「Letters」「Change the world」読者の為の福岡案内(第9回) | 『Go ahead,Make my day ! 』

『Go ahead,Make my day ! 』

【オリジナルのハードボイルド小説(?)と創作に関する無駄口。ときどき音楽についても】

 
『Go ahead,Make my day ! 』-赤坂

 大名というのは不思議な街だ。
 福岡の、というより九州の商業の中心地である天神の真裏にあるにもかかわらず、まるで時間の流れから取り残されたような佇まいを残しているからだ。車がすれ違うのも難しい細い路地、地中埋設が進まずに蜘蛛の巣のように空に架かる電線、狭苦しい土地に無理やり建てられた古い雑居ビル、老舗という名前がピッタリの小さな工場、昔ながらの店構えのままで営業を続けている商店。
 しかし、同時にこの一帯は安い賃料に惹かれて集まってきたショップやカフェがずらりと軒を連ねる場所でもある。福岡の流行の発信地は今や天神ではなく、ここ、大名なのだ。古いものと新しいものが絶妙に入り混じる混沌とした雰囲気は、他の何処でも味わえない大名ならではのものと言えるだろう。
                                        「Change the world」第30章より


『Go ahead,Make my day ! 』-中央区役所TOPの写真は赤坂の中央区役所の裏にある貯金事務センターの四つ角。立ち回りの後、息せき切って逃げ回った2人が足を止めたのがここ。真奈は思いっきり「区役所の裏」と言ってますが……間違いではありませんが……。

というわけで、延々と続いてきたこのシリーズもいよいよ大詰めの大名へ。大体、”天神”という大きな括りを除いた地名の頻出度ではかなり上位の割に、あまり――というかほとんど本文中での説明をしておりませんので、読者さまには非常にイメージしにくかっただろうな、とずっと思っておりまして。
しかし、他の街と違ってあまり印象的なシーンの舞台になったことはなく、また、描写がしにくい街(基本的に路地なので)なせいで、これといって書くことがないのですよね。「Change the world」でもただウロウロしただけだし。 

なので、今回は文章でごちゃごちゃ説明するのではなく、画像をたくさん見て戴きながら補足的にグダグダと語っていこうと思います。一応、前回のイラストマップの抜粋を再掲載しておきますね。(新しいのを書き起こす気力が……)

『Go ahead,Make my day ! 』-MAP(南天神・拡大版)

『Go ahead,Make my day ! 』-天神西通り『Go ahead,Make my day ! 』-天神西通り
まずは天神西通り。作中で何度も書いてますけど西通りは交通量に対して非常に狭いので、いつ行ってもこんな感じでゴチャゴチャしてます。
右の画像はグランドホテル横を通り過ぎた最初の曲がり角を臨むところですね。
『Go ahead,Make my day ! 』-サザン通りこの曲がり角の少し手前の左側がサザン通り。作中で出した記憶は……ほとんどないような。
「Change the world」できらめき通りのことをさんざん馬鹿にしてますけど、名前がトンチキという意味ではこっちのほうがよほど変な気もします。ちなみに同じく西通りから天神側に入る路地に「マロニエ通り」というのがあって、歩道に面した狭いスペースにミニショップがひしめいていたのですが、今はその呼び名は使われていないようです。
『Go ahead,Make my day ! 』-大名1角を曲がるとこんな感じ。
親不孝通りがまだ天神の盛り場の中心だった頃は、この辺りには店らしい店はほとんどなく、西通りから折れるといきなり真っ暗(!)だったものですが、上の引用で真奈が言っているように、いまや天神の中心はここ、大名だと言っても過言ではありません。
『Go ahead,Make my day ! 』-大名2にもかかわらず、大名にはは何と言うか、レトロ感としか表現しようのない独特の空気があります。
福岡は大きな戦災を免れた街であり、また、比較的復興が早かったので昭和中期に多くの建物が建てられています。おまけに大名は天神の真裏という立地の割には不思議なくらい再開発から洩れてきた地域なので、他の地域に比べると今でもそれらが数多く残っているのですね。
『Go ahead,Make my day ! 』-大名3上↑の写真は西鉄グランドホテルの裏隣にある大名小学校。昭和4年(1929年)に完成した戦前の鉄筋コンクリート製の近代建築物で、当時の面影を残したままで現役で使われているのだそうで。
こんなところに学校?という気もしますが、考えてみればこの辺は住宅地でもあるので学校は必要なのでしょう。撮影したときも小学生がウロチョロしてました。
でも、その真向かいには↑こんな店が。(笑)

さて、ここからはしばらく画像のオンパレードで。
『Go ahead,Make my day ! 』-大名4『Go ahead,Make my day ! 』-大名5

『Go ahead,Make my day ! 』-大名8『Go ahead,Make my day ! 』-大名9

『Go ahead,Make my day ! 』-大名10『Go ahead,Make my day ! 』-大名12

『Go ahead,Make my day ! 』-大名14『Go ahead,Make my day ! 』-大名15

『Go ahead,Make my day ! 』-大名17『Go ahead,Make my day ! 』-大名18

 
脈絡もなくただズラリと画像を並べて見ましたが、真奈の独白にある「古いものと新しいものが絶妙に入り混じる混沌とした雰囲気」の意味がお分かりいただけたと思います。
大名にどんな店があるのか、というのは一応調べたのですが、実際のところ列記しても仕方ないので、今回はもし福岡に行ったら寄ってみても良さそうなのを2軒ほど。ちなみにいずれも食べ物屋。(だってファッション系は分かんないんだもん)
『Go ahead,Make my day ! 』-テムジン(大名店)『Go ahead,Make my day ! 』-一風堂(大名本店)
左は博多名物の鉄鍋餃子の老舗「テムジン」。系列店が親不孝通りの南側入口にあります。博多の餃子は一口サイズの食べやすさが特徴で、それを鉄製の鍋(というか小さなフライパン)で焼いてそのまま出します(テムジンでは皿で出てきますが)。全体的に注文してから出てくるのが早いのは、食に関してはせっかちな福岡で長らく商売をしているからでしょう。
右は社長がテレビに出まくっているので有名な「博多一風堂」の本店。全国区になった2つの博多ラーメン(もう1つは「一蘭」)の中では比較的伝統的な博多ラーメンの面影がありますが、それでもおしゃれと言うか、かなり食べやすくアレンジされているなと思います――特に長浜ラーメンを食べた後だと。
実は一風堂はわたしが珍しく実名で登場させておりまして、「砕ける月」で南区塩原にある支店で真奈がラーメンを食べるシーンがあるのですが、ヤツはここでラーメンとご飯、餃子のセットにご飯お替りと麺の替え玉をしております。ホントよく喰うよな、この女……。
ちなみに路地1つ隔てた、西通りから折れたすぐのところに西通り店もあります。

ところで、上でもチラッと書いてますが、大名が天神の中心的な場所となったのはここ数年――どんなに昔だとしても10年くらい前のことです。
それ以前は、天神西通りは今と同じように(ひょっとしたら今以上に)賑やかでしたが、大名や警固、今泉は夜になると真っ暗でした。(まあ、今泉は昔からラブホテル街でしたが)
そのせいかもしれませんが、近年にできたものを除くと西通りにある店に「大名」の名を冠するものはほとんどなく、逆に大名にある店も「天神西通り」を名乗るものはあまりありません。最近は西通りより大名の方が通りが良いので、西通りにあっても大名店というのが多いですが。

『Go ahead,Make my day ! 』-ジョーキュウ醤油さて、そんな大名地区ですが、作中のイメージである「天神の中心地域」の役割も含めて、最近は若干の翳りが見え始めているのだそうで。
というのも、これ以上の再開発が見込めないためにテナントが新陳代謝のように入れ替わるだけなのと、2005年3月の西方沖地震のときに(作中ではあまりダメージがなかったような描写をしてますが)築年数が進んだ建物が多かった大名・今泉などでは家屋の破損や倒壊などの被害が出ていて、昔からの住人の流出が止まらないからなのだとか。この辺は親不孝通りが「浄化作戦」の末に勢いを失い、寂れてしまったことで逆に治安を含めておかしくなってしまったのとどこか似ているような気がします。
街並みというのはずっと同じということはなく、常に様々な事情で変化していくものなのですが、できればこの街のささやかな繁栄が緩やかに続いていってくれればと思いますね。
(写真は大名にあるジョーキュウ醤油の工場。ここの煙突は長らく大名のランドマークだったのですが、これも地震で折れてしまいました……)

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

(えーっと、今回で今泉までいって終わるつもりだったのですが……。やむなく第10回に続く)