大島です。「子育てアプリ」を作る自治体が増えてきています。でも僕は、

 

「情報を伝えるための道具である子育てアプリが、ダウンロードされても実際にはあまり利用されていないのではないか? あまり利用されていないとしたら、それは改善すべき課題ではないか?」

 

と考えています。最近も、こんな記事が話題になりました。

 

自治体がリリースしている子育てアプリを頻繁に活用している人っていますか?

(6/8 追記)
みんな無関心すぎてヤバい自治体アプリがたくさん!?レビューで利用者目線を取り入れよう

 

 

さらに先日、東京都の子育て協働コーディネーターとしてイベントに参加したときも、「子育てアプリ、実際に使われているんですか?」という質問を直にいただいたりしました。僕は率直に、「あまり使われていないと思います」とお答えしました。偽らざる実感です。

  

ここで、アプリの「使用頻度」を測る指標についてお伝えします。

 

アプリで大事なのは、「使用頻度」=「アクティブ率」である「DAU」「WAU」「MAU」。「使う」=「起動」してもらわないことには、情報は伝わらない。
 

DAU」「WAU」「MAU」とは、こういうことです。

 

よく、「ダウンロード数」が指標として扱われますが、アプリがダウンロードされても使われていなければ情報は伝わらないため、ダウンロード数を指標にすると、「実際に情報が必要な人に届いているか」が測れなくなります。

 

 

A市」を例にして説明します。

 

 

A市はなぜ「子育て情報をアプリで発信しよう」と考えるのでしょうか。

A市の子育て支援サービスや情報を、今や子育て世代にとって最も身近な情報端末であるスマホに届けられるからです。

そしてできた「A市子育てアプリ」。

A市の市民がこのアプリを使うまでの主な流れは以下の通りです。

 

A市の広報誌やチラシ、ウェブサイトなどで、「A市子育てアプリ」の存在を知る。

②ダウンロードする。

③使う。

 

この中で重要なのは③、つまりダウンロードされてから「どれくらい使ってもらえるか」「起動してもらえるか」です。これが、実際に情報が伝わるかどうかのカギです。そのための指標が、アプリの起動回数である「DAU」「WAU」「MAU」。ダウンロードしても起動してもらわない限り、自治体側が伝えたい情報が見られることはありません。

 

では「DAU」「WAU」「MAU」の目安は? 

 

アプリのジャンルにもよるので一括りにはできないですが、きずなメール・プロジェクトはミッションに共感してくださるアプリの企業にコンテンツを提供しているので、基準値はもっています。そのまま公開はできないので、あくまで目安として紹介すると、以下の通り。

 

ダウンロード数が累計1000ダウンロードと想定して、

MAU500 

WAU400 

DAU ※ブレ幅大きいので、ここでは取り上げません。

 

「これまでに1000ダウンロードあったとして、そのうち500人が月に1回は起動する。さらに400人が週に1回は起動する」ということです。アプリの専門家は間違いなく、「水準が高い」というでしょう。
 

しかしながら、「使用頻度が高いからスマホに情報を届ける」という考えから出発するのなら、これは最低ラインです。何しろ「起動されなければ、情報は届かない」のですから。

 

自治体の子育てアプリが何百万円何千万もの税金を投入して作られる事を考えれば、ご納得いただけるのではないでしょうか。

 

●なぜ子育てアプリがあまり利用されないのか?

 

利用されない理由は2つあります。まず「利用したいサービスがない」、もうひとつは「アプリの使い勝手が悪い」というもの。

 

利用したいサービスがなければ、そもそも利用しません。「なんとなくダウンロードしてみた」アプリの場合、こういう理由で使われなくなることは多いと思います。

 

「使い勝手」は専門用語で「ユーザーインターフェース(UI)」といいます。自治体の子育てアプリは、まだ歴史が浅いため、洗練されたUIのものが極めて少ないです。これでは、ダウンロードされても肝心の「使用頻度」が上がらず、必要な情報が届かない/見てもらえず、せっかく開発費に投入した税金がムダになってしまいます。

 

ここからは少し専門的な話になります。

 

 

「ユーザーインターフェース(UI)」とは、要は「使いやすさ」です。僕らが日頃使う道具は、ドアノブでも箸でもスプーンでも自転車でも、歴史に淘汰されて「使いやすく」なっているものです。情報メディアでいうと、例えば「本」や「紙の書類」は、ある意味完成されたUIだといわれています。「情報のデジタル化」が言われても紙がなくならないのは、人間の視覚的生理的な感覚にフィットしているからです。マイクロソフトのビル・ゲイツでさえ「長文の資料は紙にプリントして読む」という話は有名です。

 

 
スマホやアプリというのは、まだ歴史が浅いので、歴史に淘汰された「使いやすさ」はありません。だから「使いやすさ」もいちいち「設計する」必要があります。これが「UI」で、最近はさらに進化して「ユーザーエクスペリエンス(UX)」ともいわれます。FacebookTwitterなど有名なアプリが使いやすくて直感的に操作できるのは、極めてコストの高い「UI設計」「UX設計」に莫大な投資をして常時進化しているからです。

 

もっと根本的な問題もあります。

 

もしも、アプリで「情報を伝える」ことが主目的だとしたら、LINETwitterFacebookなど、すでに優れた「UI」「UX」を持っていて、子育て世代が使っているアプリがあるのに、なぜわざわざ「ダウンロードしてもらうことから始める必要があるアプリ」を作るのでしょうか?

 

下図は、子育て世代の情報端末の使用頻度をイメージ化したものです。

 

 

 

見ての通り、LINEが圧倒的。子育て世代の多くはすでにLINEを使っています。ならばわざわざアプリを開発しなくても、「LINEで発信する」のが費用対効果の見込める合理的な選択肢ではないでしょうか。

 

しかもLINEの自治体専用のアカウントは無料でつくれます。

 

 

そこへの集客など運用に費用がかかりますが、「わざわざプロポーザルでアプリを開発する」というコストに比べれば、比較にならないほど小さなコストです。

 

 

この記事を書いていると、こんなニュースが飛び込んできました。

 

 

LINE 政府のサービスと連携へ


現状を考えると合理的な選択だと思います。実のある連携になることを期待したいです。

 

 

●これから「子育てアプリ」を検討する自治体の方へ

最後になりますが、これから「子育てアプリ」を検討しておられる自治体の方は、ぜひ以下の点をご考慮いただければと思います。

 

①何が目的なのか?

今のアプリ開発は、機能を追加しようと思えばいくらでも追加できます。「お母さんたちの不安を解消したい。だから、子育て世代に役立つ情報を届けたい」というのが目的だったのに、サービスを検討するうちに、記録も残したい、写真も保存できるように、○○ができるように・・・とどんどん機能が膨らんでいきます。目的が見えにくいサービスに人が集まるでしょうか? 役立つでしょうか? 

 

②「自治体」が担うこと、「民間」に任せることの線引き

子育て世代向けの民間サービス、非常にたくさんあります。一方で、自治体だからこそできるサービス、自治体にこそ担ってもらいたいサービス、これもあります。

 

自治体だからこそできるサービスは、「ひとりもとりこぼさない」ために知恵を絞り、民間市場が踏み込まない部分に、予算をつけることではないでしょうか。子育て世代が自治体に担ってもらいたいのは、「安心して子育てできる場所」として機能してもらうこと、そして「安心して子育てしていいからね」というメッセージを送り続けてもらうことではないでしょうか。

 

「安心して子育てしていいからね」というメッセージを送り続けてもらいたい。こういうニーズはニーズ調査等では集まりにくいですが、潜在的に誰もが抱いている要望ではないでしょうか。(きずなメールの読者アンケート結果を見るたびに、そのように思います)

 

③シンプルな「UX」「UI
アプリ内に豊富なメニューを揃える傾向が強いですが、「UI」「UX」的な観点からすると、「メニューはシンプルなほうがいい」というのが今の流れです。

直感的に操作できるシンプルな構成にすることで、アプリ内で迷子にならず、ストレスなくアプリを活用してもらえるようになります。初めてアプリを使うときに、色々な情報入力を求めるのも、ユーザーのストレスが高いので、タブーになりつつあります。

 

*  *  *  *


僕の言っていることが信じられないという方がいたら、簡単に確かめる方法があります。自治体内の職員の方やその関係者の周りで妊婦さんや乳幼児の親御さんを見つけて、その人がどんなアプリを使っているか聞いてみてください。可能ならスマホの画面を見せてもらって、ヒアリングしてください。スマホアプリは、今や「使う人の時間の奪い合い、目や耳の奪い合い」という激戦区。少しでも「ストレス」を感じさせたら、使ってはもらえないのです。

 

今回は苦言のようになってしまいましたが、この記事により、住民福祉の向上のため、本当に必要な人に必要な情報が、的確な水準で届くことの一助になれば幸いです。

 

(2018/5/9 追記)

この記事が人気のため、続編となる情報をまとめました。参考になれば幸いです。

続・自治体の「子育てアプリ」について