消える病院、さまよう患者、過労死寸前の外科医がもうろうとした意識の中で手術する日本の医療破壊 | すくらむ

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 脳内出血を起こした妊娠中の女性が東京都内の8つの病院から受け入れを断られたあと死亡するという「医療破壊」を象徴するような事件が起きるなかで、週刊東洋経済(11/1)が「医療破壊 消える病院、命を落とす医師、さまよう患者と家族」と題した特集を打っています。


 「勤務医に関する意識調査」(日本病院会、2006年7月実施)によると、勤務医の2割以上が通常勤務(当直を除く勤務)だけで過労死ライン(過労死の労災認定基準)を超える労働時間を強いられています。1カ月の夜間当直の回数は、「3~4回」が40.8%、「5回以上」が17.1%の上、当直の実態は夜間勤務。当直時間を病院に拘束されている時間に含めると、勤務医の7割が週64時間、すなわち時間外だけで100時間も病院に拘束されている計算になります。そして、夜間当直の翌日についても、「忙しさと無関係に翌日は普通勤務をせざるをえない」が88.7%を占めており、ほとんどの病院で当直明け勤務が常態化しています。


 日本外科学会の調査(2006年11月実施、回答数1,355人)によれば、「当直明けの手術参加」が72%に達し、外科医が「もうろうとした意識の中で手術を行うこともある」と実態を語っています。


 日本政府が連年に渡り、医師数抑制政策をとってきたために、2004年の数字で、人口10万人当たりの医師数は、OECD加盟30カ国の平均310人に対して、日本は200人、なんと日本は他国平均から14万人も医師が不足しているのです。


 病院の煙突から投身自殺をした小児科医のひと月の勤務実態は、宿直8回、休日出勤6回、24時間以上の連続勤務が7回、休日は2日しかありませんでした。


 医学的に調査して決めた過労死ラインに医師自らがさらされている異常な事態はなぜ起きているのでしょうか。特集の中で、東京大学名誉教授の宇沢弘文さんは、「1980年代に始まった医療費抑制政策が、小泉政権の下で、その極限に達しました。『小泉・竹中路線』というエセ改革が医療をめちゃくちゃにしたのです」「小泉政権の下で、診療報酬は3度も引き下げられました。もともと、診療報酬点数制には、重大な欠陥がある。それは、病院が実際にかかる費用のごく一部しか入っていない。経常的費用については、かなりの程度入っているが、資本的経費、間接的経費はほぼ完全に無視されている。それをカバーしてきたのが地方自治体でした。しかし、小泉政権の乱暴な地方切り捨て政策によって、地方自治体自体が危機的状況に追い詰められています」


 宇沢さんは、アメリカの経済学者アラン・エントホーフェンが、ベトナム戦争遂行時に、限られた戦争予算の下で、ベトナム人ひとりを殺すのにかかる費用の最小化をめざしたことを紹介します。この話が医療の問題と、どこでつながるのかと疑問に思いながら読んでいくと、なんとこのエントホーフェンという経済学者は、「医療サービスの効率化」の名のもとに、患者が死ぬまでの費用=医療費を最小化する必要があるという市場原理主義を医療の世界に持ち込んだ人間だったことが語られます。そして、まさに日本における「後期高齢者医療制度」は、75歳以上のひとりの高齢者が死に至るまでの医療費を最小化するための反社会的・非倫理的な医療制度であることを指摘し、「日本の医療はついにここまで荒廃した」と宇沢さんは述べています。


(byノックオン)