『幸福の黄色いハンカチ』 1977年・日本
高倉健という俳優がこの世を去って、日本の胸に大きな穴がぽっかり。
どうして涙が出るのかと考えて、大好き映画に答えを求めた。
何度観ても、ドキドキする。
ああ、ラストはどうなるんだろうって、心配になる。
だって、負けてしまった人ばかりが登場するから。
女にフラれた欽ちゃん。
男にフラれたアケミ。
そして、ワケあり男の島勇作。
3人が出会った網走から、真っ赤なマツダ・ファミリアで北海道を駆け抜ける。
旅、旅、ひたすら走るロードムービー。
泣くつもりで観たのに、抱腹絶倒。
もう許してレベルの笑いの攻撃。
ヒーヒー笑って屁をこいた。
その中からこぼれ落ちる、それぞれの来し方。
島勇作の背負ってきたものを、一緒に乗せて走る車。
脳内の90%がエロな男、欽ちゃんを武田鉄矢。残りの10%が優しさだ。なんだ、この肉付け方は。
笑いの天才。監督にシゴかれたというが、これが映画初出演とは!
アケミが桃井かおりなのだから、これは鉄板。
顔をしかめているだけで、もう可笑しい。切なさも一所懸命さも、可愛い。最高。
倍賞千恵子が純白!この気丈さを守りたくなる矛盾って、魔法か。
寅さんファミリー大量出演。渥美清と高倉健が喋ってるって、鼻血ブー。
山田洋次監督が描く男の多くが、この病にかかっている。妄想病だ。
そこに人の弱さを詰め込むのが大得意。だから、寄り添いたくなる。
ラストも絶品。何を言ったか分かる仕掛けは、鳥肌もの。
そして、高倉健である。
「自分は芝居が下手だ」と常々、仰っていたけれど、とんでもない。
女々しくて自分勝手で、短絡的な島勇作。
そんな男を演じて、これほど善を感じさせられる俳優なんて、他にいるか。
私事ながら、学校の映画会で観て以来、ずっと愛している映画だ。
エロなシーンに男子がワアワア言って、女子が怒って、終いには皆、号泣。
サッポロビールとラーメン。
70年代の音楽に乗って。
旅の終着点、あの光景。
ああ、そうか。
健さんはこうして、我々の思い出を作ってくれていたのだな。
だから今はこんなにも寂しいけれど、その面影を見上げながら生きていく。
それは幸福だ、きっと、そうだ。
高倉健という生き方に心からありがとうございますって、伝えたい。
BS朝日 デジタルリマスター版(録画)
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