世界同時貧困 中流が墜ちていく~新自由主義が生んだ格差社会の恐るべき歪み | すくらむ

すくらむ

国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 保守的な月刊誌『文藝春秋』が、初めて「反貧困」「新自由主義批判」の特集を組みました。6月号で、「世界同時貧困 中流が墜ちていく~新自由主義が生んだ格差社会の恐るべき歪み」という特集名で、ジャーナリストの堤未果さんなどが現地ルポを寄せています。


 いきなり冒頭から、佐藤優氏が「グローバル経済が拡大する21世紀の世を、新自由主義という妖怪が徘徊している。そしてこの妖怪は世界中を格差社会に陥れ、「新たな貧困層」を生み出した」として、「日本の企業社会の足下を支えているのは、実は貧困層といわれる人の労働力である。この人々を切り捨てるだけでは企業は弱体化し、ひいては日本の資本主義体制自体が潰れてしまうという危機意識を企業トップが持たない限り、日本社会が加速度的に弱体化していくだろう」と指摘しています。


 つづいて、堤未果さんの米国現地ルポ「医者さえ転落する~心労から心身を病むアメリカンドリームの主役たち」。貧困層3650万人、医療保険を持たない国民4700万人(15.8%)の貧困大国アメリカで、いま医者、教師、公務員、製造業中間管理職などアメリカンドリームの主役だったはずの人々が、貧困層に転落するケースが急増している実態を追跡ルポ。


 「中流から下流へというプロセスはその人間がたつ精神的基盤を直撃する」「自分だけは大丈夫と安心していた人々が、気がついたら吹きすさぶ嵐のなか呆然とたたずむ光景が、今アメリカ中を覆い始めている」


 マイケル・ムーア監督の映画「シッコ」でも描かれたように、中流層さえ病気になると貧困層に転落してしまうアメリカ社会ですが、堤さんは、年収2千万円以上の医者さえ例外ではないことをルポしています。(1)法外な医療過誤保険料の負担(なんと年収2千万以上あっても保険料を差し引くとワーキングプアになるそうです)、(2)医療・社会保障切り捨て、公的サービス民営化が極限まで進み、人間の命より効率化と利益が優先される医療現場、(3)コスト優先がもたらす過剰労働、(4)十分な治療を提供できない患者への罪悪感(緊急治療室に運ばれてくる保険証を持たない手遅れの患者の数は日に日に増えてゆく現実との直面)、これらが、アメリカの医者にのしかかっています。そして、堤さんが取材した医者はこう語ります。


 「病院の駐車場で自分の車に向かって歩いていた私は、ちょうど裏口から看護師によって追い出される男性(※保険証を持たない手遅れの患者)と目があったんです。彼は痛々しい点滴の針跡が残る腕を、助けを求めるように私に向かって伸ばしてきました。その絶望した表情が、最近私を見る妻のそれと重なった時、急に息が苦しくなってその場に座りこんでしまったんです」


 この医者は年収2千万円以上稼いでいたのに、医者として働けなくなり、貧困層に転落していったのです。この堤さんのルポを題材に、マイケル・ムーア監督に「シッコ2」を作って欲しいと思ってしまいました。


 ルポの最後に堤さんは、「国とは何か、自分たちは一体どんな社会を望むのか、海の向こうのアメリカ社会を合わせ鏡にして真剣に検証することが、私たちに求められている」と綴っています。
(byノックオン)