ボクはママのオッパイをあまり憶えていない。

物心ついた頃には小さい部屋に入れられてて

そこで毎日暮らしていた。

かすかに憶えているのはママのオッパイの

匂いと兄弟達のわずかな匂いだけ・・・



小さい部屋はガラス張りで床は鉄の格子になっていた。

オシッコしても体が汚れないようになってるんだけど

これがボクの柔らかい肉球に食い込むんだ。

だから、立っているのが辛くて寝てるときが多かった。

他の部屋のワンコがそのうち一日中、ウロウロと

狭い部屋を徘徊するようになってた。

でも・・・そのうち居なくなった。

何処に行ったのかは知らない・・・



ご飯はカリカリフードが日に2回だけ

おまけに量も少ないし・・・

いつもひもじかった。

それにカリカリフードは幼いボクには

食べ辛かった。

上手く噛み砕けなくて

仕方ないので丸呑みしてた。

そのせいか成犬になった今でも食べ物を

丸呑みしてしまう。



その頃は、他のワンコと遊ぶ事も殆どなく

毎日が退屈な日々だった。

おまけにお腹はすぐに減るし・・・

だから・・・ウンチも食べた。

他の部屋のワンコも結構、食べてたみたい。



昼間は色んな人がボクの顔を覗き込んで

「可愛い」って言ってくれた。

時々、小さい部屋から出してくれて

抱っこしてくれる人もいた。

そんな時は思いっきり甘えた

もっともっと抱っこして欲しくて。



でも・・・

そのうち抱っこしてくれる人もいなくなってきた。

その頃、食べてたカリカリフードのせいか

体中が痒くなってきてた。

おまけに涙も止まらなくなっていた。

見た目もみすぼらしくボロボロになっていく

ボクがいた。

そのせいだと思うけどボクを見ても、

もう誰も「可愛い」って言わなくなってた。



それからは、ただ毎日退屈で辛い日々が

過ぎていった。



どれくらいの日が過ぎたかハッキリとは

憶えていないけど・・・

ある日、そんなボクを

抱っこしてくれた人が現れた。

嬉しかった。

必死でしがみついた。

助けてって・・・

その人が今のボクの家族だ。



その人は毎日、色んなご飯を作ってくれた。

とっても美味しいご飯を

柔らかくていい匂いの。

毎日、お顔も拭いてくれた。

そのうち、体の痒みも無くなってきた。

見た目もどんどんキレイになってきた。



あたらしい家は、床もとっても柔らかくて

気持ち良い。

それに走り回れるほどの広さもある。



今は、とっても幸せな気持ちで一杯だ。

ママのオッパイの味を憶えていない事以外は・・・



「あるワンコの気持ちより」



※この記事は限りなく事実に近いフィクションです。

 転載も自由にしていただいて結構です。

 生体の店頭販売による不幸なペット達が

 これ以上増えない事を願って書きました。



この記事はギズモ日記andビッキー のキズモパパさんのブログより転載させて頂きました。