貧困である。
いわゆる発展途上の国ではない。
イギリスだ。
文明の国だ。
真っ当に生きてきた人間がある日、貧乏になる。
ゆりかごから墓場までと言われたイギリスの社会保障。
その綻びや融通の利かなさ。
IT弱者の切なさ。
そういった、おそらく現実に散見される光景を描写して、深刻。
日本も格差社会などと言われるけれど、まだ軽症ではと思えてくる。
公的サービスの仕組みが、こんなに過酷ということはないだろう。
これが英国の現状だとしたら、辛い。
主演のデイヴ・ジョーンズはなんと、映画初出演だとは…!
本来はコメディアンの方と知り、大納得。
何しろ、可笑しみがある。隠しきれない愛嬌だ。すっかりファンに。
シングルマザー役のヘイリー・スクワイアーズは、オーディション選抜の逸材。
あどけなさと達観が混在する芝居で、とてもいい。
隣人チャイナ役のケマ・シカズウェが楽しいので、ホッとする。
恥ずかしながら、ケン・ローチ監督を初体験。
硬軟を取り混ぜてくれるので惹き込まれる。そこからの突き放し。
なるほど、極めて政治的な作風だ。
生活が浮き彫られるから、こみ上げる親密感。
爺さんだと思っていたら、59歳の設定。
だがどう見ても爺さん。ジジ専(当方)としては親身になる。
人気サッカーチーム・ニューカッスルの本拠地だから、サッカーネタが愉快。
が、爆笑していたのは当方(サッカー馬鹿)のみ。ぽっつーん。
プレミアリーグの選手は何十億も稼ぐのに。
セリフには無いが、そう思わせてくれる効果もある。
現地出身の友人と同じ訛りに、懐かしさも込み上げた。
だから、だ。
だから尚更に、もう嫌だという気持ちでいっぱいに。
こういう社会批判は必要だ。
映画という手法は、国内外に向けた告発や提起に最適。
現に今作は、カンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞している。
ありきたりでは響かないゆえの、展開。
ケン・ローチ監督は一貫して労働者の味方らしい。
訴えかけが主目的だから、これ以外の落とし所が無いのも分かる。
多くの人には名作と映るかもしれない。
が、個人的には苦手な方向性であった。余韻が、主張で満たされてしまう。
富はある方に集まる。
磁石と砂鉄の関係性と同じ。
そこからあぶれた砂粒は、貧困の沼に落ちていくだけ。
それが現実だとして、また違った景色が観たかった。
スクリーン
I, DANIEL BLAKE
2016年・イギリス/フランス/ベルギー
監督: ケン・ローチ
出演: デイヴ・ジョーンズ、ヘイリー・スクワイアーズ、ディラン・フィリップ・マキアナン、ブリアナ・シャン、ケイト・ラッター、シャロン・パーシー、ケマ・シカズウェ
※鑑賞の感想です。情報に誤りがございましたら御一報頂けましたら幸いです。