卵かけご飯など昔からあるものが、いま脚光を浴びているのが不思議で、食事処でメニューアップしてあるところもあるというから驚きだ。そんなもので金が取れる。片岡義男のエッセイを読んだら、卵かけご飯の正式な作り方が出ていた。炊き上がる寸前のご飯に生卵を割って入れて、その上にご飯をかけて蒸らすのか?

 わたしの友人が奥様を亡くされて、やもめ暮らしになったら、簡単に作れる料理がないかと、わたしに相談したので、そう言う丼飯だけあれば男一人の晩飯はなんとかなると、いろいろと教えた。仕事が晩くなり、帰ったらとても作る元気もないし、どうせ一人だ。彼は、料理はまるでダメだった。後で息子と一緒に暮すが、その息子さんのほうが料理は凝っていて上手らしい。
 それで、飯だけ炊いていれば喰える、料理ともいえないものを教えた。これはわたしもたまにやる。何も食べる気がせず、特に食欲のないときは、ともかく腹には何か詰めないといけないとき、簡単な丼飯をいただく。

○バターライス
 これは簡単だ。熱いご飯にバターかマーガリンを載せて、味の素と醤油をたらして混ぜ混ぜするだけ。フライパンで炒めることなく、なんとなく具のない洋風チャーハンという感じで、結構みんなやっている。うちの長男にそれを教えたら、うまいと、自分でもたまにやるようになったとはまっていた。

 ○山葵飯
 以前、札幌で暮らしていたときに、隣の電器店の奥さんから、山でとってきたという山わさびをいただいた。丼飯にそれをすって、載せて、生醤油をたらして食うだけの単純な食べ方だが、あれは美味かった。山わさびなんかなかなか売っていないし、手に入らないから、チューブのおろしわさびでもいいか。味は落ちるが、なんとなく、握り寿司やちらし寿司の上のないシャリだけを食べている感じだ。上に載っているものと想像しながら食べると、美味しくいただける。大間の本マグロでも載せたつもりでパクリ。

 ○とろろ飯
 青森は山芋が名産で、我が家ではよく食べる。昔はそれがご馳走だと言っていた。我が家では、ご馳走というと、大鍋にとろろ汁があり、他におかずもなく、それをみんながご飯にかけていただいた。山芋はきっと今も昔も高いものであり、それを食べると、他におかずは食べられない。山芋は増量するために味噌汁を入れてあった。薄めていたのだ。
 わたしの作るのも、ダシ醤油と卵を入れて掻き混ぜるだけのものではなく、それに必ず味噌汁の汁だけを入れる。それを息子たちも食べて育った。息子がどうしてもお父さんの味が出ないというので、作り方を教えたら、味噌汁なのかと感心していた。醤油だけでは角がある味も、味噌汁を入れることでまろやかになる。

 ○豆ご飯
 炊き込みご飯というのも面倒だというので、ならば、スーパーで売っている一袋百円のえんどう豆の塩茹で豆を買ってきて、熱いご飯に混ぜるだけ。塩をいくらかふって食べる。よく、宴会では、可愛らしい秋田の曲げワッパの小さなお櫃にこの豆ご飯が入って出てくる。あれは冷めていても美味しかった。

 ○鮭と高菜の寿司
 これもたまにやる。鮭は焼いてほぐした身がビン詰で売っているものを使う。いちいちほぐすのも面倒だ。高菜の漬物も包丁で切るのも大儀だというなら、鋏で細かく切ればいい。わたしよりも友人はズボラらしいから、まな板と包丁を使うというと、そんな面倒なとなる。酢飯ぐらいは作れるだろう。量の問題が心配だが、どっと入れないで、かき混ぜながら、味見すればいい。それにお好みで砂糖もひとふり。寿司だから冷まさないといけない。それにさっきの鮭のほぐした身と高菜の漬物を細切れにしたものをどんぶり飯に入れて混ぜるだけ。これは札幌の友人の奥さんから食べさせてもらった。そこではイクラも上に散らしていたけど。

 ○おかかご飯
 まるでふりかけのようだが、削り節と醤油をかけて混ぜるだけのシンプルなものだ。それだけで足りないときは塩昆布も刻んだものを入れたらいい。

 ○ゆかりご飯
 売っている袋に入ったゆかりは紫蘇のふりかけだ。どうしてゆかりというのかとメーカーのホームページにはこうある。「むらさき草が一本咲いている。と言う(縁)だけで武蔵野の草花が、皆愛おしく(身近に)感じてしまうーという古今和歌集かの歌から、「縁」のあるもの、「ゆかり」のあるものとして、むらさき草が詠われているところから」
 このゆかりをご飯に混ぜて食べるようになったのは、子供らが小さいときに、玄米ご飯ばかり食べさせていたが、それはやはり美味しくないので、どうしたらいっぱい食べてくれるかと、ゆかりを混ぜて食べさせるようにしたからだ。

 と、こんな簡単なものばかり彼に教えたが、これでは栄養が摂れない。野菜も買ってきて、サラダにしろ。サラダは手で千切るのだ。ドレッシングもいろいろとノンオイルも出ている。魚も喰え。いまは、焼いたのが切り身一枚レトルトパックして売っている。レンジでチンするだけで喰える。酒ばかり呑んでるんじゃないぞ。奥さんに死なれて、家事の何もできない旦那が残されると悲惨だ。酒と肴ばかりでは体を悪くすると、いつも気になっていた。わたしが行って作ってやりたいくらいだ。それよりもそろそろ彼も再婚させたい。誰かいい人がいたらなあ。