いよいよ切られたイランへの「切り札」
http://www.funaiyukio.com/money2/index_1112.asp
禁じ手の「イラン中央銀行への制裁」という切り札を切った事件のきっかけは、11月8日に発表された国際原子力機関(IAEA)の報告書から始まりました。
IAEAはイランの核開発について軍事目的であると強く示唆、これが米国をはじめとする欧米諸国のイラン制裁に繋がっていったのです。
IAEAの天野之弥事務局長はイランが核兵器開発に向けて様々な実験を繰り返してきたと指摘し、イランが行った複数の活動は核兵器開発特有のものだと断じました。
これに対してイラン当局は「報告書は政治的な動機に基づいている」とIAEAを非難したのです。
中東諸国は従来からイスラエルの問題もあって絶えず欧米の国々、特に米国とは対立を繰り返しているわけですが、一方で石油をこの中東に依存している世界は、制裁という強いカードを思い切って使えないというジレンマを抱えてきました。
しかし、今回イランの核開発も最終段階に入ったとみられ、何とかこの状況を打破したいという欧米をはじめ世界各国の緊急の命題があったわけです。
一方でイランの核開発成功によって生存すら脅かされるイスラエルにとっては、極めて深刻な事態で、このイスラエルの出方とともに今回のIAEAの報告を受けた欧米諸国、とりわけ米国の出方が注目されていたのです。
イランは数年にわたる欧米の制裁措置によって国内の経済活動は疲弊し、原油は採れても精製施設のないイランではガソリンが高いという悲劇的な状況となっていました。
一向に改善しない経済に対して、イラン国内でも保守派、改革派双方の非難合戦と相まって政治も経済も混乱状態に陥っていたのです。
欧米は、イランの核開発を断念させようと、様々な圧力や制裁の繰り返しを数年にわたって行ってきたわけですが、イラン国内では欧米の制裁に反発、かえって保守化していったのです。
国内の状況が厳しくなればなるほど、強硬意見の勢いが増してくるのは世論の当然の流れで、いまやイランの核開発を止めるということは、イランの国内事情を考えれば不可能という当然の結論をみるに至っているわけです。
このような保守・強硬路線に傾いているイランに対していかなる制裁が可能か?
ということですが、実は軍事行動ということでなく、米国は切り札を持っているのです。
その切り札とは何か?
それはイランの中央銀行を制裁対象にするということなのです。
世界ではドルの凋落が言われていますが、それでもいまだにドル体制です。
石油の決済はほとんどドルで行われているのが現状で、この世界のドル流通のシステムによって石油代金が滞りなく決済されていくわけです。
仮に米国がイランの中央銀行を制裁対象にすればイランは国際的な金融システムから孤立、貿易の決済が不可能な状況に陥ってしまいます。
そうなれば日本も含めて世界各国はイランからの石油調達ができなくなるのです。
イランにとって国内の経済が危機的な時に石油という収益源を失えば、イランは資金や貿易に行き詰まり、ひいてはイランという国家の崩壊に陥っていくのは必至なのです。
米国もイランも、いままで口ではお互いを罵る強い非難合戦を繰り返してきたわけですが、この最後の一線である「イラン中央銀行への制裁」というカードは決して切ることはなかったのです。
仮にこのカードを切れば、米国とイランの対立は決定的となって最終的には軍事対立を含む「崩壊への序曲」となっていくからです。
ところが今回いよいよ米国はこのカードを切り、イランとの全面対立を辞さないという覚悟を決めたようです。
その先鋭部隊となったのが英国です。
指摘してきたように中央銀行への制裁は「禁じ手」で、絶対に触れてはならないものなのです。
我々の人間関係、友人との関係や会社での振る舞い、夫婦との会話などでもそうですが、ある一線を越えるような行動や言葉、態度はこれらの人間関係を一瞬にして破壊させます。
一度言ったら戻れないということがあるのです。
これは誰もが日々の生活の中で感じわかっていることです。
ところが今回、英国はイランに対してIAEAの報告を受けてこの一線を越える「中央銀行への制裁」というカードを切ったわけです。
英国は米国とは違いますからこの決定がイランに壊滅的な打撃を与えるわけではありません。
しかし「禁じ手」を使った英国に対して、イランは我慢できるはずがないのです。
イランを破綻に追い込む、実質宣戦布告のような制裁に黙っていられるはずがありません。
ですからイランは暴走を始めました。
追い込まれたネズミが猫を噛むようについに暴発したのです。
イスラエルがイランで戦端を開いたとたんに世界は一変する
国際金融 イランを締め出しへ
3月16日 8時37分
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120316/t10013761501000.html
EU=ヨーロッパ連合が、核開発を続けるイランへの制裁強化の一環として銀行間の決済に欠かせない情報の提供を禁止することを決め、国際的な金融取引からイランの中央銀行などが事実上、締め出されることになりました。
EUは15日、イランへの制裁強化の一環として、すでに資産凍結などの制裁の対象になっている個人やイランの中央銀行などに対し、国際的な銀行間の決済に欠かせない情報の提供を禁止することを決めました。
これを受けて、ベルギーに本部を置き、銀行間の国際的な資金決済に使われるSWIFTは、EUの決定に従い、17日からイランの金融機関に対するサービスの提供を停止すると発表しました。
SWIFTは、日本を含め210か国の1万を超す金融機関の間で決済に関する情報を提供しており、送金などの取引にあたって、銀行を確認するためのいわば郵便番号に当たり、国際的な資金の流れには欠かせないものです。
イランの銀行は、SWIFTのサービスから排除されることで、国外からの送金を受けることが一段と難しくなり、国際的な金融取引から事実上、締め出されることになり、原油代金の決済などでイランの銀行と取引する日本の金融機関にも影響が及ぶことも懸念されます。
アメリカのコーエン財務次官は、15日、「不正な核開発を続けるイランに対し圧力を強める必要があるという国際社会の合意を反映したものだ」とする声明を発表し、歓迎する考えを示しました。
そのうえで、「アメリカとしてもヨーロッパ各国と引き続き協力し、イランへの制裁をどのように、より効果的なものにするか、引き続き話し合っていきたい」としています。