『大日本印刷グループと、講談社、小学館、集英社の大手出版3社は13日、中古本販売大手のブックオフコーポレーションの株式約31%(議決権ベース)を取得すると発表した。筆頭株主の日本政策投資銀行系のファンドなどから買い取る。出版不況の中、消費者の間で定着した中古本販売を取り込むことによって新刊本の販路活用や、店舗のノウハウ取得などの道を探るものとみられる。』
 こうしたニュースが先日新聞に大きく取り上げられた。いよいよ来たかという感じだ。いろいろとその思惑が取りざたされている。全国に系列店も入れて千店を越える販売網を持つブックオフだが、昨年度の中間決算では赤字転落した。そろそろ落ち目かなと思っていたら、大手出版社だけでなく、印刷業界の大御所まで乗り込んできた。出版不況の元凶がブックオフだと、目の仇にしていた出版業界だが、敵を乗っ取るという新たな策に出たのに、いろんな見方がある。
 マンガ本という出版のドル箱を中古販売を抑えることで、利益を上げてゆくという見方。
どうやら、会社の売上分析は当然のごとくにしているようで、ブックオフを出版社の処分場にするつもりはなさそうだ。それが目的なら、あまり期待できないことは数字が証明しただろう。
 出版社の払い下げはいまでも、専門の業者がいて、わたしらもセリの場で買ったりしている。以前はカタログも送ってきたり、営業が地方の古本屋を回ったりしていた。
 出版社は在庫を抱えておくと、それに対して税金もかかる。売れない本はいつまで経っても動かない。果たして、それが再販されて、半額で売れるかというと、疑問なのだ。いい本は価格の弾力性があり、割引すれば反応がすごく、瞬く間に売れてしまうものもあるだろうが、大方は過ぎてしまえば終わりの本ばかりだ。ブックオフの百円コーナーでも売れないような本が多い。仮にそれも目的のひとつで、新刊書店から返本されてきた四割近い膨大な本をブックオフ七百店に振り分けたところで、一万冊の本は、十何冊ずつか行き渡る。売場の本棚に同じ本が並んでいたり、平積みされていれば、どうも余り物という感じで、購買意欲を失う。いつでも買えると思うから、手を出さない。そのうち、百円に値下げするだろうと、待っている。
 それより、活字本全体が売れていない。まして、出版社で余している本はなおさらだ。

 さて、出版社らの狙いは何なのか。ともかくも、猫に鈴ではなく、猫の首根っこを捕まえた。これからどう料理するのだろうか。金を出した以上は、利用して、出版社にもいいようにして、互いに利益を生むようでなくてはならない。それとも、猫を殺すか。そのほうが将来ともに利益を生むと計算する。資産はたいしてなさそうな会社だが、せいぜい店舗の保証金や敷金が直営店であるようなものだ。在庫の大方はゴミだから、後は償却資産といっても、金にはならない。
 猫を殺しても第二、第三の猫が延ばしてくる。いまはブックオフが新古本店ではトップで、店舗数でも古本屋全体の一割を占め、売場面積では二割から三割になるのではないか。だけど、純然に古本だけの売上だけを考えたら、全体の一割はいっているだろうか。そろそろ頭打ちで、これからは厳しい営業を強いられるのは、やり方に無理があり、それが数字として出てきているからだ。

 今日も、ブックオフを呼んだら、買えませんと一冊も買わないで帰ったというので、その家の奥様が申し訳なさそうに電話をうちにしてきた。
ー古い本ですが、本当によろしいんですか?
 と、相手は念を押す。
ー古い本大好きです。新しい本はいらないんです。
 と、電話で返事をして伺うことにした。うちの店の買取広告にも〔古い本ほど買います〕と謳っている。わたしは期待して行った。
 ところが、二階の部屋の畳の上に積んでいる本を見たらがっかりした。古い本ではない。中途半端に古いだけ。みんなバーコードはついている平成に入ってからのものが多い。
 ところが、せっかく来たから一冊でもと、本を一冊ずつ査定していったら、結構、郷土史はある。警察官をしていたというので、警察関係の本もある。戦記ものが多数ある。青森県警察史全二巻だけでも一万はする。それもブックオフはいらないと手ぶらで戻った。
 多分、若い人が来て見て行ったのだろう。一番利益の出るところを置いてゆく。新しいマンガ本など、一冊売ってどれぐらいの利益が出るものか。文庫本でも絶版ものが結構あり、それらも一冊ずつ吟味して寄せると、安く買えた。ブックオフに断られたから、後はうちよりないのだ。うちが残したものは棄てるよりない。

 いつも、ブックオフの後に呼ばれていい思いをしているが、古本のいいところを知らないというのは可哀想なようなものだ。そうした荒っぽい商売は行き詰まる。
 出版社がブックフの販路を利用して、新刊本を売るということも考えているとすれば、それは書店組合から猛反発をくらうだろうし、中古と新本は相容れないので、なんとなく相性はよくない。全国どこでも、古本屋で新刊を扱う店もあるし、最近では新刊書店が古本のコーナーを設けている。江戸時代から、新刊と古本と出版は同じ書肆がなりわいとした。同居は必ずしも悪いわけではないが、新刊の店に古本があれば、新刊までが古いと疑われ、古本屋に新刊を並べても新しいものと思われないから不利だ。
 その垣根が取り払われてきたということは、それだけどこも苦しく、形振り構わずといったところか。現代は業態の混戦状態にはある。

 著作権の問題で、ブックオフらを相手にとり提訴した経緯も最近はあった。ブックオフが一億だったか判らないが、ネットでは協会に金を出したということも記憶には新しい。もし、それをブックオフでやろうとしたら、いまでも赤字なのに、ますます赤字が膨らむ。それだからといって、他の古本屋が法の整備もせずに右へ倣えするはずがない。
 ただ、いろんな可能性はある。この猫はネズミを獲る猫か、商売繁盛のまねき猫か、長靴をはいた賢い猫か、いずれにしても、そこまでさせた業界には必ず思惑があってのことだ。

 さあ、どうなるか、非常に楽しみなところでもある。ただ、うちのような古い本が好きな古本屋にとっては、今後、どうあろうと脅威にはならないと思っている。ブックオフで売っている商材の殆どを扱っていないし、主力には持っていっていない。ここ十年の本ばかりが対象であれば、相手がネットできても怖くはない。事実、すでにイーブックオフでわたしも個人的に本を購入したことはあるが、うちにない新しい本だったからだ。

 これから、古本業界は大きな変化を迎えるのだろうか。戦々恐々としているところもあるだろうが、どう出るかが、楽しみでわたしなどはわくわくしているところだ。