[映評] 今年最も悲しく痛かった映画『痛み』!T▽T) | 韓国・ソウルの中心で愛を叫ぶ!

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今年最も悲しく痛かった映画『痛み』。コピーには「痛くなければ愛ではない」とある。


最近、年末ということもあって、今年観た韓国映画を整理してブログに紹介していますが、前回ご紹介した『最終兵器 弓』が、私の中で今年最も“カッコよかった”映画だったとすれば、今回は今年最も“痛かった”映画『痛み(통증)』(クァク・キョンテク監督)の紹介です。



●なぜ韓国映画は“痛い”のか?


私たち日本人から見て、韓国映画のどうしても大きな難点は、一言で“痛い”こと、すなわち、過激な暴力や血のりが多く出てくることですよね。どうやら、それが韓国人には、私たちが感じているようには特に気にならない、ということが大きな問題なわけです。


たとえば、クォン・サンウさん&チョン・リョウォンさん主演のこの映画。題名も文字通りの『痛み』なわけですが、これは、体に痛みを感じない「無痛症」の男性が、自分以上にかわいそうな女性に出会って、愛ゆえの「心の痛み」に痛ましいほど純粋に生きるという、私たちにはあまりにも痛い作品。


劇中でクォン・サンウさんの受ける暴力は、日本人の私にはどうしても、目を背けたくなるほどなのに、でもこの映画が、予告編(※下に掲載↓)や宣伝自体では、「ラブコメ」のような扱いだったんですよね。「正反対の“痛み”を持っている男女2人の熱烈なラブストーリー!」などといっていたんですけど、ぜんぜん「ラブストーリー」なんて悠長なもんじゃない!(>_<)


で、考えたんですけど、韓国人は辛いもの大好きじゃないですか。でも実際、基本的に「辛さ」とは「痛さ」なわけです。人間の味覚を感じる細胞には「辛さ」を感じる機能はなく、ちょうど「かゆみ」が「弱い痛み」であるのと同様に、「辛さ」は口の中の「痛さ」だというわけですよね。


すなわち、唐辛子の中の「カプサイシン」という本来「痛み」を与える物質が、「辛さ」をつくり出すわけですが、実際、韓国人が好む基準の辛さは、日本人にはすでに「痛さ」だったりもします。だから、ザックリいって韓国人は「痛み」に慣れている。そして、より刺激を求める男性は特に「痛み」を求めがちなんじゃないかと。


それで、男性監督のつくる韓国映画をみると、私たち日本人にはあまりにも「痛い」シーンが多く、刺激が強すぎるんじゃないかと…。つまり、赤い唐辛子だらけの食卓に座っているせいで、映画でも赤い血のりが多かったり、痛いシーンが多いんじゃないかなあという――これは勝手な説なんですけどね。^^;


だから、私たちからみて暴力シーンや残酷シーンが目に余るといって、別に韓国人が暴力的、残酷だったりということはなくて、あくまでも「辛い」ものが好きなように刺激に慣れてる人たちなので、映画に関しても私たちが「辛すぎ!」、「痛い!」と、私たちの基準で感じるだけなんじゃないかなという話なんです。


それで、映画の感想についての両国の感覚のズレができてしまう。だから私たちは、韓国映画やドラマをそのように“分かって”見なきゃならない。つまり「痛い!」と思ったら「ああ、これは『辛い』んだな」とか、「血だ!」と思ったら「ああ、これは唐辛子の色だな」と思いながら見なきゃならないという話ですよね。(^^;)



●「痛くなければ愛ではない」


ということで、映画『痛み(통증)』は、別に韓国ホラーのような「残酷さ」はないですが、でも「ここまで悲しく“痛い”話をよくつくったものだ」という映画でした。原作がマンガなので、そんなにシリアスに見るべきではなく、「無痛症」や「血友病」という病気に関する描かれ方も突っ込みどころ満載であるように、やっぱり、売り文句どおり“ロマンティックなラブコメ”として捉えるべきなのかもしれません。


でも、クォン・サンウ&チョン・リョウォンの演技は、ホントすばらしかったです。日本では今ドラマ『大物』が人気だというし、クォン・サンウさんのファンの方にはお勧めです。でもこの中で彼は何度もメッタメッタに打ちのめされますが…。チョン・リョウォンさんも、健気でかわいそうな役を好演します。この人は、2007の映画『二つの顔の女友達(두 얼굴의 여친)』で、かわいい二重人格症患者を演じて、私も大好きな女優さんです。


宣伝では、「“痛みを感じることができない男”と“わずかな痛みさえ致命的な女”の胸に迫る運命的で強烈な愛の物語!」などというわけですが、クォン・サンウさん演じる主人公は、幼い時に自分が原因で家族を失った罪悪感と、その交通事故による後遺症で、「無痛症(痛覚受容体異常)」になった男。名前も、「亡くなったお姉さんを忘れないため」にお姉さんの名前「ナムスン」を名乗っています。いっぽうのチョン・リョウォンさん演じる「ドンヒョン」は、彼とは逆に、小さな打撲や傷、運動なども致命傷になるという「血友病」患者で、やはり両親と死別して、道端で手製のアクセサリーを売りながら、健気に生きています。ちなみに「ドンヒョン」は男性名なので、暴力事件の被害者になって警察の事情聴取を受ける時に、二人の名前を警官が逆だと錯覚する、というシーンがあります。


「ナムスン」は、“痛み”ばかりか食べ物の味覚も感じられないわけですが、借金取り立て屋の相棒として、「お客様に失礼を働いた」と殴られることで客に脅威を与える、というヤクザな仕事をしています。その文字通り傷だらけで無味乾燥な人生の中で、自分以上にかわいそうでありながら、それでも前向きに生きているドンヒョンと出会い、何とか彼女を守ってあげたい、と思うわけです。


何よりもクォン・サンウさんの演技はすさまじく、体に痛みをまったく感じない男として、まったく保身をとらず、殴られっぱなし、ぶつかり、倒れ、転がっても表情を変えず、平然としながらフラフラするという恐るべき演技を完璧にこなしています。でも体の痛みには無感覚なこの男が、心の痛みには実にもろく、その優しさにラストは泣いちゃうこと間違いないでしょう。T▽T


印象に残ったシーンとして、味覚も感じられない「ナムスン」がひたすら無意味にご飯とゆで卵だけを食べるシーンがありますが、裏話としてクォン・サンウさんはこの時、撮影のため60個のゆで卵をひたすら食べ続けなければならなかったということです。また、発音が舌足らずなことで有名なクォン・サンウさんですが、劇中でもドンヒョンにそれを指摘されて、舌を長~く出して見せながら「自分は舌が長いんだ」と証明するシーンが笑ってしまいます。(^^;)


限りなく悲しく痛いラブストーリーとして、キャッチフレーズは「痛くなければ愛ではない」です。愛ゆえの痛みを徹底して知りたい方にお勧めします!(*´▽`)




韓国で公開されていた予告編


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痛みを感じないことを利用して借金取りの相棒となって脅威を与える仕事をするナムスン。


韓国・ソウルの中心で愛を叫ぶ!
怪我と入院を繰り返す、恐るべき人生を生きるナムスン。


韓国・ソウルの中心で愛を叫ぶ!
痛みも味もなかった人生に、痛みと味を与えるようになるドンヒョンとの出会い。


韓国・ソウルの中心で愛を叫ぶ!
味覚も感じないため、ひたすら卵を食べて栄養だけ補給する。


韓国・ソウルの中心で愛を叫ぶ!
このシーンは傑作です。


韓国・ソウルの中心で愛を叫ぶ!
やがて二人は互いに最も互いを理解し合うようになるが。


韓国・ソウルの中心で愛を叫ぶ!
激しい暴力の前にも何も痛みを感じない無表情。


韓国・ソウルの中心で愛を叫ぶ!
「ナムスン」は唯一自分が“痛み”を感じる相手を守ろうとするが。


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