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『800』

 『800』(川島誠)

―あらすじ―
 広瀬と中沢。800メートルランナー2人は友人であり、ライバルでもあった。ランナーとしても、恋愛でも。高校生ランナー2人を描く、青春小説。


 爽やかな青春ストーリーでした。対照的な2人の視点を交互に持ってくることで、飽きさせない構成になっています。読みやすいですが、性的描写が多いのが気になりました。同性とのセックスと、勃起不全に関する描写は必要だったのか。精神的成長を描くためなのかもしれませんが、興を削ぐ。

800 (角川文庫)/角川書店

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『八犬傳』(上下巻)

 『八犬傳』(山田風太郎)

―あらすじ―
 室町時代の中頃の安房。里見義実の愛娘・伏姫は呪いにより、飼い犬・八房の子を身ごもり、8つの奇妙な珠を生む。それらの珠をもつ八犬士が出現し活躍する物語――滝沢馬琴によって書かれた「南総里美八犬伝」。果たして馬琴は如何にしてこの大長編を書き上げたか。山田風太郎による八犬伝が始まる。


 水滸伝を下敷きに、8人の犬士が志を共にする「八犬伝」。彼らが苦難を乗り越えて集結する部分は、やはりワクワクするものです。意外な人物が犬士であったり、数奇な縁に導かれたりと、読み手の期待を裏切らない名作でした。

 さらには、上記の八犬伝のストーリーを「虚の世界」とし、滝沢馬琴と葛飾北斎らを描いた「実の世界」と交互に語られます。馬琴のストーリーだけでも非常に読み応えがありました。渡辺崋山との関わりのシーンなども面白い趣向でした。

八犬傳 上(新装版) (廣済堂文庫)/廣済堂出版

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八犬傳 下(新装版) (廣済堂文庫)/廣済堂出版

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『海の鳥・空の魚』

 『海の鳥・空の魚』(鷺沢萌)

―あらすじ―
 海に放たれた鳥のように、空を泳ぐ魚のように、不器用に毎日を生きていく人々。しかし彼らにも、一瞬のきらめきがある。20話からなる短編集。


 1話あたり10ページという短編が20作品載っており、そのどれもが日常のある1シーンを描いたものです。短編ごとに、喜び、虚しさ、希望、焦り、憧れ、戸惑いなどの様々な感情が詰まっています。個人的には最初の「グレイの空」という作品がお気に入りです。結婚に至る物語で、最後の構成が(故意か偶然か)上手いなあと感じました。逆に「普通のふたり」は結婚の虚しさを描いた作品ですが、この虚しさは結構好きですね。

海の鳥・空の魚 (角川文庫)/角川書店

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『初恋』(光文社)

 『初恋』(トゥルゲーネフ/訳:沼野恭子)

―あらすじ―
 両親とともにモスクワの別荘に住む16歳の少年・ウラジーミル。ある日、隣にザセキーナ公爵夫人一家が引っ越してきた。公爵令嬢・ジナイーダに一目惚れし、運良く彼女と友達になったウラジーミルだったが、ジナイーダに恋人ができたことに気付く。果たして彼女の恋人とは?そしてウラジミールの恋の行方は?


 すらすらと読めながらも、適度な読み応えを持っている作品でした。初恋の持つ爽やかさや喜び、純粋さ、悲しみ、憤りなどが、ウラジミールを通して読者にも伝わってきます。恋人の正体はなかなか衝撃的でしたが…高校生や大学生、さらには大人にも楽しめる作品ではないでしょうか。

初恋 (光文社古典新訳文庫)/光文社

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『櫻守』

 『櫻守』(水上勉)

―あらすじ―
 丹波の奥山に生まれた弥吉。彼は京都の植木屋に奉公に出ることになった。そして彼は、その生涯の最後まで桜を守り続けることに命を注ぐこととなる――彼と師の物語を描く『櫻守』。ほか、『凩』を収録。


 久しぶりの水上文学です。『櫻守』では櫻に命を懸ける職人の一生を、『凩』では木造建築の伝統に誇りを持つ老大工の決意を描いています。どちらも中盤から面白くなってくる作品でした。「人と自然の共存」についての著者の意見が垣間見える作品でもあります。

櫻守 (新潮文庫)/新潮社

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『さざなみ軍記・ジョン万次郎漂流記』

 『さざなみ軍記・ジョン万次郎漂流記』(井伏鱒二)

―あらすじ―
 1841年、土佐沖にて漂流し、濱中万次郎は漁師仲間とともに無人島にたどり着いた。アメリカの捕鯨船に助けられた彼らは、ハワイにたどり着く。アメリカ人に気に入られ、ジョン・マンと呼ばれるようになった万次郎は、ついにはアメリカのゴールドラッシュの中へ――。他2編を収録。


 漫画・『風雲児たち』で興味を持った人物の1人、ジョン万次郎について書かれた作品です。ただ、思ったより淡々と描かれており、ジョン万次郎の内面があまり描かれていなかったのが残念でした。もっとドラマチックな人物だと思うのですが、この作品だけでは彼の軌跡を追っただけという感が拭えません。

さざなみ軍記・ジョン万次郎漂流記 (新潮文庫)/新潮社

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『デビルサマナー葛葉ライドウ 対死人驛使』

 『デビルサマナー葛葉ライドウ 対死人驛使』(蕪木統文)

―あらすじ―
 大正20年、帝都。悪魔を使役し悪魔がらみの事件を解決する、デビルサマナー(悪魔召喚師)と呼ばれる人々がいる。新米デビルサマナーである葛葉ライドウは、「東京駅で死人が歩く」という噂話の調査を開始するが、彼の前に不死の吸血鬼アルカードが現れる。果たしてライドウは、先代「葛葉ライドウ」でさえ倒すことができなかったアルカードを倒すことができるのか?そしてライドウの前に、葛葉キョウジなる男が現れる。


 PS2で発売された『デビルサマナー葛葉ライドウ 対超力兵団』のプレストーリーとのことですが、ゲームに出てこない人物が多く出ており、結構小説オリジナルの展開になっていました。鳴海が酷い性格に描かれていますが、小説オリジナルの仲魔・ドアマーズはなかなかいいキャラクターをしていたりと、一長一短でした。大正の雰囲気はしっかり出ています。

 ちなみにライドウの本名や母を慕う一面が明かされたりしましたが、個人的にはそこは描かないで欲しい部分でした。

デビルサマナー 葛葉ライドウ 対 死人驛使 (ファミ通文庫)/エンターブレイン

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『六とん2』

 『六とん2』(蘇部健一)

―あらすじ―
 ミステリファンを震撼させた『六枚のとんかつ』。その続編がここに。


 前作で見せてくれたアホバカ・トリックは最初の数話で終わってしまい、本格的な推理作品あり、感動のSFありと、何でもありな作品になっていました。中でも、現実世界の皮肉と悲喜を描いた『誓いのホームラン』、大槻ケンヂ氏が描きそうな感動SF『君がくれたメロディ』の2つが個人的には面白く感じました。しかし、普通すぎて評価しづらくなってしまった感も否めませんね。前作ほどの突き抜けた印象がなくなってしまったのは残念です。

六とん2 (講談社文庫)/講談社

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『陰陽師 飛天ノ巻』

 『陰陽師 飛天ノ巻』(夢枕獏)

―あらすじ―
 シリーズ第2弾。平安の京に巣食う妖怪変化の類に、安倍晴明と源博雅が立ち向かう。


 連作短編集ながら、どこから読んでも面白い作品ばかりです。博雅にスポットが当てられる話も多く、史実に残された資料と共に、彼の人柄が丁寧に描写されています。また、晴明でも解けないような難問があったりと、読者を飽きさせてくれません。

陰陽師―飛天ノ巻 (文春文庫)/文藝春秋

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『陰陽師』

 『陰陽師』(夢枕獏)

―あらすじ―
 妖(あやかし)が跋扈していた平安時代の京。陰陽師である安倍晴明と、彼の友人である武士・源博雅が数々の事件を解決していく。


 著者の人気シリーズ第1弾です。妖怪退治モノとしても面白い作品ですが、それ以上に、2人の会話シーンが非常に面白い作品です。背景描写が上手いのか、ゆったりとした雰囲気が文章からも行間からも醸し出されています。2人の視点から、人生観や宇宙観などが語られ、思わず驚かされてしまう部分もありました。

 以前読んだ『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』の原型とも取れる、娯楽小説の傑作でした。

陰陽師(おんみょうじ) (文春文庫)/文藝春秋

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