今日の夜から八日間は、また旅行に出かける。昨日は、古書目録を作って発送した。旅行から戻ったら、目録の抽選とした。仕入が多いときで、申し訳ないが、ちょうどいい季節なので、おやじの春休みだ。
 今夜の夜行で東京に出て、羽田からエアアジアの安いので、クアラルンプールに立ち寄り、そこから乗り継いで、メルボルンに行く。オーストラリアは初めてで、南半球には行ったことがない。北緯41度から南緯36度に行く。こちらは春まっさかりで、向うは秋まっさかりだ。平均気温を見たら、20度ぐらいというから、いまの青森と変わらない。着てゆく服装はどうやら同じでいいようだ。
 ただ、いつもながら、長期だとばあさんがうるさいし、息子もうるさい。メルボルンだけにして、しかもそこに三日間泊まるだけ。前後に時間がかかるので、八日間はかかるのだが、バタバタとタッチして帰ってくるだけのせわしい旅行にはなりそうだ。
 あまりオーストラリアには行きたくはなかった。歴史のない国は興味がなく、大自然で人口密度が極端に薄く、日本の130分の1と言われても、そんなに感激しないのは、青森も僻地に行けばそんなところはいっぱいあるからで、田舎者がさらに大きな田舎に行っても、感動が少ないのに似ている。
 メルボルンはオーストラリア第二の都市で、350万人いる都会なのだが、世界一暮らしやすい街なのだそうだ。そこには歴史がある。昔の首都であったところで150年前の建物などがあって、まだわたしの好みの場所であるらしい。地理感覚がいまいちで、世界地図を眺めたら、時差は一時間くらいか、季節だけが逆転するので、南半球には一度は行ってみたかった。ただ、潜るために行くのなら、ケアンズに行って、グレートバリアリーフとなるのだろうが、そういう贅沢もできない。
 今年の二月だったか、メルボルン近辺は異常な猛暑に見舞われたとニュースで出ていた。50度を越えて、山火事が各地で発生して死者も出たという。どうも、それが信じられない。地図で見れば、メルボルンの沖にあるタスマニア島の南はずっと離れているが、南極なのだ。北緯と南緯の違いはあるが、日本でいえば、仙台あたりという感じなのだが、夏は暑く、冬は寒いという。大陸と島国、特に日本のような気候とは違うのだろうが、どうもピンと来ない。
 一番見たいのは星空だ。北とどんなに星座が違うのか興味のあるところだ。食べ物もカンガルーとクロコダイルとかのステーキは興味はあるが、どちらかというと買い物とグルメはどうでもいい。うちの女子には、お土産は「コアラのマーチ」にするからと言ったら、「それって、その辺で安く売っているじゃないですか」

 もしもっと日程があったら、フェリーでタスマニアに渡ってと思ったが、叱られるので、短くした。たった三日でも、街中を見物するのは半日よりない。いままでのような予定なしの無駄な動きはやめにした。イタリアとフィリビンで懲りた。きちんと日本からスケジュールを決めて、現地で手配するのはやめたのだ。それで、現地の旅行会社にネットで日帰りツアーを申し込んでいた。メルボルンの周辺だが、ガイド付きで、グレートオーシャンロードという奇岩を見るコースと、フィリップ島のペンギンの行進を見るツアー、近くの国立公園の山を半日トレッキングをするコースで三日間は潰れる。うろうろすることはなく、スケジュールびっしりで忙しい。そのほうが、却って安く、時間の無駄がない。ガイドは英語だから、またちんぷんかんぷんだが、英会話の勉強のつもりで。話しかけられてもただにこにこしていよう。
 羽田から発つのも久しぶりなので、国際空港として新しくなってからは初めてだ。それと、LCCも事前にネットでベジタリアン機内食も予約しておいた。いちいち金をとる。一食450円というから安いものだ。
 
 いつも言うのだが、今度は絶対に失敗はしないぞと。何か抜けているから心配だと、自分自身をあまり信用していない。ちゃんと航空会社からメールで来たスケジュールを見たら、大変なことが判った。それまで、成田から出るものと思っていたのが、HNDと書かれている。それが羽田と後で判った。知らないで時間までに成田に向ったら、間に合わないところだ。それと、渡航に必要なビザのところを見ていなかった。相手国で違うのに、パスポートだけでいいと思いこんでいた。よくよくガイドブックを見たら、オーストラリアは、短期の観光でもETAという簡易ビザが必要とのこと。それはネットで調べたら380円で取得できるところを見つけて申し込んだ。助かった。知らないで当日、のこのこと飛行機に乗ったら、空港で入国できないところであった。ツアーではなく、自分で何でも手配しないといけないときは、下調べをしないといけない。ひとつでも間違えたら、旅行ができないということになる。
 宿もちゃんとネットで予約した。バックパッカー専用の安いホステルだが、男女共用のドミトリーだ。前みたいに若い金髪の娘たちと同じ部屋で寝る。おやじだから、無害なのだ。
 
 と、すべて完璧に予約したようだが、何か、わたしのことだから心配だ。きっと何かある。何か大変なことを忘れていまいか。
 長期の旅行なら、予定は組めない。途中で何があるか判らないので、全行程をすべて予約すると、一日の遅れですべてがキャンセルになる。だから、行き当たりばったりの旅行となる。それはそれで楽しいが、当り外れもあり、宿などは、事前に調べることもなく、空いている部屋を探して歩くので妥協は必要だ。食べるところもガイドブックに載っているようなところではなく、適当に入るので、高い不味いはある。
 短期間の旅なら、きちんとスケジュールを組んでゆかないと、行ったはいいが、目的を完遂できない。無理な旅程は一回りして、ちゃんと帰りの飛行機に間に合わないといけない。今回の最終日の日帰りツアーは山歩きなのだが、市街に戻るのが夜の7時とある。その真夜中の飛行機で帰国するのに、果たして何もなければいいが。そういうスリルもまた楽しい。

 前後は東京だが、また美術館廻り、文学散歩と、ネットで下調べはしていた。一時間も無駄にしないで、歩く。できるだけ歩くことで、また運動になる。食べるものもベジタリアンで間食なし。甘いものの誘惑に打ち勝てる強い精神力を養うにはいい。
 物見遊山だけでなく、いろんな目的を兼ねた旅がいい。20枚の原稿を地元の文芸誌に依頼されて、その締め切りが月末なので、それも書く宿題もある。本と仕事から離れて、頭を少し空にするわけにはゆかないようだ。

 行く当日ぎりぎりまで仕事だ。若い二人は休ませて、わたし一人で店番で、仕入ラッシュなので、値段つけに忙しい。前の日に準備はしたが、荷物はできるだけ軽く、軽くだ。ばあさんと息子から餞別。セイロガンは持ったか、ハンカチは、チリ紙は、と、幼稚園児じゃないんだからさ。おやじの遠足は少しの緊張と期待、そして逃げ出す予行演習だ。