$世界映画博-川の底からこんにちは

2010年・日本 


笑った。
なんだろうか、じわじわじわじわ、くる。

ゆるゆるゆるゆる、目尻が下がる。口角が上がる。
自然すぎる流れに、ゆらゆら身を任せたくなる。

嬉しくなって、ヒヒヒと笑いながら眺めていたら、ふいに心を掴まれた。
体ごと、揺さぶられてしまった。
気づいたら、ちょっと泣いていた。


シジミのように生きている人がいる。
世間から見たら、とっても片隅で生きている。
「しょうがない」が口癖で、「どうせ」が自分を語る枕詞。

その中から生まれてくるものがある。
弱くはない、強すぎることもない光がある。


これほど1人1人の役者が際立って光り輝いている映画というのは、滅多にない。
役者であれば、この人の作品に出たい。そういう監督がいるかと思う。
作品の道具としてではなく、スクリーンの中でしっかりと息づいている人間を作り上げてくれる監督。

石井裕也監督の今作での仕事は、まさにそれである。
脇役の脇に至るまで、目の配り方が絶妙である。
自由にさせているようで、任せきっているように見えて、タズナは監督の手元にあるのがよくわかる。

監督が書いた脚本は、くだらなさと深みのバランスがたまらなかった。
中でも、父親が娘に言うセリフ。
あるモノを買えというのである。
あのセリフには、やられた。


役者については、誰がスゴイ、などという話ではない。
すべての登場人物に、拍手したい。

満島ひかりは、モチロン圧倒的。
遠藤雅のヘナチョコぶりは、思わず惚れそう。
相原綺羅ちゃんは、他の子役に無い可愛げがある。
志賀廣太郎は、どうしても再現ドラマが頭をよぎるのですが、あの威厳と情けなさの境目感がうますぎて、気恥ずかしいほど。
岩松了はいつもながらに、もう卑怯。

これらのメインにまったく互角であったのが、木村水産の人々であった。
中でも、稲川実代子!
この先、この映画のタイトルを耳にして最初に思い浮かぶのは稲川実代子かもしれない。
この人は使いたくなる。
そういう女優だ。


こういったじわじわ系、ハマれない方は一向にハマれないかもしれないのですけれども、ハマれてしまえば、その快感は限りない。
思い出しても笑えるのだ。
思い出しても泣けるのだ。

こんな映画を作るのは難しい。
派手な仕掛けに頼らずに、セリフを作り、シーンを重ね、削ったり継ぎ足したり。
そうして作られたバームクーヘンのような映画は美味なのにとても身近で、どの層にもお楽しみが隠されていた。

なんだかわからないけれども、やってやろう!と思えた。


そして今イチバン、着信に使いたい曲。
それが、木村水産社歌なのです。



『川の底からこんにちは』

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