今年の十二月に、東京から新青森駅まで東北新幹線は全線開通する。いままでは八戸までで、八戸から青森駅までは特急の在来線に乗り換えて1時間。東京駅から八戸駅まではだいたい新幹線で3時間。乗り換え時間を入れて、4時間20分とか、そんな時間がかかったのが、開通して、速度が増したら、東京・青森間が3時間少しで結ばれるという。それで、青森の県民とはいっても、南部八戸近辺の人たちは除くが、期待が膨らむ一方だ。八戸はいまでも新幹線が来ているのだが、逆に青森市まで延びたら、八戸には下りなくなり、素通りするのではないかと、開業は県民として別にそんなに喜んでいないのではないか。
 それより、八戸の人たちに、新幹線が開通した当初は観光客も一時的によかったが、その後はどうですかと、訊いても、景気がよくなったという話は聴かない。
 そんな前例があるのに、手放しでみんな喜んでいるのは、陳情に次ぐ陳情で、念願叶った開通だからだ。
 今日は、その特集を地元のラジオ番組で取り上げて。津軽地方のいろんな人たちにインタビューしていた。黒石の男性は、人口が四万もない小さな市なので、そこにどっと観光客が押し寄せると、対応できないのではないかと、そんなことを話していた。当然、ラジオでは、前向きの人しか出さない。新幹線が来ると、青森県が景気よくなり、どこも売上が上がり、バラ色の未来が開けると言う人しか出さない。暗い後ろ向きの考えの人を出すと、特集にはならなくなる。わたしのような現実的な考え方よりできない暗いやつを出したら、番組がすべて否定的にされてしまう。
 新幹線が開通すれば、それは、旅行会社各社はキャンペーンをやり、団体旅行を企画し、こぞって青森をアピールするから、向こう何年間かは景気はそんなに変わらないだろうが、入り込み客数は増えるだろう。
 だけど、その逆もあるということを忘れている。東京が近くなると、仙台も盛岡も近くなる。われわれ青森市民はには便利になると思う。いままでよりもちょくちょくと東京に行くだけでなく、日帰りもできるのだ。若い人たちだけでなく主婦も、買い物に東京や仙台に行きやすくなる。アウトレットモールが青森にはないが、仙台や東京にはある。ブランドものも、青森では手に入らないものが売っている。とすれば、地元でいままで消費していたものが、他県で金を使うことになる。いままで以上に外に出やすいということになる。みんなは、ただ、入ってくることばかりを考えて、こっちから出てゆくことを考えない。人が動けば金もついてゆく。金も出てゆくのだ。
 それに、たった一時間少し早くなったからといって、観光客が倍になるものでもない。まして、周辺の弘前や黒石は、全国的な魅力ある観光地ではない。祭りのときだけだと知らなくてはいけない。普段はそんなに県外の観光客は来ていないのだ。新幹線が通ると、どんな田舎も潤うかのような幻想を抱く。弘前が古い町並みといっても、近年のモダンな町の改造は、保存とは逆コースを歩んで、なんとなく、駅前はぶち壊されて、昔のほうが情緒があった。それは青森駅前も同じだ。古い町で、人気のある歴史あるところはいくらでも他にある。

 それでも、時間が短縮されれば、人は気易くなるのは事実だ。
 海外旅行にしても、まだまだ日本は世界的な観光地でありながら、観光客の入り込みがフランスなどより少ないのは、東洋の外れで遠いからだ。よく、海外でインタビューすれば、みんな行きたいとは言うが、やはり遠い国なのだ。
 2時間で新幹線で行ける町が、1時間になったら、どれぐらい観光客は増えるだろう。4時間のところが3時間になったらと、それも調査すれば判る数字だ。ただ、距離と時間だけが観光の便ではない。観光地としての魅力度もあり、周辺のアクセスの問題もある。一概に時間距離で反比例する数字ではないだろう。
 
 青森市も入り込みが増えると見積もって、異常なまでのホテルの建設ラッシュが続いた。その煽りで地元の古いホテルが倒産してきている。まるで、今年の十二月から、どっと観光客が青森市に押し寄せてくるのではないかと、そんな期待と目論見でいっぱいで、受け入れ態勢はちゃんとできているのかと、いろんな人たちが幻想をやはり抱いている。
 青森市は観光都市ではない。そこで一泊して泊まって廻るべきものはあまりない。われわれ地元が、遠方からお客が来たら、果たして何処に連れてゆけばいいのだろうかと、悩んでしまう。八甲田丸は、もう錆び付いている。一度、熊本から来た婿を連れて行ったら、一度見たらいいですねと言われた。アスパムは面白いが、土産を買うだけだ。郷土料理の店もひとつだけあるが、もっと飲食店があってもいいと思った。
 棟方志功記念館は展示作品が少なく、実にちゃちで、わざわざ遠方から来て見るべきものはない。県立美術館も、あれぐらいの規模の美術館はいくらでも他県にもある。アレコだけではやはり呼べない。浅虫の県立水族館も、東京から来ても、横浜や品川、サンシャインにもあるし、全国の水族館を見てきても、そんなに驚くほどのものではない。すべて、全国区ではなく、地方区なのだ。唯一、全国区で知名度が高いのは三内丸山縄文遺跡ぐらいのものだ。
 B級グルメは何かと、焦ってようやく生姜味噌おでんにしたが、わざわざそれも遠方から食いに来るようなものではない。
 昔から、青森市は素通りの街であった。一年に一度、ねぶた祭り期間だけの街だ。みんな、十和田湖に行ってしまう。浅虫温泉も斜陽化して、ホテルが潰れ、温泉街は苦戦している。
 新青森駅から、シャトルバスで市内に入ってくる観光客はどれぐらいいるのか。観光タクシーや観光バスで、さっさと十和田湖に行って、街で買い物したり、お土産を買うために立ち寄るということは面倒くさくてしないだろう。それでなくても、新幹線の駅や周辺には、そんな土産を売る店は張り付く。手っ取り早く、そこで時間待ちに買うぐらいのものだ。
 観光もだいぶ、この不況で全国どこでも売上も落ちたという。これからも暫くは低迷は続くだろう。新幹線が来たからといって、街は景気がよくなると、思っていない冷ややかな目のほうがいまは多いだろう。