くちびるに歌を

『くちびるに歌を』 2015年・日本 


危なかった、声が出てしまうかと思って。
ヒックヒックと号泣してしまいそう。
ぃや、号泣はしたのだけれども、どうにか嗚咽に留められた。
と思うのは自分だけで、もしかしたら劇場内でうるさかったらすみません。

泣く映画だと聞いていたから、心構えは万全。
なのに、だ。
涙で、スクリーンが見えなくなった。

新任教師と、生徒たちの交流。
合唱をキーにして。
となれば、ああいう感じかなと見当がつくというもの。

ところが、そんな予想は全て無駄。
まるで見当はずれ。

皆の心が動いて、その揺らぎでさらに何かが動く。
パズルのピースがハマっていくみたいに。
青春映画であるのに、伏線の張り方が実に巧み。

ただでさえ、それぞれのエピソードは深いのに、だ。


新垣結衣は、ぶっきらぼうで仏頂面。観客の思惑を良い意味で裏切る、配役と芝居。
水辺に立っているような清涼さだ。
生徒に対しての長身も活きた。特訓したというピアノも、見事。

木村文乃は、生徒と新任教師のつなぎ役で、まろやか仕立て。
桐谷健太の旨味で、賑やか効果。笑いもありがとうございます。

桑原兄弟の弟役・下田翔大くんがいい!普段はヤンチャだというから、余計に。

桑原兄弟の兄役・渡辺大知が素晴らしい!難役を柔軟性をもって演じている。
いつもながら、バンド・黒猫チェルシーでの歌唱時とはまるで違う。驚きっぱなし。

他のキャストや生徒も皆、素敵であり、殊に合唱ハーモニーには胸を打たれまくった。

三木孝浩監督は、本当に良い。画面の淡い色も好き。
人にベッタリ寄り添うのではなくて、半歩、隣で支えるような作風。それが優しく、心地よい。


今作で当方が号泣した部分というのは、中田永一(乙一)の原作にはないのだという。
三木監督のアイデアなのだという。
腰が抜けた。
こんなに豊かな膨らませ方があるのかと。

長崎は五島列島のロケーションも美しく。
生活の中に、教会がある風景も暖かい。

それぞれに傷を抱えた人々が、じっと耐えて生きている。
出会って、歌って、ちょっとずつ変わっていく景色。

青春映画の傑作だ。
鮮烈な風を感じた。

泣けたら良い映画、ということではない。
こんなにも心を動かされたから、止まらなくなったのだ。
だってどうしようもなく、こんなことをされてしまうともう、爽やかに泣くしかないじゃないですか。ねえ?



映画 スクリーン

[関連作品]
三木孝浩監督 『ソラニン』『ホットロード』
渡辺大知 『色即ぜねれいしょん』



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