今、HIROSHIMAが哀しい~佐村河内守の罪、それは、ハンディをアドバンテージに変えたこと~ | What happened is all good

今、HIROSHIMAが哀しい~佐村河内守の罪、それは、ハンディをアドバンテージに変えたこと~

先日、電車の中でアルバイト生活に追われていると思われる若い二人の女の子がこんな会話をしていた・・・。




「ねぇねぇ、障害者手帳って簡単にもらえるものなのかなぁ・・・。」
「さぁね。でも、なんかあーいうの見ると、必死こいてバイトしてるのが空しくなるよね。」
「そうそう、なんかちょこと彼氏にでも、クルマで轢いてもらって、足でも複雑骨折して、びっこでも引く程度の怪我で済むんだったら、障害者手帳でも貰ったほうが、得じゃねぇ?」
「そうね、指2本くらいなくなって、それでもギターとか弾けたら、天才とか言われるんじゃね?」






僕の父親は幼い頃、小児麻痺に襲われ、それこそ、左の腕と足に障害が残った・・・。それでも父親は僕ら家族のために一生懸命働いてくれた・・・。ただ、その障害のせいで職業には制約がついた。多くは語らなかった父親ではあったが、幼き頃に抱いた夢が実現できなかった悔しさは想像だに出来ない・・・。だから父親は僕に「なりたい者になれ、好きなことを見つけ、それを仕事にしろ!」ということを何度か語ってくれたのだと思う。そんな父親は僕が20歳の時に亡くなり、僕はその後、色々な失敗を重ねながらも、今、こうして好きなことやりたいことを仕事に出来たことを多少なりとも、誇りに思っている・・・。





大学のゼミの後輩は不慮の事故で、指を失った。けれど、彼は持ち前の明るさと、優しさで周囲をいつも和ませてくれた・・・。そんな彼は、大学を卒業し、普通のサラリーマンを目指すわけではなく、シェフとしての道を歩んだ。指を失ったことはやはり相当のハンディだったに違いない。けれど、それを克服し、立派に仕事をしている。そして、僕が広島にいるときは、満面のサービスをもって僕に接してくれた。
「やっぱり、こんな僕でもお客様に喜んでいただけるものを提供できるって幸せなことだと思いますと・・・。





電車の中でのアルバイトに勤しんでる若い二人の女の子の発言は決して許されるものではないし、最初は僕も憤りを感じ、思わず口を挟みそうになったのだが、ぐっと堪えた。と同時に、実に哀しく、切なく、虚しいキモチに晒されて、俯いたままずっと唇を噛んでいた・・・。






やはり、佐村河内守という男がしでかしたことは、若い女子たちがハンディを抱えることの苦しみや哀しみに対する想像力を奪い取ってしまうには十分過ぎるほどの衝撃なのだから・・・。





ある酒場で知り合った雑誌記者に、広島出身であることを明かしたら、「ああ、今、旬じゃないですか、あいつとんでもない奴ですね。」と、カープもお好み焼きもすべてが吹っ飛び、広島=佐村河内の話題で持ちきりとなってしまった・・・。






この件、問題は実に複雑なファクターが絡み合い、とても一つの方向性からは語ることが出来ない・・・。






正直、僕は彼が創ったとされる音楽を真剣に聴いたことなど一度もないし、クラシック音楽に対する造詣もさほどでもないので、音楽的資質うんぬんということに関して語る術は持ちえていない。ただ、問題なのは、佐村河内の「嘘」を見抜けなかった、もしくは見抜いていたとしても”両耳の聴こえない音楽家”に様々な伝説を付与し、商業的に成功させてしまったその取り巻き立ちの罪はあまりに大きいと僕は思う。







勿論、本人自身もあまりにふざけているとしかいいようがないが、佐村河内自身には特筆すべき資質など、何も持ち合わせていなくて、それこそ影のプロデューサーなるものが、容易にコントロールし、嘘に嘘を塗り固めて、虚像を作り出したわけであることが容易に想像できる・・・。
これは、ある意味、すべてを見越した確信犯たちが集団で創り上げた御伽噺でしかないと、そう思う・・・。





ただ、絶対に許されてはならないこととは、佐村河内がハンディを自らのアドバンテージに変えるという禁忌を犯してしまったことにある・・・。





【MSN】「佐村河内問題」受け厚労相「聴覚障害認定のあり方見直しを検討」




本当に聴覚障害というハンディを負いつつも、実に真摯に、懸命に生きている人はたくさんいる。その人たちに懐疑が向けられるというのは、実に哀しいことである・・・。





ハンディを負うことの本当の苦しさ、切なさというのはある種の制約に阻まれ、自分の意思どおりにすべてが叶うわけではない。そして、それを乗り越えるには超人的な不屈の精神力が必要となる。ハンディを負った人というのは普通に暮らすことにさえ、まさにハンディを負っていない人以上の知られざる懸命な努力で、その困難を乗り切っているのである・・・。





それを努力も不屈の精神力を放棄した男が、ちょっとした嘘で塗り固めて、ハンディをアドバンテージに変えてしまったことをやはり許すことが出来ない・・・。





そしてもう一つ・・・。




被曝二世は、広島には何処にでもいるし、幾らでもいる・・・。





それをあたかも”ハンディ”に祭り上げ、またさらにそれを”アドバンテージ”としたこの男は、広島の”恥”でしかない・・・。









もしこれで、僕がこの東京で、広島出身を名乗って、「あーあのカープの!」「お好み焼きの美味しい!」「民夫さん(奥田)や浜省が生まれた!」ではなく、「あの佐村河内の!」と言われ続けたとしたら、本当に、本当にそれは哀しすぎる・・・。