今回のお酒は『春鹿』で知られる今西清兵衛商店様による『倭姫(やまとひめ)』というお酒です。
銘柄の由来はその名のごとく倭姫という人物から。倭姫は前回の『生道井』の記事にも出てきたヤマトタケルの叔母にあたり、ヤマトタケルに草薙剣を授けたことや、伊勢神宮内宮を現在の地に創祀したことで知られています。天照大神の御杖代(みつえしろ。簡単に言えば神様が乗り移った依代)でもあり、神託を受け取りながら各地を回って現在の伊勢神宮の場所を決めたそうです。
三種の神器のうち草薙剣と八咫鏡に深く関わっており、天照大神のモデルとか、卑弥呼ではないかとも言われている何気にすごい人。もし『Fate』のサーヴァントとして出てきたら、ヤマトタケルと並んで日本人じゃトップクラスに強くなりそうですね。
ラベルのような可愛らしい感じのサーヴァント希望。
では飲んでみましょう。
まず感じたのはムロゲンとは切っても切れぬ酢酸エチル。
酢酸エチルっぽい苦味こそありますが、柔らかく収まっている印象。
しばらく待つと……ん
時が止まった?
砂糖菓子のような甘味とともに、透き通るような酸味。そして辛味のキレによるフィニッシュ。
この透明感は前の『会津中将』にも引けを取らないぞ?これをムロゲンで体現しているだけでも驚きだが、『会津中将』のような球体というよりは、爽やかな風が吹き抜けたかのような清涼感。
さて、この味わいと『倭姫』との関係は何か……すぐにこの謎かけの答えは出ました。
「是神風伊勢國 則常世之浪重浪歸國也 傍國可怜國也 欲居是國」
(この神風(かむかぜ)の伊勢の国は常世(とこよ)の浪の重浪(しきなみ)帰(よ)する国なり。傍国(かたくに)の可怜(うまし)国なり。この国に居らむと欲(おも)ふ)
— 『日本書紀』垂仁天皇25年3月丙申(10日)条 こういうことか!
この清涼感で、この文言を再現したということか!
解説しますと、倭姫が伊勢神宮を創祀するときの天照大神の神託ですね。神風――特攻隊のイメージがありますが、本来は奇跡を起こす風だとか、心地よい風という意味――が吹いていて、常世の国からの波も幾重に来ており、辺境なれど美しい国であるからここに住もう(神宮を建てて欲しい)という意味です。
これは美味いか美味くないかじゃ推し量れないな。何処までストーリーを読み取れるかが大事なお酒なんじゃないかと。
その意味では、『会津ほまれ ならぬことはならぬものです』にも通じるお酒。このお酒を通じて"伊勢の神風"を感じとることで、人と神様の絆を解せる方にこそ奨めたいお酒です。
というわけで『生道井』と空き瓶を並べてみました。ヤマトタケル由来のお酒が並んでより感じる神話のロマンよ。
ここに元伊勢と関係が深い『真名井』の瓶があれば完璧だったんですがね……仕方がないか。