もともと慢性ストレスある非正規労働者に「派遣切り」「非正規切り」の急性ストレスが襲う | すくらむ

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国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 「なんかもう死にたくなってきました」「手を切っても全然痛みを感じません」「解雇が決まり、吐き気、頭痛、顔面の痛みがあります」「医者にかかる経済的余裕がありません。助けてください」--メンタルヘルスの悩みを受け付けている病院などに、いま非正規労働者からの悲痛な相談が寄せられ、それも、不安や不眠など、うつ状態の悩みを超えて、「死にたい」「自殺したい」という訴えが増えていることを、NHKテレビのクローズアップ現代「非正社員に広がる“うつ”~派遣切りが止まらない」(12月17日放映)で、指摘していました。全国各地で相次ぐ、派遣切り、非正規切りで、心の病に陥る非正規労働者が続出しているのです。


 大手企業で事務の仕事をしていた派遣社員のAさん。気分が沈む、夜眠れないといううつ状態に今も苦しんでいます。派遣先の職場では、仕事量に対して正社員の数が少なく、過重な仕事の負担がAさんを襲いました。1カ月の残業時間は90時間を超え、休日でも急に仕事にかりだされる日々が続き、睡眠障害や顔面麻痺など、症状は日に日に悪化していきました。しかし、立場の弱い派遣社員であるAさんは、派遣先の上司に訴えることはできず、派遣会社に相談しても何の対応もありませんでした。うつの治療には早期治療と十分な休養がかかせませんが、Aさんは解雇を恐れ、仕事を休めず、病状を悪化させてしまいました。


 非正規社員の場合、職場に相談窓口がないのが現実です。上場企業でメンタルヘルスの相談窓口が設置されている割合は正社員で98%。ところが、派遣社員は25%、直接雇用の契約社員でさえ48%の上場企業にしか相談窓口が設置されていないのです。また、うつ病を治療して、仕事に復帰する際、正社員なら復帰プログラムなどで、短時間勤務から始めたり、仕事の内容を配慮したりすることがなされますが、派遣社員の場合、うつ病であったことを隠さないと、雇用されないケースが多いため、仕事復帰後もすぐフルタイムで働かざるをえず、うつ病を再発させる危険性が高くなっているのです。


 さらに、非正規社員は、相談する窓口がないだけでなく、病気やケガで働けなくなったときに、正社員なら受け取れる「傷病手当金」が支給されないケースが相次いでいるのです。


 国は健康保険法により、正規・非正規労働者を問わず病気やケガで仕事ができなくなれば、「傷病手当金」を支給する仕組みをもうけています。もし、うつ病で仕事を失った場合でも1年以上継続して健康保険の被保険者であれば、最大1年半まで給料のおよそ3分の2の「傷病手当金」が健康保険から支給されます。しかし、非正規社員の中には、この「傷病手当金」が受け取れないケースが多いのです。


 登録型の派遣社員として、家電量販店やケーブルテレビ局などで働いていたBさん。今年8月過重なノルマや無理な営業を強いられた結果、うつ病になり、働けなくなりました。派遣会社に「傷病手当金」の申請をしましたが、却下されてしまいました。Bさんは1年以上保険料を支払ってきましたが、受給資格がないというのです。家電量販店に派遣されていた6カ月間は、派遣会社の健保組合に保険料を払っていたBさん。しかし、今年1月に家電量販店の契約が終了、次のケーブルテレビ局での仕事が決まるまでの2週間は国民健康保険となっていたのです。保険料は1年以上払っていたのに、派遣会社の健保組合に1年以上継続しての被保険者となっていなかったため、「傷病手当金」が受け取れませんでした。仕方なくBさんは失業手当をもらうため、ハローワークを訪れましたが、失業手当は再就職を支援するもので、病気などですぐに就職できない人には支給されないと言われてしまいました。登録型の派遣社員など、細切れの雇用を強いられる非正規労働者には、心の病などで働けなくなったときのセーフティーネットが存在しないのです。


 帝京大学医学部教授の中尾睦宏さんは、「ただでさえ身分が不安定で、慢性的なストレスにさらされていた非正規社員は、もともとボディーブローのようなパンチを受けていた。そこに、今回の景気後退という急性ストレスの大波にみまわれ、非正規社員にダブルパンチが襲ったといえる。うつ病は、職場への不適応という問題もあるが、非正規社員の場合は、生活不安や職場で弱い立場にあるため、職場の期待に応えなければいけないと、逆に過剰適応してしまう問題の方が大きい。失業の恐れが高まり強いストレスを感じながらも、仕事を失わないように、過剰な仕事の負担があっても、期待された業務を懸命にこなし続けなければという状態に陥り、非正規社員はうつ病を発症してしまう。阪神淡路大震災のとき、被災者の精神面のケアに、全国の医師が協力支援したが、今回の派遣切り、非正規切りの事態も、大災害なみの対応が必要だと考える。根本的には、この問題を働くみんなの問題としてとらえ、ヨーロッパ諸国が1990年代から取り組んでいるように、非正規労働者を含む“同一労働、同一賃金、同一待遇、同一セーフティーネット”を日本でも早く実現すべきだ」と語っています。


(byノックオン)