バカと一言で括るには忍びない男の心情である。
愛を手に入れ、守ろうとして自分を殺す。
その喜びにいつまで浸っていられるのか。
男はヤクザで舎弟を殴る蹴る。
けれど、子供が出来たから。
足を洗って暮らそうと決めたから。
このビジュアルで、ヤクザ映画。
カッコ良さを謳った映画だとばかり。
ところがどうだ、この情けなさは。
ヤクザは異界の生物に等しいのに、この親近感は何だろう。
総じて人間とは、かくも見苦しくもがくもの。
脚本・主演の金子正次は、この1本で伝説になった。
今作の封切間もなく、盟友・松田優作に看取られながらガンで他界。
まだ、33歳。
脚本の遺稿が4本。うち3本が映画化された。
才能の煌めきが世に放たれた途端のサヨナラ。無念だったろう。
永島瑛子が素晴らしい!女の心情が痛いほど。
率直なセリフはほとんど無い。秘めているのだ。切ない。
北公次がいい。実は、初めて好きになったスター。我ながら、さすがババアだ。
桜金造が佐藤金造だった頃。ちなみに、桜金造の名付け親は松田優作。
やさぐれ女が銀粉蝶なので緊張する。
笹野高史は短い出番で持っていく説。
娘役は金子正次の実の娘、金子桃。とにかく可愛い!
父娘時間をフィルムに残しておきたかった父の思いだ。
監督は吉田豊が途中降板、川島透が引き継いだ。
川島監督ご本人はコメディ指向らしく、『竜二』は金子正次あっての作品だろう。
ヤクザ映画だがバイオレンスではない。
一人の男の葛藤だ。
人を足蹴にしていたヤクザである。
そんな男が変わろうとするのである。
金子正次は端正ではないが、却(かえ)って、眼光や表情が突き刺さる。
すでに病を認識していた役者の生の迸りだ。
萩原健一が歌う「ララバイ」にのせて。
早逝してなお、映画の中で生き続ける男の凄まじさよ。
なお、松田優作もこの6年後、金子正次と同じ日に亡くなった。
金子と同じく、ガン手術を選ばずに、だ。感慨深い。
スクリーン(秋田・週末名画座シネマパレ/Twitter)
1983年・日本
監督: 川島透
脚本: 鈴木明夫(金子正次ペンネーム)
助監督: 阪本順治
主題歌: 萩原健一
出演: 金子正次、永島暎子、北公次、佐藤金造、もも、銀粉蝶、笹野高史
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