉県の大手アパレル倉庫では、「必要以上の人員を集めておいて、社員がピッキング時間をストップウォッチでチェックしている。2回の休憩ごとに成績の悪い数人を振り落とす。規定の賃金は支払われない」


 事務などオフィスワークに従事している非製造業派遣・事務系派遣労働者も「人間以下の扱いを受けることもある」、「派遣のお前なんてすぐクビだ」と脅され、派遣は2人で机1つだけ、しかもいすはパイプいすという環境で、延々パソコンに向かわされる。「会社の机1つが自分の存在意義の証し。居場所がちゃんと確保されれば安心して働けるが、それさえ用意してくれない会社もある」(35歳の事務系派遣労働者の男性)


 3カ月目、6カ月目と、契約更新の前になると、派遣契約を切られるのではないかと精神的に不安定になり、引きこもってしまった33歳の女性。事務系派遣切りはこれから危惧されているが、すでに雇用不安の広がりで、心身障害をきたす派遣労働者が増えている。


 空前の規模で企業の人員削減が進行する中、日本人以上に大きな打撃を受けている外国人労働者。なかでも製造現場を支えてきた日系ブラジル人の雇用状況は深刻。全国最多、2万人のブラジル人を抱える静岡県浜松市。朝8時。ハローワーク浜松では業務開始の30分前から、ブラジル人が長い列をつくる。その数、約1,000人。相談へ辿り着くまでに5時間以上を要することも珍しくないが、「毎日、ここに並ぶ。でも毎日、仕事ない」(29歳のブラジル人男性)。職だけでなく住居を失うブラジル人も増え、カラオケボックスとして使われていた貨物コンテナや、廃業したモーテルなどで雨露を防ぐブラジル人家族が続出。さらに製造業では、ブラジル人を解雇しておいて、時給300円程度の低賃金で中国人研修生・実習生を受け入れるケースも目立つようになってきた。


 非正規切りの嵐が吹き荒れる中、年越し派遣村に象徴されるように、実は日本には、安心して生活できる住居を保障する社会的システムが存在しないという「ハウジングプア」(住まいの貧困)問題が顕在化。「派遣切りで住まいをなくしても、雇用主から見ればあくまで『住所不定』。人手不足の中小・零細企業でも採用には二の足を踏む」(ハローワーク職員)。昨年12月5日、賃貸住宅から違法な手段で退去を迫られたとして、大阪府と兵庫県の入居者4人が家賃保証会社などを相手取り、慰謝料の支払いを求めて大阪簡裁に提訴。原告の派遣社員の男性(22歳)は、妻と生後8カ月の長男の3人で暮らしていたが、派遣の仕事がなくなり収入が途絶え、家賃の支払いが滞ってしまった。男性の外出中に突然、家賃保証会社の日本賃貸保証の社員がやってきて、「今すぐ出て行ってください。今すぐ荷物をまとめてください」と妻に告げた。その場で強制的に追い出され、妻が持ち出せたのは粉ミルクの缶と哺乳瓶、乳児の着替えだけ。妻と乳児を締め出すと、同社社員は別の鍵を付け、立ち去った。同様に東京では、家賃支払いが1日でも遅れると、無断で鍵を交換して居住者を締め出していた不動産会社スマイルサービスに対する集団提訴も行われている。


 こうした実態の告発とともに、今回の特集では、問題解決の方向性として、「EUが踏み切った正社員との均等待遇」を提案しています。


 EU(欧州連合)では、昨年11月、派遣された労働者と派遣先の労働者の間の“均等待遇原則”が中心となる「労働者派遣指令」が成立しました。


 EU加盟27カ国は、3年以内に同指令を国内法に適用することが求められています。


 指令の主な内容は、①派遣労働の適用範囲を、労働者派遣企業を通じて使用者企業に派遣されるあらゆる派遣労働者と定め(第1条)、パートタイム、有期契約、契約雇用者、労働者派遣企業との雇用関係といった理由のみで指令の適用範囲から除外してはならないと抜け道を明確にふさいでいる(第3条)、②派遣労働者と、派遣先労働者との均等待遇原則を規定。妊娠中の女性・育児中の母親の保護、児童と若年者の保護、男女の平等待遇、あらゆる差別の是正などを明記したこと(第5条)などです。


 また、指令は、正規採用機会の情報を派遣労働者に必ず伝えることや、共用施設(社員食堂、保育施設、通勤交通サービスなど)の利用において直接雇用と同一の権利を与えること、加盟国政府は、派遣労働者が職業能力を高められるようにするために職業訓練および保育施設を利用できるよう措置すること、派遣企業および派遣先企業の違反に対する罰則を制定すること、などを定めています。


 このEUの労働者派遣指令から日本が学ぶべき点として、3人の研究者による以下の提案を紹介しています。


 格差解消の方向へ、同種あるいは類似の労働を行う派遣労働者と派遣先正社員の間に、均等待遇原則を適用することが必要。均等待遇の第一義的義務を派遣元に課し、実現しない場合は派遣元の許可を取り消す。許可が取り消されたとき、派遣労働者と派遣先との間に雇用関係を成立させる。こうした現在のドイツの制度と同様にし、日本の派遣労働者の権利を保護するべき。(ドイツの派遣法に詳しい大阪経済大学の大橋範雄教授)


 均等待遇の必要性は、多くの識者が指摘するところだが、実際、日本で実現するには、時間がかかりそうだ。欧州では産業別労働組合が発達し、職務に応じた賃金が明らかになっている。だが、日本ではそれが明確でない場合が多い。まず、各人が担当する職務内容を個別業務の束に分解する職務調査を行い、各職務の賃金はいくらかを明確にすることから始めるべきだ。たとえば製造業の工場労働や小売業の販売現場、医療・介護・保育など、非正規比率が高く、仕事を明確にしやすい分野から導入していくことを提案する。(日本総合研究所の山田久主席研究員)


 イギリスのNVQ(国家認定職業資格)のような制度の普及が、非正規労働者の待遇向上のきっかけになりうる。NVQは800を超える職種の職務内容を国家資格として認定しており、転職や企業研修に利用されている。職務ごとに保有スキルを明確にして、処遇に結びつけていく。(みずほ情報総研の藤森克彦主席研究員)


 ※蛇足ですが、特集誌面の中で、「年越し派遣村」の仲間を先頭に、1月5日に取り組んだ国会請願デモ の写真がものすごく大きく扱われているのですが、その写真の中で、「東京国公」の旗が一番大きく写っているのでした。


(byノックオン 週刊東洋経済をめくっていたら、ついまとめてしまった…。自分で自分の首をしめているというメルトダウンへ…)