城村優歌Webooks

       


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その夜、私たちは修学旅行生のように夜遅くまで話し込んだ。
物心つき始めた頃からの思い出を振り返ると、大きなものから小さなものまで、無尽蔵に掘り起こせた。
それらはみな、傷つかない程度に風化し、色あせ、和らいでいたので、私も慧も改めて過去を共有することで優しくなれた。
思い出の中では、あねさまは私たちの理想のあねさまで、かあさまは絶対的な愛の権化のような存在だった。
 
慧は、かあさまの日記のことなど忘れたように、思い出を語った。
私たち三姉妹は、自分が一番母から大切に思われたいと、どこかで思っていて、それを互いに知りながら口に出さず張り合っているところがあった。
「ほら、小学生の頃、かあさまがあねさまに作った夏のワンピース、ずるいずるいって騒いで、私たちも縫ってもらおうとして」
「サトは色にこだわって、あねさまと同じじゃいやだってダダこねて」
「だって、私はいつもあねさまのお古なのに、あんたは私と背が変わらないからって末っ子なのに新品買ってもらって、ほんと、真ん中は損ね」
「私だって、あねさまのお古を着たよ。サトだけじゃないんだから。
サトが、服なんてなんでもいいって言ってたからよ」
「あれは次女なりに、かあさまに気をつかってたの。
それを差し引いても、あねさまはいつも、かあさまのお気に入りだったよねえ」
 
その言葉で思い出した私は、手の甲を撫でながら、独り言のように言った。
「でも、かあさまが亡くなる少し前、私に言ったことがあるのよね。
薗子くらい育てにくい、難しい子はなかった、自分とそりの合わない子だったって」
慧はガバリとソファから身を起こして、こちらを見て言った。
「なにそれ、あねさまはかあさまの一番の自慢なんじゃなかったの?」
私は口の端で笑って首を振る。
「慧は自分で何でもやりたがったから手がかからなかったし、私はふたりの姉を見て真似してできるようになるから、教えなくてもよくて、ほんと楽だったって」
はぁ? と慧は呆れた声をあげ、ソファに気絶するような勢いで倒れ込んだ。
「そういうの、子どもの頃に聞きたかったわよ」
「どうして、私たち、あんなに張り合ってたんだろうね」
すると、慧はふっと笑って毛布にくるまり、あくび混じりの声で言った。
「今だって、3人寄るとまだ、なんか張り合ってるみたいなところあるじゃない。
っていうより、私が勝手に引け目感じてるだけなのかもしれないけど」
 
今度は私が、ウソでしょ?と声を上げた。
「サトが一番自由で、自立してて、三人の中で一番しっかりしてるじゃない」
さすがに、夫を亡くした自分より、ずいぶんと恵まれているとは言えなかったが、今までずっと自分の力で稼いできた慧が、三人の中で経済的にも裕福なのは言わずもがなだ。
若い頃から習い事も転職も海外旅行も、恋愛だってなんだって自分のやりたいようにやってきたように、私からは見えていた。
しかし、慧は真面目な声で言う。
「何言ってるの、私から見たら、一番しっかりしてるのは、ルイ、あんたよ。
きちんと好きな人と結婚して、子どもも育てた。今だって、まっとうに暮らしてる」
「まっとうじゃないよ、私こんな状態だし……もう、まともに働けないかも」
「何言ってるの。博己さん亡くなって、まだ3年でしょ。辛くったって当たり前だよ。
でも、ルイは最近、明るくなったと思うよ。よくここまで立ち直ったね」
 
めったにかけてもらえない優しい言葉が、ふいに降ってくると胸が詰まる。
私は、大きく息を吸い込んでからゆっくりと吐き出し、重い物でも引き上げるように慧に向かって口角を上げてみせた。
これを立ち直ったと言うのかどうかは、自分にはわからない。
けれど少なくとも、夏頃の自分とは違うことは、わかる。
ふと高屋敷のことを思い出し、私は上げた口角を引きつらせた。
 
姉たちに、高屋敷のことが知れたら……。
夫とよく似た男と会っているなんて、ふたりに何と思われるだろう。
 
突然黙り込んだ私を気遣うように、慧は大きなあくびをしてみせ、
「疲れたね、もう寝ようか」
と毛布を引っ張り上げた。
「明日、私早いしさ」
「会社?」
「そうだよ。だからスーツ持ってきたんじゃない」
「明日も…来たりする?」
「大丈夫だって。明日は襲撃しないから、安心して。ほら、寝るよ」
 
電気を消した暗がりの中で、お互いの息遣いを確かめるように、私たちは黙り込む。
明日……。
また彼に会えるのだと思うと、自然に口元が緩む。
しかし、私はすぐに唇を引き締め、浮き立つ気持ちを抑えるように、きつく瞼を閉じた。
 
 

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久しぶりの更新になってしまいました。

年度末なもので、立て込んでおります。

先週の土日は、土曜授業やら研修っぽいことがあったので、ゆっくり休めず、前回の更新のすぐに書き始めたものが滞り、ずいぶん経ってしまいました。

 

前回は、私の一方的な愚痴のようなものを聞いていただき、ありがとうございました。
書いたことで、いったん気持ちが落ち着き、改めて考えることができました。
教師と生徒の信頼関係ができていたら、あれは多少のおふざけのうちだったのかも、と受け止められました。
ただ、生徒を犬扱いすることには、どうしても賛成できませんが。
しかし、まだ4か月と日の浅い自分の感覚と、1年間密に過ごしてきたクラスの感覚はまた違うのだろう、と思うようになりました。
お読みくださり、またご助言のメッセージ等いただき、本当にありがとうございました。
 
花粉がものすごい量、舞っていますが、今年は、鼻の孔に塗って花粉をブロックする「アレルシャット 花粉 鼻でブロック」というのを使ってみました。
そしたら、わりと効きます。でも、30分以上経つと、どうしてもムズムズしてきますが…。
個人的な使用感は、イオンでブロックするスプレータイプよりも、効率的に花粉をブロックできるように思います。
友人から、鼻の孔に馬油を塗るといい(たぶんアレルシャットと同じ)と教えてもらったので、お洗濯の時とか、ちょろっと外に出るくらいの時は、馬油を塗っています(薬よりは効果は低い)。
マスクと眼鏡は手放せませんね。
最近は、大判のエコティッシュ(箱サイズのやつ。箱よりかさばらない)を持ち歩いています。
早く花粉の時期が終わりますように。
杉さん、そんなに頑張らなくていいからね、と山のほう向かって呟く毎日です。
 
今日は、東日本大震災から6年目。
なんだか言葉が見つかりません(何度も書き、何度も消し…)。
ただただ、あの時、辛い思いをされた方々が、少しでも笑顔を取り戻せていたらと、祈る気持ちでいっぱいです。
6年経って変わったこと、変わらなかったこと。
変わりたくとも変われないこと。
変わりたくなくても変わらざるを得なかったこと。
未だ山積する様々な問題が、少しずつでも解決されていきますように。
 
お読みくださりありがとうございました。
春休みになったら、更新がんばります^^
 

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