我慢できなくてごめんなさい | 劇団 貴社の記者は汽車で帰社

脚本・演出と、役者としては藤原基衡を演じた千野です。
いつもはトリで書くことが多いんですが、まぁ、初主演のあいつに譲ります(笑)。

 

『後三年記』、いかがでしたでしょうか。

自分で言うのもおかしな話ですが、『後三年記』を舞台化しようなんて酔狂、うちぐらいなもんだと思います。
そこはもう自信を持ってお届けしました。

 

脚本についてはパンフの座談会でさんざん語っちゃってるんで、もういいかなって感じですが……。
今回は話の骨格を考えるのに、ちょっとかかりました。
『陸奥話記』のとき清衡を語り手にした以上、今回も「息子が語り手」ルールを適用しようと思ったのですが……「待って、後三年合戦のとき基衡まだ生まれてないじゃん」問題で挫折しかかります。
で、ここで、一瞬、「清衡の妻(=安良)が語り手」案なんかも浮かんだのですが、いやいやいや、このシリーズの語り手は男性キャラがいいなと思い直し……。
じゃあもう「戦争を知らない子供」ってことでどうだろう?! と開き直ったとき……「いや、でも、基衡って兄貴を殺してなかったっけ?!」と思い出して、ようやく「戦の末に苦労して作りあげた平和を、戦を知らない新世代がぶっ壊すエンド」が決まったのでした。
ちなみに私はラストを決めてから書くので、ここから全体をなんとなく構成し、原作をもとに登場人物の人数をしぼり、脚本づくり開始となるわけです。
書き始めたらもうあっという間です。そこの早さには自信があります。

 

にしても……今回は、いや今回こそは! 後味の悪い作品を書いたつもりだったんですがねぇ。
……いや、だって、親兄弟でも分かり合えない・身内だから殺し合うって話じゃないですか?
なのに、結局、希望にあふれる役者陣のおかげで、なんか爽やかにまとまってしまった気がしています……。
修行が足りませんね。もっとネガティブな作品が書けるように精進します。

 

さて、役者としては? ってところですが……。

今回はもう、自分の役割に徹しようと、そんなつもりでした。
初主演やら、プレッシャーかかる役が初めてやら、久しぶりの出演やら、初キシャやら……そんなメンバーが多い座組だったので、私はちゃんとシメられればいいと。
なんなら「藤原基衡役」である自覚すら薄いぐらいで(実際、誰からも名前を呼ばれないし)、ただの狂言回しでいいやって思ってました。

……だったんだけどねぇ。

 

ラストだけは、我慢できませんでした!!!
言い訳なんですが、当初はあれももっと地味にやってたんですよ?
でも、本番が近づくにつれ、役者たちがどんどん迫真の演技をするようになってきて、
「私もがっつりお芝居がしたい!!」
って思えてきて。
さらに照明家さんから、ラストにカッコいい照明が用意されていることを聞いて、
「じゃあカッコつけるー!!」
って我慢できなくなって。
というわけで、本番2週間前ぐらいから、
「後半はだんだん存在感出していいよね?ラストもってってもいいよね?!」
って開き直りだしたのでした。
いやー、ラスト、気持ちよかったー!!
役者たちが作品世界をしっかり生きてくれたから、私もやりたいって思えるようになったわけなので、ええもう他の役者たちのせい、いや、おかげです。

 

そうそう、語り手をやりながら演出って(見当がつくとは思いますが)ものすごく効率がいいんですよね。
役者たちの演技をちゃんと見ることができるし、自分の稽古が後回しになっても誰にも迷惑をかけないから。
でもねぇ……その分、「役者やってる感」は薄くて寂しかったです。
極論すれば、役者としての自分は稽古場で特に必要ないわけじゃないですか。
どんどん結束を強めていく役者たちがうらやましかったなぁ……。
さらに劇場入りしたらますます演出に専念してSTAFFさんとの調整に奔走することになるので……結果、楽屋や舞台裏でのオフショット、私ほとんど写ってないんですよね。
「まるで、そこにいなかったかのように」(笑)
それが自分の役割なんでいいんですけど、いつも以上に居場所がなかったなぁ!

 

まぁ、それはさておき。

 

今回は客演さんもたくさんいたので、それぞれの役者のファンの皆さまが観に来てくださっていたことでしょう。
私は、皆さまのご贔屓の役者の魅力を引き出すことができたでしょうか?
観に来てよかったと、それは作品自体だけじゃなく、「大好きなあの子の魅力的な姿を」見に来てよかったと思ってくださったなら、これ以上の喜びはありません。

 

それから客演メンバーも、キシャに出てよかったと思ってくれてるのかな……?

 

ともあれ。
初主演のあいつも、私としては魅力的に清衡を演じてくれたと思っているのですが。
役者本人はどう思っていることやら。

 

というわけで、トリを飾る明日の更新は主演から。
久保田、どうだった?

 

2017.08.17 千野裕子