生きてここにいられるのは派遣村のおかげ - 全国に必要なシェルターと相談窓口、派遣法抜本改正を | すくらむ

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国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 仕事も家族も失った私は、12月31日、自殺しようと富士の方に行った。たまたま駅のテレビで「年越し派遣村」のことが報道されていて、足がとまった。ふと我に返り、派遣村に足が向かった。派遣村に着いたとき、38度以上の熱もあり、心身ともにボロボロだったが、村長の湯浅誠さんをはじめ、実行委員の方たちが親身になって私の話を聞いてくれ、前向きに生きる気持ちを取り戻せた。いま私が生きてここに立っていられるのは、派遣村のみなさんのおかげだ。生活保護の受給とアパートも決まり、1月20日に村民ではなくなるが、心の中ではいつまでも派遣村の村民だと思っている。また派遣村のような取り組みがあれば、今度は私が一人ひとりに声をかけて勇気づけ、みなさんの前でいまの自分のように話せる人間をつくっていきたい。


 --1月15日夜、東京・日本教育会館で開かれた「やっぱり必要!派遣法抜本改正1.15集会~派遣村からの大逆襲」での「派遣村」村民の発言です。


 ◆「もう派遣村はないんですか?」


 三日三晩飲まず食わずで日比谷公園にたどりついた人、群馬から自転車でたどりついた人など、個々の村民はたいへんな状況だったが、いま一人ひとりが生活を立て直そうと前を向いている。
 しかし、「もう派遣村はないんですか?」「日比谷公園の派遣村はなくなってしまったんですか?」という問い合わせの電話がいまも毎日、事務局にかかってくるという状況がある。全国各地に派遣村をつくる必要性を感じると同時に、やはり派遣村を必要とするような状態はなくさなければならない、派遣労働者を切り捨ててもあたり前という状態を早く改善しなければならないと実感している。派遣法が改悪され続けた結果、今回のような状況を生んでいる。派遣労働者も労働者であるという、希望ある働き方をつくらなければいけない。派遣法の抜本改正を実現するために力を結集しよう。--と全国ユニオン会長の鴨桃代さんが司会を兼ねながら主催者あいさつしました。


 ◆派遣村での生活保護活用こそ、法律本来の姿


 民主党、共産党、社民党、新党大地、日弁連、労働弁護団、連合などの代表から連帯のあいさつがありました。私が特に印象に残ったのは、ホームレス法的支援者交流会の代表の後閑一博さんの発言です。後閑さんは、「派遣村での生活保護活用こそ、法律本来の姿」というアピールを紹介しながら次のように述べました。


 派遣村の290人が生活保護申請し、すでに200人以上が受給決定。ほぼ全員が受給できるだろうとのこと。これが派遣村に限った「超法規的な特別扱い」であるとの誤解が一部にあるが、この対応こそが、生活保護の法律本来の姿であることをしっかり認識する必要がある。「住所」がなくても生活保護は受給できるのは当然のこと、生活保護費でアパートを確保することができ、即日でも保護決定はできる。これらは法が本来予定する「あるべき姿」であり、いまこそ全国の自治体の窓口は生活保護の本来の役割を発揮すべきだ。(※アピール全文を参照ください→アピール「派遣村」での生活保護活用こそ、法律本来の姿


 経過報告をした全国ユニオン(派遣法抜本改正をめざす共同行動)の安部誠さんは、「派遣村の目的は、派遣切りや期間工切りで、仕事と同時に住む所も失う人たちをなんとかサポートしたいということが1つ。もう1つは、派遣切りされ、個別バラバラに路上で倒れたとしても大きなニュースとして報じられることはないわけで、目に見える形で世間に訴えなければならない。つまり、この状態を可視化しなければならないということだった。この2つの目的だけで、それから先のプランはなにもなかった。結果、村民登録499人、ボランティア登録1,674人(※のべ人数ではない。登録しなかった人も多数いた)、290人が生活保護申請をし、200人以上が受給決定している。ほぼ全員が受給決定されるだろう。今回、生活保護の見方が変わったのではないか。そもそも住まいのない人を雇う経営者はいない。これは法律本来の適用であり、今のシステムの中でもきちんと運用されれば、かなりのことはできるんだということを証明したとも言える」と語り、あわせて鴨さんが、「派遣切りで住所を喪失した20.6%。日雇い派遣をしていたが仕事を失った16.1%。派遣ではないが不況の影響で失業状態19.8%。合計56.5%が住所を失った人たちだった。昨日どこで寝ていましたかという設問に野宿と答えた人が57.9%」と派遣村での相談の暫定集計結果を補足しました。


 つづいて、メイン企画であるシンポジウムが行われました。コーディネーターは労働弁護団の棗(なつめ)一郎さん、シンポジストは、村長の湯浅誠さん、JMIU(全日本金属情報機器労働組合)書記長の三木陵一さん、全日本建設運輸連帯労働組合書記長の小谷野毅さんです。長くなりすぎますので、湯浅さんと三木さんの印象に残った発言を紹介します。


 ◆緊急に必要な全国各地のシェルターと相談窓口
  派遣法抜本改正とすべり台社会の転換を〈湯浅誠さん〉


 今回の事態で、派遣切りにあったと同時になんの歯止めもなく、どん底まで落ちていく、すべり台社会の実態が明らかになった。しかもすべり台で落ちるとずっと這い上がれない状態となる。貧困が長期化してしまうという状態は今に始まったことでなく、以前から日本にあったし、それがずっと放置されてきた。好景気であったときもずっとなんの対策も行われてこなかった。むしろすべり台の傾斜がきつくなってきていた。そこに今回の企業による使い捨てで、こうした事態を招いた。


 これに対して、私たちがやったのは、「派遣村」をつくり、どん底まで落ちてしまった状態から上がっていくためのステップをつくったということになる。しかし、まだすべり台社会の方は全然変わっていない。雇用・労働環境はひどい状態だ。雇用保険も未加入の人たちが膨大にいる。雇用保険を受けられる人であっても自己都合だと言われた途端に3カ月も待たなければいけない。会社都合でも1カ月も待たなければいけない。その間の生活をつなぐ制度もない。そういう中で、生活保護までいかないと、生活が成り立たない。だけど生活保護の窓口はひとりで行っても追い返される。そういう状態が日本全体に蔓延しているなかで、これだけの事態になってしまった。派遣村の中にいる人と外にいる人にほとんどなんの違いもない。紙一重だ。政治や社会全体で、このすべり台社会を変えていかなければいけない。


 企業はこれだけの事態を引き起こしておいて何もしていない。そんなことが許されていいのか。派遣先の企業が派遣元をギリギリつめて、派遣労働者を安く買いたたく。その中で、低賃金、脱法行為が起きている。雇用保険未加入の人たちが多くいて、派遣先の企業は雇用保険料を払わなくてすませている。こうして、企業は派遣労働者をつかって莫大な利益を得る。都合が悪くなったら今度は捨てる。こんなことがいつまでまかり通るんだ。企業の社会的責任をきちんとらせていかなければいけない。


 労働者派遣法の抜本改正はもちろん、すべり台状態の中にも階段をつくっていかなければいけない。セーフティーネットをつくっていかなければ結局、不安定さはやまない。派遣村は救貧対策だったが、そうならない防貧の社会をつくらなければいけない。雇用の問題を中心に、セーフティーネットの張り替えを車の両輪としてかました上で、社会システムの再構築をしていかなれば、いったい社会はなんのためにあるのか、社会はただの人の群れなのか、企業はなんのために存在しているのか分からないことになる。派遣村への対応が一時の特別対応に終わってあとはまたゼロに戻って更地に戻ってしまうのか、ここから2歩目、3歩目が積み上がっていくのか、きょうあすからの分かれ目の課題だ。派遣村の成果を全国に広げられるかどうか。ここから積み上げていけるかどうか。社会全体、政治全体の責任として取り組むべきだ。


 3月末に向け事態はもっと深刻になる。いま緊急に必要なことは全国の自治体に働きかけてシェルターと相談窓口を作らせることだ。


 ◆大企業に社会的責任とらせる法的規制、

  派遣先との団体交渉権の確立を〈JMIU書記長の三木さん〉


 JMIU書記長の三木さんは、いすゞ自動車による1,400人の期間社員・派遣社員全員解雇に対して、労働組合を立ち上げ、期間社員については解雇を撤回させた取り組みについて発言しました。


 三木さんは、「大企業は自ら労働者の雇用を守ろうとか、労働者の権利を守ろうだとか、自らは絶対に動かない。いすゞの全社員に配られた社長の新春インタビューには、派遣切りの話は一切なく、『過去との比較、他人との比較をして、今の自分を嘆いても何も変わらない。どんな不幸な境遇にある人も病気で悩まされている人でも日々の暮らしの中に、なんらかの喜びや価値を見出している』などと平然と言ってのけている。企業の自発的な意志に任せていたら何もできない。企業に社会的責任をとらせていく法的な規制が必要だ。労働者派遣法の抜本改正と、緊急の法的な措置が必要だ。そして、この春闘では、自分たちの職場から絶対派遣切りを許さないたたかいを展開し、一つひとつの職場から積み上げ、政治を動かしていくことがすべての労働組合に求められている。また、いすゞ自動車に対して、法的対抗手段をとろうと準備しているところだ。派遣先に対してどれけで責任を追及できるのかが、いま大きな課題になっている。派遣先である大企業にせまっていきたい。とくに派遣先との団体交渉権の確立が大事だ。派遣労働者が労働組合をつくって頑張っているが、ほとんどのところで、派遣先の企業から、労働組合との団体交渉を拒否されている。この壁を打開すれば、労働者の権利はもっと広がる。現状打開へ向けて、連合、全労連、全労協が、大同団結して世論を喚起していくことが必要だ」と語りました。


(byノックオン)