曽根崎心中 |  ◆ R I N G O * H A N

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歌うパステル画家5*SEASON鈴御はんの蒼いブログショー


道端の純愛


ときどき、ほんとにときどきだけど、
凡な私にも「ヒラメキの神様」や
「絵の神様」が頭上におりてくださる。
もはや描いているというより、
描かされているという状態で、
私の意思とは違うところで、勝手に手が動いている。
こんなファンタジックなこと 滅多にあるもんじゃない。
描けないときは、目を皿にしたって斜めにしたって、
描きたい素材すらが見つからないというのに、
「某の神様」がいらっしゃるときは
「素材」が向うから歩いてくる。

神様付き、とまではいかなくとも、
素敵な何かが生まれる ときって、
作り手の意思以前に、自然の摂理に乗っ取って、
必要なものが勝手に揃うような気がする。
しかも渦中の本人は、リアルタイムでは気付かず、
事を成し遂げた後、客観的に自作を目にしたとき、
なんとな~く気が付くものじゃないだろうか、
「あのときの めぐり合わせはツイてたんだ」って。

幸運とか、良縁といった不確かなのに欲しいものは、
本人の努力以外の「ツキ」に左右される。
必死に立ち回っている場合より、むしろ肩の力が抜けたとき
「めぐり合わせの神様」が
おいでくださる場合が多いように感じてる。
肩に力が入らず、リラックスすることが要わなけで、
なんせ私ってヤツは、自動車免許のペーパー試験を
3度目にして ようやくパスしたという経験の持ち主。
頭が痛いことに、そもそも本番に弱い体質なのだ⋯。

知らぬうちに冷静でいる、
こんなときほど、良い結果を生むのだとしたら、
身の回りの小さな変化と兆しを
敏感にキャッチできるようでいたい⋯と思う。
幸運の予兆は一瞬にして走り去るもの、
鈍感だと見逃してしまう。
その点、敬愛なる故・増村保造センセは
冷静に、常に感受性豊かである、と
『曽根崎心中』を観てつくづく感心する私。

映画『曽根崎心中』の主役のキャスティングは
センセの手によるものではなく、なんと映画会社の方から
「宇崎竜童さんで何かひとつ、お願いします」
という依頼により企画されたとか。

映画主演は初めてだった宇崎竜童さんとの顔合わせ後、
センセと宇崎さんは1年もの間、共に食事をするなど、
打ち合わせを数回重ねられ、そうして
大傑作・増村版『曽根崎心中』は生まれた。

センセは人の長所を汲み上げるのがお得意な人ですね。
たとえムチを持ったとしても憎めない、
周りに慕われる良きリーダーだと思うのです、アタシ。


【曽根崎心中】製作年度 1978年 監督 増村保造
出演/ 梶芽衣子 、宇崎竜童 、井川比佐志 、左幸子 、橋本功 、木村元
残念ですがDVDは未発売みたい。

★★★★★★☆ 7点満点で6点
記念すべき増村センセ作品観賞10本目にして、
「マイ増村センセ・ベスト作」に出会ったかも、と思わずにいられない。
満点じゃないのは、上映ミスがあったことと、欠点が見えた方が
私は人間的で好きだ、ということ。とにかく本作は、
私が知る中ではセンセにしか創れない『曽根崎心中』だし、
もっともセンセらしい感性が迸っていると思う。
低予算での撮影という悪環境が、むしろ
俳優陣やスタッフの志気を高めたかもしれない。

映画初出演の宇崎竜童さんは、素人臭さが功を奏し、
少年から脱していない大の男の清らかさと、
ダメさ加減を見事に演じ切っておられる。
プロの演技で、あのような素朴でお人好しな天然は表せない。
また、女の底意地の強さを、映画という限られた時間で表すには、
熟練した演技より、対照的に ひた向きな「初出演」がいい。
しかも宇崎さんは音楽の人だから、
周りの俳優陣とも呼吸があってるし、関西弁も上手い。

相手役の梶芽衣子さんの演技は気迫の一言。
彼女の目には始終、恋しい男・宇崎さんの姿が映っていて、
眼の光線というか「目の力」というか、
「ミラクル・ビーム」が一直線に放たれている。
彼女が口にする台詞は、もはや台詞であって台詞でなく、
もう演技を超えた「女の本音」を振り絞っているように見えた。

衝撃だったのは橋本功さんの悪人っぷり!!!
あの悪っぷりは凄すぎる!!!瞳孔 開き切ってたかもしれん!
あの怪演を目撃したことは大事件だ、
「私の映画事件簿ベスト3」に堂々のランクイン!
え、あとの2つは何なのかは不祥である⋯。

音楽。ロック。心中街道をひた走る男女には
かつて「不良音楽」のレッテルを貼られたロックが相応しい。
公開当時は「近松物に何故、ロックなのか」と不評だったらしいが、
今となっては普通の表現。つくづく、センセは早すぎたのねぇ⋯。
ちなみに宇崎さんはこの後、『文楽・曽根崎心中 ROCK』を制作。
妻である阿木燿子さんは舞台で『フラメンコ・曽根崎心中』を発表と、
ご夫婦で『曽根崎心中』と関わっておられる、これもセンセの縁?

井川比佐志さん、左幸子 さんもエネルギッシュ!
出演者全員が熱く、その熱さに観ている方も引っぱられていくが
“文楽らしさ”を映画に加味すると、
演技がエネルギッシュになるのかもしれない。
ようするにセンセお得意の、フィクション性の強調かな。

美術が素晴らしい。家屋の色・質共に絵画のよう。
映像も美しい。低予算のせいか
TVサイズに似たスタンダードサイズだけど、
かえって特異な閉塞感が漂って面白い。

映画の冒頭と終末では、荘厳な寺の装飾や
地蔵さんが短いカットで映される。
宗教的な意図ではなく、ここでは寓話性をかもし出し、
ジブリ作品のソレらの扱いと似てるな、と思ったりする。

ラストは心中を遂げた男女の姿。
一気に走り抜けた意地の結晶に あふれる涙・・・
安らかな男女の姿に、いつの間にか手を合わせていた。
タイトルとラストの文字が血糊で表われる。
「心中」は愚かだ。そうさせたのは誰???
現代のいじめにも通ずる深く、重大なテーマだ。

うーん、もういっぺん劇場で観たいっ。
最後のタイトルロールもちゃんと!

06年 シネマアートン下北沢にて観賞



*TSBUYAKI ZOO*


■私の増村センセへの熱き想い
増村保造センセ その3
↑『曽根崎心中』を観た日の記事
「関西気質と増村センセとイタリー気質」について


増村保造センセ その1
増村保造センセ その2

Amazon co.jp『映画監督 増村保造の世界
「映像のマエストロ」映画との格闘の記録1947‐1986 (単行本) 』


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