今現在、学校教育のあり方が変わってきています。

21st century skills とgoogle で検索すると、コミュニケーション能力、問題解決能力、マネージメント能力などが飛び交います。

これが21世紀に必要な能力なのでしょう。

面白いYoutube動画 があります。

今現在ある職業の大半 (Social medial strategist, telework manager, elder care coordinator,, )は、10年前に存在しませんでした。

https://www.youtube.com/watch?v=Ax5cNlutAys

今学業中の学生の多くは、将来現在存在しない職業につくことになるだろうと予想されています。

 

 

インターネット普及のおかげで、誰もが何でも真実か否かは別にして、知ることができるようになりました。

従来の先生-生徒の関係性はもはありません。

従来の先生は、”先に生まれた”ため、多くの知識があり、それを学生に伝えるのが仕事でした。

今現在、先生に求められる仕事は、生徒の学習の意欲をかりたて、生徒に学習の”方法” を教え、今後生じる問題の解決方法を教え、ありふれた情報の中から正しい情報を選択する能力を育てる事であると考えます。

 

理学療法に関して、今後必要となっていく能力は何なのでしょうか?

もちろんこれだけではないですが、今後今までに比べて大きく焦点化されなければならない能力、それは私は、個々の理学療法士が、散漫する膨大な情報の中から情報を正確に収集し、その有効な情報を使う、つまり患者に伝え、EBPを実践することにあるとを考えます。(自分もこの能力を高めて行く日々です。)

 

Evidence-based physiotherapy “根拠に基づく理学療法” を、学部教育のうちからある程度学生が理解し、卒後EBPTを実践する必要性を非常に強く感じます。

臨床で生じる疑問を整理し、莫大な論文の中から自分の臨床疑問を解決するであろう論文のみを正確に摘出し、そしてそれぞれの論文に対する内的妥当性の吟味、そして外的妥当性の検討する能力が必要になってきます。

これに関して、信州大学の木村貞治教授がEBPTの実践 (http://jspt.japanpt.or.jp/ebpt/illustration/01/03.html)でわかりやすく書かれています。

自分の母校信州大学では、学部3年の終わりにPICOの個別の発表及び、4年生では、RCT研究を行うという非常に貴重な経験を得る事ができました。

ちなみに、オーストラリアのカーティン大学では、2年後期にはEBPTの概論(EBPTのステップ1~5を順に)、3年前期にPICOを使った非常に小規模な文献レビューの作成及び発表、そして4年後期には自分が実習で見た患者のEBPTの適応に関してクラスがあります。

 

WCPTのガイドライン"WCPT guideline for physical therapist professional entry level education"でもEBPTを実践する能力を挙げています。

 

これは移り変わりの激しい医学において、常に何が患者さんにとって何が最も効果的な治療法かを判断し、意思決定を助長する生涯に渡って必要不可欠な能力であります。今理学療法士にとって当たり前な「急性腰痛になったら安静ではなく、動け」という事実は、一昔前まではなかった科学的根拠です。治療を常にアップデートし、取捨選択を続けなければならないと感じます。

 

 

日本では、経験則に偏った、科学的根拠のない理学療法が蔓延している印象を受けます。ここオーストラリアでもその傾向はまだ根付いている印象がありますが、海外と比べた場合日本では程度が甚だしいと感じます。そしてこれが非常に大きな問題であると感じます。さらには、この経験則に偏った治療法を美化し、EBPを蔑んだ見方をする人がいます。この風潮は知る限り日本だけす。エビデンスでは治せない、という人がいて、経験として患者さんを治した独自の治療を広めているケースが多々存在していて、そして非常に残念なことに、それを信じ込む方々が大勢います。

 

 

経験則のみに偏った意思決定では、何がいけないのか?

われわれ理学療法士は日々の臨床の中で、自分の施した治療効果を意識的にそして無意識的に検証しています。熱心な理学療法士はしっかり妥当性の高いOutcome measures を使ってその効果を数値として算出していると思います。

そして経験のある理学療法士は、この”これまでの患者さんを良くしてきた治療”を、後輩に伝え、勉強会で伝え、セミナーで伝えます。

一見、この経験のある理学療法士から、”これまでの患者さんを良くしてきた治療”を教わることになんら問題ないかもしれません。

しかし、ここに大きな落とし穴があります。

それは何か一言で言うと、患者さんの良くなる原因は治療そのもの以外にも多数存在するからです。

まずは、人間誰しもが持つ自然回復能力です。急性腰痛や術後の肺合併症などが良い例です。これらの疾患を有する人は、何の介入なしでも、また効果的ではない治療を受けてもある程度満足した予後をたどります。日々の臨床の中で、どの程度”理学療法介入”によりよくなり、どの程度”自然回復”により良くなったのか知る術はありません。

 

次に、患者のアウトカムを良くする治療以外の原因として、患者の”優しさ”があります。実際良くならなかったが、そのセラピストの尊厳を保つため、一生懸命治療してもらった治療者に対する恩義から、良くなったと言います。

これは、特に勉強会などで良く見られる光景です。参加者の中で講演者の治療を受けた場合、必ず答えは、「よくなった」です。良くならない、変わらないと正直に答えるのは、その講演者の尊厳を傷つけかねないからです。かつてこれを行ったのは、大学時代の友人Shibaだけです。医療統計的に、患者さんが治療群に振り分けられ、自分はその治療群にいることを知っていることで、「良くなった」と反応することを、”Hawthorne effect”といいます。

 

プラセボ効果も患者の良くなる原因です。治療の内容ではなく、治療を受けたことに自体に対して作用する、心理的なポジティブな影響である。そして、このプラセボ効果が治療の効果に大きく貢献していることが証明されています。

 

なぜ、自分が行っている治療が他と比べて、またはしないに比べて効果があるかどうかを証明するのに、無作為化比較試験 (Randomised controlled trial)が適切かというと、それは以上のバイアスを制御できるからです。

RCTは質の高い研究とされていますが、研究結果に偽りがない (バイアスが少ない)、結果を信用できる研究です。

(RCT=質の高い研究=研究結果を信頼できるとは前年ながらなりませんが)

 

EBPTとは、質の高い臨床研究の結果を意思決定の拠り所とし、さらに患者さんの意向と臨床家の知識・経験を融合した理学療法です。

 

 

 

では、なぜEBPTが必要なのか。

 

質の高い研究により得られた結果を取り入れた治療は、そうでない治療りも、より安全で効果的です。そして、科学的根拠を意思決定に取り入れることにより、理学療法は”最善”が望まれる臨床結果を患者さんに提供することができます。

インターネットが患者さんの病気・疾患に関して情報収集の強力な手段でありますが、情報は信頼性の高いものから低いものまで幅広く蔓延しており、患者さんは質の高い臨床研究に基づく”真の情報”を知るために理学療法士の助けが必要です。

 

次に、理学療法士は医療専門職です。そして、プロのであるとは、社会から信頼され、よくするための努力を怠らないことであり、理学療法士が行う治療は、科学的に証明された安全で効果的なものであるべきであります。経験則で治した治療を自分の根拠としていては、マムシ療法や口内炎に対する梅干しといったような民間療法と同等です。

そしてもし科学的根拠を意思決定に取り組むことを怠れば、患者の尊敬や信頼を失い、そして社会的な存在価値を無くしかねないと考えます。

 

さらに、EBPTは理学療法士という専門職の確保、拡大のためにも重要です。理学療法士は自分たちのサービスが社会に与える価値および限界を把握し、その社会的付加価値を高め続けなければなりません。医師に理学療法の真の価値(エビデンスに基づく理学療法による効率性)を認知させ、それにより開業権有無に関わらず、紹介状を送ってもらい、受け取った理学療法士は医師のニーズを満たす。厚生労働省に理学療法士の価値を証明し、「この分野は、理学療法士に任す」という認識を構築し職域を確保・拡大する。そしてその証明する唯一の方法が、理学療法研究であると考えます。

理学療法内部でAとBの理学療法治療で対立するよりも、一歩下がって”理学療法”を一つのくくりとして、理学療法士が一致団結し同じ方向を目指し、他の専門職と社会に与える付加価値の度合いで競争し、高め合う必要性があると強く感じます。

 

 

患者さんに対して、

「ある有名な先生がこの治療法は効くと言っていたから試します」ではなく、

「あなたと似たような状態の人を集めた質の高い臨床研究、この治療法が、この期間で、この程度効果があると証明されています」と患者さんに治療のOptionを提供し、最終的には患者さんの意思決定により治療選択を行ってもらうのが、もちろん全てではないですが、より理想に近い医療の形であると感じます。

(もちろん意思決定ができない状態である患者さんには当てはまらない話ですが。)

 

理学療法士一人一人が医療専門職として、目の前の患者さんに対して現存する最適な(best availabe)治療及び限界を常にアップデートし、患者さんの意向及び臨床家経験のみならず、科学的に有効であると証明された治療を考慮して、理学療法を実践する能力が、自分も含めて非常に大事であると感じ、より焦点を当てて高めていきたい思いであります。

 

 

参考資料

https://www.amazon.com/Practical-Evidence-Based-Physiotherapy-Robert-Herbert/dp/070205450X/ref=mt_paperback?_encoding=UTF8&me=