1981年、政権をと取ったロナウド・レーガン大統領はフリードマンの自由主義を政策に取り入れ、さまざまな規制緩和を行った。
86年、BISが発表した「BISリポート」は、レーガン政権当時の変化として次の2点を指摘している。
ひとつは、企業の資金調達が銀行融資から証券や債券によって行われるようになったこと。
86年、BISが発表した「BISリポート」は、レーガン政権当時の変化として次の2点を指摘している。
ひとつは、企業の資金調達が銀行融資から証券や債券によって行われるようになったこと。
もうひとつは、それまで市場で資産と見なされなかった多くのものが証券化、あるいは債権化され、金融市場で売買されるようになったこと。
このふたつの変化を加速させたのは、70年代に開発された住宅ローンを証券化するモーゲージ・ローンという手法であり、80年代に成立した金融制度改革法である。
このふたつの変化を加速させたのは、70年代に開発された住宅ローンを証券化するモーゲージ・ローンという手法であり、80年代に成立した金融制度改革法である。
アメリカ経済は、徐々にモノを作る経済から金融主体の経済へとシフトしていく。
アメリカンドリームは、違う夢を追い始めたのだ。
こうした流れによって80年代のアメリカで横行したのが“M&A”だった。
アメリカンドリームは、違う夢を追い始めたのだ。
こうした流れによって80年代のアメリカで横行したのが“M&A”だった。
証券化の技術を応用し、企業を買収していく。
経営者や投資家、乗っ取り屋たちは企業から上がる収益ではなく、企業そのもの を売買することで儲けることを考えたため、企業の体力は落ち、経済は消耗していった。
従業員の雇用と生活を守るはずの企業が、強欲な資本家たちによってオモチャにされていたのだ。
当時、隆盛を誇っていた金融テクニックはふたつ。
従業員の雇用と生活を守るはずの企業が、強欲な資本家たちによってオモチャにされていたのだ。
当時、隆盛を誇っていた金融テクニックはふたつ。
ひとつは投資銀行ドレクセル・バーナム・ランベール社のマイケル・ミルケンが編み出したジャンク債を使った資金調達法だった。
それは評価の低いクズのような社債を次々と発行し、その高い利回りに惹かれた投資家を集め、M&Aのために必要な巨額の資金を調達するというもの。
もうひとつは投資ファンドのKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)が得意とした “LBO” (レバレッジド・バイ・アウト)という手法。
こちらは買収対象としている企業の資産とキャッシュフローを担保に資金を調達するという強引かつ、非常にレバレッジのかかったやり口だ。
どちらの手法も、手持ちの資本資金が少なくても大資本の企業を買収できることがメリットとされたが、当然、買収側は取引完了時点で多額の借金を背負っていることになる。
どちらの手法も、手持ちの資本資金が少なくても大資本の企業を買収できることがメリットとされたが、当然、買収側は取引完了時点で多額の借金を背負っていることになる。
となれば、とっとと儲けを確保し、借金を清算して、現金を手にしたいと考えるだろう。
そこで選ばれるのは、買収企業を育てることではなく、別の企業へと高値で 売り払う という早道だ。
そんなM&Aを繰り返していれば、当然、買収が成功しても企業は疲弊していく。
そんなM&Aを繰り返していれば、当然、買収が成功しても企業は疲弊していく。
そこで起きるのは経営の効率化や企業価値の向上といった お題目 で行われるリストラであり、その本当の目的は短期間な株価の上昇なのだ。
結果、株価は上昇しているが、生産性が 伸びない という状況に陥っていった。
ちなみに、KKRの設立者のひとり、ヘンリー・クラビスはビルダーバーグ会議の常連であり、ブッシュ一家とも深い関係にある人物で、父ブッシュの大統領選出馬時にはその資金集めに奔走。大統領就任後には金融問題について助言する立場にあった。
ウォール街のビジネスマンたちの根底に流れる基本的な考え方は、
ちなみに、KKRの設立者のひとり、ヘンリー・クラビスはビルダーバーグ会議の常連であり、ブッシュ一家とも深い関係にある人物で、父ブッシュの大統領選出馬時にはその資金集めに奔走。大統領就任後には金融問題について助言する立場にあった。
ウォール街のビジネスマンたちの根底に流れる基本的な考え方は、
「儲かればそれでいい」
「自分たちの中でお金が増やせさえすれば、それ以外の世界のことは関係ない」
というものだ。
投資ファンドが巨大な資金を動かしてM&Aを行う場合、付随する企業も儲かる仕組みになっている。
投資ファンドが巨大な資金を動かしてM&Aを行う場合、付随する企業も儲かる仕組みになっている。
投資銀行、証券会社、各種ファンド、法律事務所、会計監査法人、各付け機関、経営コンサルタントなどなど。
彼らは取引が行われ、その手法が複雑になればなるほど、手数料やアドバイス料を得られる機会が増えていく。
彼らは取引が行われ、その手法が複雑になればなるほど、手数料やアドバイス料を得られる機会が増えていく。
それはサブプライムローンの場合も、その他のモーゲージローンの場合も同じだ。
2000年から2005年前半の住宅バブルのように、5年間で評価額が50%も上がってしまう異常事態では、家は庶民にとっての一生の買い物ではなく、金融機関を巻き込んだギャンブルの対象になった。
こうしてアメリカだけでなく、同時期にイギリス、オーストラリア、スペインでも住宅バブルが発生した。
こうしたバブルを支えるには不動産を買う個人に多くの金を届ける必要がある。
こうしてアメリカだけでなく、同時期にイギリス、オーストラリア、スペインでも住宅バブルが発生した。
こうしたバブルを支えるには不動産を買う個人に多くの金を届ける必要がある。
その需要に応えるために銀行や住宅ローン会社は、新たな形の住宅ローンであるティーザー・ローン(ゆとりローン)を開発していった。
例を挙げればきりがないが、要するに、手持ちの金がない人にも家が買えるように細工したローンだ。
だが、この投資の前提になっていたのが「住宅ブームは続き、不動産価格や賃貸料は上昇を続ける」という 見通しだけ だったことを忘れてはいけない。
だが、この投資の前提になっていたのが「住宅ブームは続き、不動産価格や賃貸料は上昇を続ける」という 見通しだけ だったことを忘れてはいけない。
そんな中、さらにバブルが続くように、より多くの人が投資に加われるようにと開発されたのが、低所得者向けのサブプライムローンだった。
こんな不安定な長期個人向けローンを商品化していったのはアメリカだけだった。
こんな不安定な長期個人向けローンを商品化していったのはアメリカだけだった。
貸し倒れの危険が高いローンであることは貸し手側もよく分かっている。
そこで考え出された手法が、住宅ローンの返済金を担保に、ローンそのものを証券化して投資家向けの商品に組み替えて転売するビジネスだった。
【その手順は、まず何千、何万という住宅ローンを集め、ローンのプール(集合体)を作る。この時、ポイントとなるのは同じ性質の住宅ローンを集めること。
そこで考え出された手法が、住宅ローンの返済金を担保に、ローンそのものを証券化して投資家向けの商品に組み替えて転売するビジネスだった。
【その手順は、まず何千、何万という住宅ローンを集め、ローンのプール(集合体)を作る。この時、ポイントとなるのは同じ性質の住宅ローンを集めること。
たとえば、年収800万円のサラリーマンが組んだ3000万円の25年住宅ローンを集めれば、毎年どれくらいの返済(キャッシュフロー)があり、返済をしない人の割合が全体の何%程度か(リスク)を予測できる。
こうしたプールができたところで、それをベースにして投資銀行が証券化する。つまり貸した金を返してもらえる権利や貸したという証明書を集めた証券化商品として、投資家に販売する。】
長い期間をかけてゆっくり資金を回収しながら利益を得るのではなく、そんなに 待ちきれない とばかりに、さっさと権利を証券化して転売してしまう銀行や住宅ローン会社。
こうしたプールができたところで、それをベースにして投資銀行が証券化する。つまり貸した金を返してもらえる権利や貸したという証明書を集めた証券化商品として、投資家に販売する。】
長い期間をかけてゆっくり資金を回収しながら利益を得るのではなく、そんなに 待ちきれない とばかりに、さっさと権利を証券化して転売してしまう銀行や住宅ローン会社。
こうした担保証券を売ることで、ローンが完済されるまで何十年も待つことなく、新規のローンを組むことが可能になった。
さらに住宅ローンの貸し倒れリスクから 逃れる こともできる。
一方、証券化は機関投資家やヘッジファンドにとっても都合がよかった。
一方、証券化は機関投資家やヘッジファンドにとっても都合がよかった。
従来の株式や債券とは異なる金融商品として、投資先を分散したり、より高い利率でのリターンを狙える投資先として受け入れられ、一気に広まっていった。
もしこの証券化がこの段階で止まっていれば、今ほど金融危機は起きなかった可能性が高い。
もしこの証券化がこの段階で止まっていれば、今ほど金融危機は起きなかった可能性が高い。
というのもここまではまだ借り手の顔が見えるので、債務不履行の発生率と貸出金利を逆算することで、すぐに証券の価値が計算できる。
あまりハイリスクな証券には投資家も手を出したがらない。
あまりハイリスクな証券には投資家も手を出したがらない。
するとせっかくサブプライムローンを開発したのに、金が回らないということになる。
なにしろ、無職で貯金もないような相手に住宅ローンを貸し出すのだ。
普通に考えて貸し倒れとなる可能性は高く、そんなローンをプールして利率の高い証券化商品にしても、投資家は避けて通るに決まっている。
このままではハイリスクなサブプライム層で作ったものには買い手がつかないので、他のローン(自動車ローン、消費者ローン、中小企業向けローンなど)から作った担保証券と適度に組み合わせていく。
こうして「CDO」と呼ばれる債務担保証券を組成。
このままではハイリスクなサブプライム層で作ったものには買い手がつかないので、他のローン(自動車ローン、消費者ローン、中小企業向けローンなど)から作った担保証券と適度に組み合わせていく。
こうして「CDO」と呼ばれる債務担保証券を組成。
リスクや利回り、組み込まれたローンの区分けなどによっていくつもの種類を作り出し、プロである機関投資家やヘッジファンドにとっても、どの商品を選ぶべきかが見えにくいほど複雑な商品に仕上げていった。
そこで強い影響力を発揮したのが、ムーディーズやスタンダード&プアーズといった格付け機関。
そこで強い影響力を発揮したのが、ムーディーズやスタンダード&プアーズといった格付け機関。
(非常に疑わしい)
CDOの問題は中身が見えないことだ。
CDOの問題は中身が見えないことだ。
それは言わば成分表示のないミックスジュースのようなもので、人口甘味料で甘く仕立てられているのか、本物の果物の味なのかは誰にもわからない状態で、格付け機関が「おいしい」というラベルを貼って次々と市場に流していく。
複数のCDOを束ねて作った「合成CDO」というのもある。
複数のCDOを束ねて作った「合成CDO」というのもある。
こうなると、もはやもとの成り立ちすら分からない。
その結果、今回の金融危機でCDOの損失を被った投資家の中には、そこにサブプライムローンが仕組まれていたことすら知らなかったというケースも多数ある。
サブプライムローン自体が やけくそ の ギャンブル並に 高いレバレッジ を効かせた投資である。
サブプライムローン自体が やけくそ の ギャンブル並に 高いレバレッジ を効かせた投資である。
証券化した担保証券のリスクは高い。
将来の損益がどうなるかは関係なく、売買件数が増えれば手数料収入は増加する。
そのうえ、貸し倒れのリスクも軽減されていく。
「バブルはいつか弾けるが、最後にババさえ引かなければ儲かる。」そう考えた住宅ローン会社、投資銀行や格付け機関の金融のスペシャリストたちは、さらに複雑に発達したさまざまな証券化商品を作り出し続けた。
「バブルはいつか弾けるが、最後にババさえ引かなければ儲かる。」そう考えた住宅ローン会社、投資銀行や格付け機関の金融のスペシャリストたちは、さらに複雑に発達したさまざまな証券化商品を作り出し続けた。
そしてそれが隠された毒、あるいは時限爆弾として世界中に広まり、今の金融危機の原因となっている。
すでに今回の金融危機がサブプライムローン問題でないことは、はっきりしている。
すでに今回の金融危機がサブプライムローン問題でないことは、はっきりしている。
根本的な原因は「証券化」によってサブプライムローンという毒を背負い込まされた証券化商品が世界中に流通してしまったことにある。
つまり儲けを第一に動いた資本原理主義者の欲と グローバル化の押し付け が、実体経済を揺るがしているのだ。
「証券化」と「レバレッジ」によって膨張した信用バブルによって、コンピュータの中に存在する取引額は天文学的なものになってしまった。
つまり儲けを第一に動いた資本原理主義者の欲と グローバル化の押し付け が、実体経済を揺るがしているのだ。
「証券化」と「レバレッジ」によって膨張した信用バブルによって、コンピュータの中に存在する取引額は天文学的なものになってしまった。
世界中の中央銀行の中央銀行と言われるBIS(国際決済銀行)によると、世界中のCDOなどの証券化商品を含む金融派生商品の残高は、2007年12月の時点で596兆ドルだった。
これは世界のGDPである54兆ドルの10倍を超える数字だ。
しかも、この額すら信用できるものかどうかはわからない。
しかも、この額すら信用できるものかどうかはわからない。
当のBISが「すべてを把握していない」と認めている。