「どうしよう…。」
キョーコは下宿先の自分の部屋で最早絶望に近かった。
厳重に鍵をかけ、仕舞い込んでいるというのに、ほんの僅かなきっかけで簡単に浮かび上がってきてしまう蓮への想い。
上手く仕舞えないばかりか、時と共に膨れ上がり、今ではキョーコの日常を脅かすまでに育ってしまった。
しかも蓮の前で気を抜くと間抜け顔になってしまうため、この1ヶ月というもの、蓮に会う前には愛を否定する自己暗示がかかせなくなっていた。
「失恋確実なのに…馬鹿みたい…でも、玉砕覚悟で告白なんて出来るわけない…それなら後輩のままでいるほうがいい…。」
このまま後輩として、側にいるほうがキョーコとしては良かった。
「でも…バレたら、どうしよう…後輩としても側にいられなくなちゃう…。」
バレたら、元の関係に戻れなくなることがわかっていた。それゆえに悩んでいる。
「…あ、そうだっ。」
すると何かを思いついたような仕草をし、
「違う人を好きな素振りをすればいいんだ!そうすれば、バレないし!まけた顔してても言い訳できるし!一石二鳥じゃない!!」
ようは仮想恋愛と言ったところだろう。
「…ちょっとイタい人になる気もするけど、他に思いつかないし!これでいいよね!」
他人から見れば、投げやりになっているように思えるが…。
「よし!そうと決まれば誰にしよう?適当に名前とか決める?あ、ダメダメ!出来れば、この人ですって写真を見せたほうが信用してもらえると思うし。だからって日本人にすると、もしかしたらバッタリ会っちゃうとかもあるかも知れないし…あ、そうだ!外国人にすればいいんだ!外国人の俳優さんを夢中になってるとか!恋とは呼べないような気もするけど、カモフラージュだから良いよね?」
ようは、彼に恋なんて抱いてませんとアピール出来ればいいのだから。
「そうと決まれば、先生の映画を見よう!まだ見てなかったんだよね~!」
事務所から借りた、クーが出ている若いときの映画のDVDをこれまた事務所から借りたDVDプレイヤーで再生して見出した。
「…ん?」
一時間くらい見ていて、キョーコはあるところで停止ボタンを押す。
「…なんか、今見覚えがあるようなものが…。」
巻き戻し、例の場面を探った。
「…!?コレ…。」
その場面に移っていたのは、美しい少年だった。息を呑むくらい。
「…コーン…?」
そして、似ていた。思い出の中の少年に…背が高くなって、顔つきが変わりつつあったが…。
「…どうして、コーンが…。」
キョーコの目が揺らいだ。
「まさか…コーンは…。」
そして、あるピースがピースにはまったのだった…。